第二十三話
彰は朝起きると痛みに耐えながら部屋を出た。
玲那と顔を合わせるのは少し気まずいが、学校には行かない
わけには行かない。
勉強だって遅れてしまう。
せっかく家庭教師がついてくれたが、それももうおしまいだ
ろう。
「また一人…か…」
一人には慣れている。
ずっと一人だったし、優しかった両親はもうどこにもいない。
とぼとぼと歩いて行くと校門の前に会いたくなかった人物が
いた。
「曽根崎…せんぱい…」
「昨日は見つかりそうだったからな〜今日はしっかり付き合
ってもらうぜ?」
がっしりと腕を掴まれるとそのまま引きずられるように車に
乗せられたのだった。
金持ちの道楽なのだろう。
運転手は何も見ていないとでも言うように曽根崎の言う事を
聞いているようだった。
「おい、この辺でいい。」
「はい、おぼっちゃま」
「僕は学校に…」
「うるせーよ。ここで降りるんだよ」
「僕はもう関係ないんです。玲那さんの勘違いで…もう会わ
ないから」
「そんな事を信じろって?」
「はい」
ゴンっと音を立てて横の壁が凹んだ。
曽根崎が手に持っていたのはバールだった。
鉄のバールは、殴られただけでも重症を負うだろう。
昨日のように素手で殴られるのとは訳が違う。
「やめてください、本当にもう会わないし、話もしないので…
うっ…あぁっァーーー」
左腕に思いっきり振り上げたバールが当たるとメキッと嫌な
音がしたのだった。
痛みに蹲ると腕が動かない事にゾッとした。
(殺される………)
昨日の痛みもまだ抜けていないのに、こんなもので殴られた
ら本当に死んでしまう。
再び振り下ろされるのを、まるで他人事のように眺める事し
かできなかった。
ゴンっと音がして視界が真っ赤に広がっていく。
地面に倒れたのだと気づくがぴくりとも動かせない自分の
四肢に、死を覚悟したのだった。
パトカーのサイレンが聞こえてきたのはそんな時だった。
曽根崎を監視していた人の報告を受けて大西礼子が動かし
たのだった。
それは、間一髪と言ってもいい状況だった。
彰は発見されるとそのまま病院へと運ばれていった。
揺れ動く景色の中で、女の子が泣きそうな顔でしゃがんで
いた。
「どうして泣いてるの?」
「泣いてないかないもん!」
「そうなの?一人?」
「私は一人でも平気だもん!もう、大人なんだもん」
言っている事と、行動が全くあっていない。
泣きそうになりながらも必死に大人と主張する彼女の横
にそっと座った。
「なら、僕もここに居る」
「なによ!一人でも平気だもん」
「うん、僕が勝手に居るだけ」
「勝手にすればいいわ…くしゅんっ!」
「寒いの?これ羽織っていいよ」
男の子が自分の上着を差し出すと、彼女は戸惑いながらも
受け取った。
「くしゅんっ…!」
「寒いんじゃない!なら、一緒に羽織ればいいでしょ?」
「うん、ありがとう」
そう言って男の子と一緒に狭い公園の遊具の中で身を寄せ
合った。
しばらくして彼女には迎えが来た。
そして。あっという間に連れられるように帰らされた。
別れ際に名乗った男の子。
そして、何か叫びながらいなくなった女の子はどことなく
見た事がある気がしたのだった。




