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犬になった日  作者: 秋元智也
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第二十四話

昼過ぎに玲那の元に母親から連絡が入ったのだった。


『玲那、彰くんだけど…』

「もういいよ。学校休んでほっつき歩いてるんでしょ?もうどう

 でもいいわ」

『違うのよ。曽根崎を付けさせてた報告で拉致されて今、緊急手

 術を受けてるわ。腕は骨が折れてるし、頭部も…』

「…な、なによ…それ…」

『一応は知らせておこうかと思って…もしかしたらも考えておき

 なさい』

「ちょっと!何を言ってるのよ!冗談にしてはひどいじゃない!」

『冗談じゃないわ。信じないなら…○○病院へ行って自分の目で

 確認しなさい。』

「…」


切られた電話を握りしめると丁度そこに先生が教室に入ってきた。


「おい、席につけよ〜」

「…」

「おい、大西?席につけよ!」

「帰ります。私気分が悪いので、帰宅します」

「お、おぉ。保健室に行かなくていいのか?」

「はい、病院行ってくるので…」

「おぉ、そんなに悪いのか…お大事にな…」


ハッキリと言うと鞄を握りしめて、教室を飛び出した。


まだハッキリとは自分の気持ちに整理がつかないけど。

それでも、嫌いじゃないし、嫌ではなかった。


彰くんとの一緒の生活に嫌だった事は一つもなかったのだ。

気を使ってくれていたのだと知っている。


手を出さない礼儀正しさや、いつのまにかお手伝いさんの仕事を学ん

でやっていた彼に頼り切っていたことも多かった。


勉強も自分より出来るのはちょっと悔しかったりもした。


やっぱりそばにいてほしい。

今まで通り、一緒に暮らして、ゆくゆくは婿候補にしたかったのをきち

んと伝えなければと思う。


焦る気持ちを抑えながらタクシーを使って病院まで来たのだった。


そこには母の礼子も来ていた。


「来たのね」

「…どうなの?」

「まだわからないわ。玲那、あなたが一番わかってるんじゃないの?人

 の気持ちや、損得で動く人間の嫌な面を…」

「…そうだけど」

「彼はどんなだった?一緒にいて知ってるんじゃないの?」

「…それは」

「任せた仕事はきっちりやっていたわよ。私は婿候補として悪くないと

 思ってるわ。ただ一つ言うなら…悠仁の息子って事かしら」

「過去にこだわる必要…ないのかな…」

「彼はなんて言ったの?」

「知らないって…私の事…覚えてないって…」


礼子はため息を漏らしながら娘の玲那を抱き寄せた。

そのあとすぐに手術中のランプが消えて中から騒がしく看護師が走って

出てきた。


「家族の方ですか?」

「いえ、ですが、家族のように一緒に暮らしているので…」

「そうですか…できれば家族の方に…」

「この病院では私に口答えするのかしら?」


礼子の言葉に年長の医師が慌てて駆け寄ってきた。


「すいません、礼子さま、ただいまこちらで説明させていただきます。」


ぺこぺこと頭を下げながら機嫌取りをしている。

玲那はこう言うのが嫌いなのだ。

より、自分に有利な方へとすぐに裏切る。

こんな人間が一番信用ならない。


礼子はいつも有利な立場にいれば、こういう人は裏切らないという。


「こちらにどうぞ〜。えーっと、娘さんもですか?」

「えぇ、彼は娘の婚約者なの」

「それは、それは心配だったでしょう。安心してください、手術は成功

 しましたので後遺症はないと思います。ただ…過去にも同じ事が…」

「分かってるわ、それは事故なのよね?」

「はぁ、そのように書かれておりますね」

「ならいいわ。経過観察はしっかりしてちょうだい。」

「はい、わかりました」


話が終わると個室に運び込まれた彰の様子を見に行った。

眠ったまま目を覚さない。


初めに彼の部屋に行った時もすぐに倒れてしまい、目覚めるのを待った

のを思い出した。


「お母さん…前の事故ってなに?」

「それは…そうね、本人も覚えてない事なんだけど…彼は母親が出て行

 って、父親も帰ってこなくなってから母方の妹の家に預けられた事が

 あったの。そこで何が起きたのか知らないけど、大怪我を負ったの。

 それで記憶が曖昧になってる部分があるの。だから、もし玲那と会っ

 ていたとしても…」

「覚えていない…と?」

「そうなるわね。あったのは小学校の頃でしょ?事故にあったのはその

 後なのよ」


知らなかった。

誰とも関わろうとしなかったと思っていたが、違った。

中学でのイジメのことも聞かされると、人に対して臆病なのも頷けた。


目が覚めたら、ちゃんと言おう。

自分の気持ちと、これからの事を…

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