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犬になった日  作者: 秋元智也
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第二話

今は何も不自由は無いくらいの生活ができている。

これも母親の両親が見捨てなかったおかげでもある。


母の奈津美の妹は彰の引き取りを断固として拒絶した。

理由は父の悠仁にある。


父の工場が上手く行っていた時に、母の妹が訪ねてきた時があった

のだ。

そこで、彼氏の就職を頼んだらしいのだ。

それをバッサリと切り捨てたのだという。


「何様のつもりよ!マジで傲慢なんだからっ!おねーちゃんあんな

 奴と別れた方がいいって〜」


と家で愚痴っているのを幼い時に毎日のように聞いて育った。

そして、いきなり会社は倒産した。


融資もしてもらえず、驚くほどあっけなかった。

そして、家族はバラバラになった。


思い出すだけでも、嫌気がさす。


「普通の家庭に産まれたかったな…」


無いものねだりのようにいつも考えてしまう。

スマホの一件の着信が入っていた。

父のもののようだった。


学校の帰りに留守電を聞くと何か走っているのか息が切れ切れと聞

こえる。

荒い息のなか、唯一聞こえてきた言葉があった。


『彰、聞こえるか?…げろ…今すぐに…逃げてくれ…』


途中でプチって切れてしまっていた。


「なんだよ…これ…」


不思議に思いながらも、家の帰るとアパートの部屋の前に見知らぬ

男達が立っていた。


「すいません。そこ…どいてもらえますか?」


何やら顔を見合わせると彰の顔をじっとみてきた。


「伊波…彰であってるか?」

「…?は、はい…そうですけど…」

「なら、話がある、ちょっと中に入れてくれるよな?」

「えっ、ちょっと…」


問答無用とばかりに勝手に入ってくる。

二人の体格のいい男達は彰の目の前と真横に座ってきた。

全く身に覚えはない。


机の上に何か一枚の紙を取り出してきた。


「あの…なんですか?それって…」


恐る恐る聞くと見えるように近づけてきた。


「えーっと、これは…」

「俺達のところから借りた分の金額だ。きっちり返して貰おうと思

 ってな〜」

「借りた?それにこの金額って、一、十、百、千、万……」

「きっちり4千万だ!」

「そ、そんなお金ないです!」

「しかしな〜ここにサインがあるだろ?見えるか?伊波彰って書い

 てあるだろ?」

「ちがっ…こんなの知らない…」


ドンッと大きな音がして机が軋んだ。

横の男が机を叩いた音だったようだ。


見たこともない金額にただ知らないとしか言いようがなかった。

住所もここになっている。

借主に彰の名前が書かれており、保護者に父の悠仁名前がある。


「こ、これ、僕じゃ…」

「名前はお前だろ?なら、返すのも誰かわかるよな?」

「そんな…こんなお金ないし…」

「そうだ、人間はな〜身体の中に臓器ってもんがいっぱいあるんだよ、

 一個くらい無くなっても困らないものがいっぱいあるんだ。分かる

 か?」

「なっ…」

「明日、また来るからそれまでに荷物纏めてけよ。逃げようなんて思

 うなよ?逃げたら残すものもないくらいに刻まれるだけだがな〜。

 顔もいいし、せっかくならそっちの趣味の奴に貸出しするってのも

 いいかもな〜。考えておくんだな…」


そういうと帰り際に玄関に置いてあった傘を半分に折ると放り投げて

きた。


その日は…バイトには出なかった。

明日は学校にも行く気分でもない。


布団にくるまると自分の境遇に涙が溢れてきた。


どうして自分だけが…どうしてこんな事に…

悪い事など何もしていないのに…


ただ、両親の子供として産まれてしまっただけなのに…


母に助けを求める事はできないし、母の両親にお金の無心などでき

ない。

これまでだって、文句を言いながらも出してもらったのだ。

これ以上は頼めない。


せっかく入った高校なのに…友人と部活をしたり、買い食いしたり。

そんなささやかな願いすら叶わない。


もし、逃げ出したら…

いや、逃げたってすぐに行き先はバレてしまうだろう。


遠くに逃げるお金だってない。


ため息と共に天井を眺めながら自分の人生を振り返っていたのだった。




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