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犬になった日  作者: 秋元智也
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第二十一話

誰もいないのをいい事に加減が聞かないらしい。

全身が痛くて動けなかった。


砂まみれで蹲っているせいか口の中にも砂が入ってきて

むせた。


「おい、しっかり言えよ!金輪際俺の玲那に近づかない

 ってさ〜」

「…ごほっ、ごほっ、おえっ……」

「吐いてんじゃねーよ!汚ねーな〜」


顔の上に靴の先が当たるとボールでも蹴るようにぐりぐり

と押さえてこまれた。


「やめて…くださっ……グハッ……」

「おい、誰が口を聞いていいって言ったんだ?言ってもい

 い言葉はたったひとつだろ?」

「嫌だ………そんなの、僕じゃ無理っ、うわっ!」


反論しようとした途端に腹に一発蹴りが入った。


息ができなくて苦しそうに悶えると遠くから誰かの声が聞

こえてきた。


「チッ…誰だよ、今日はこれくらいにしてやる。明日は逃

 げるなよ!」

「…」


逃げれない。

玲那がテニス部へ行くように言う限りは逃げる事など…で

きない。


「おい、大丈夫か?伊波!!」


声は遠くで自分を呼んでいるが、身体が動かない。

人並みの人生を送る事さえできないのかと思うと悲しくなっ

ていく。


薄れる景色の中で誰かが必死な声がする。

まるで泥沼に落ちていくかのような錯覚を感じながら眠りに

ついたのだった。



1時間前。


小金井は部室で伊波に会ってから、一向にコートに来ない事

に疑問を抱いた。


「あの〜先輩、伊波知りませんか?」

「は?伊波?一年か…部室は誰も居なかったぞ?」


部室の方から歩いてきた先輩に聞いても見ていないという。


「そういえば、ラケットが壊れたな〜あれってすげー高いや

 つだろ?ほら、曽根崎が雑誌で欲しがってたやつだよな〜」

「それって、どこにあったんですか?」

「ん?部室の椅子の上にあったぞ?お前のか?」

「いえ、違いますけど…」


それには見覚えがあった。

同じように学校のボロボロのラケットを素振りで使ってはいる

が、伊波のロッカーには有名ブランドのラケットのカバーがあ

ったのだ。


最初は彼が金持ちで、親に買ってもらったと思っていたが、そ

う言う感じはしなかったのだ。


それにテニスは初めてだという。

それにしては、色々と揃っていたが、好きでやっているように

は見えないのだ。


前に本人に聞いたことがあった。


「それって有名ブランドのだろ?もっと安いやつのが使いやす

 いぞ?」

「う…うん。でも、もらったものだから…」


苦笑いを浮かべながら言う割に嬉しそうではなかった。


誰にとは聞かなかったが、いい関係の相手とは思えなかった。

まるで、言われたからと言っているように聞こえたのだ。


「おーい!一年はコートの外に並べ〜。今から球拾いだ!それ

 が終わったらコートに入ってもいいぞ〜」


「すいません、ちょっと部室に忘れものしたので取ってきます」

「おい、急げよ!」


他の一年はゾロゾロ並んで行く中、小金井は部室へと戻った。

そこに置かれているラケットはまるで地面に叩きつけられたか

のように強い衝撃が加わって壊された感じだった。


「もったいない…やっぱり伊波のだよな…だったら伊波はどこ

 に…」


探し回るように校舎裏まで来ると怒号と共に嫌な予感がした。


急いで向かうとそこには地面に倒れた伊波の姿があった。

曽根崎が何度も蹴ると、微かに呻きながらも苦しそうに呻い

ていた。


「せんせーい、こっちです!早くきてください!」


大声で叫ぶと曽根崎は慌てるように走り去っていった。

近寄ると意識が朦朧としているのか、そのまま気を失って

しまった。


保健室へと運び込むと事情を説明した。


「また、彼かね…」

「またって、これは暴力ですよ!」

「でもね〜、妬まれるようなものを持っていたんだろ?それ

 は彼も悪いだろう?」


全く話にすらならなかった。

いいものを持っていて見せびらかした。

それが先生の見解だったのだ。


どう見ても、違う!


そう思えるのは伊波を知っている人間だけだろう。

すると、保健室に意外な人物が来ていた。


「伊波くんはどこにいるの?」

「彼なら手前のベッドだけど…君は…」

「私は大西玲那、彼のクラスメイトよ」

「どうして君が?」

「私が見舞いに来たらダメなの?」

「そうじゃないが…いや、なんでもない」


小金井が帰ろうとすると、引き止める声がした。


「ちょっといい?誰が彰くんをこんな目に合わせたの?」

「それは…彰くん?」

「そうよ、彼は私のモノなの。私彼を買ったの。だから私の

 モノを傷つける人は許せないの」


なんとなく、関係性はわからないが逆らえないと思っていい

ようだった。


「あんたが買ってやったラケット、高いよな?」

「えぇ、彼にはいいものを持っていてほしいもの」

「それが原因だって言ったら?」

「?」

「曽根崎先輩だよ、嫉妬だろ!」

「また、あの人か…ありがと」


またと言う事は、知っていると言う事だった。

小金井はそのまま帰ったが、今日の事が気になって仕方がなか

った。

人を買ったと言っていた。


それは、そのままの意味でいいのだろうか?

それとも…


考えるだけ無駄だと思うと、部活に戻っていったのだった。





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