第十八話
玲那と一緒に行く映画は人生初でもあった。
みんなの話題に良くあがるが自分には関係のない事と思ってい
たので少し楽しみでもあった。
『命令』と言われたが朝からうきうきしていた。
が、行った先は美容院?
入ってみると一斉に迎えられる。
そこは玲那の行きつけらしい。
奥の豪華な部屋に案内されると少し怖気付く。
「僕は入り口で待ってるから…」
そういうと、出て行こうとした。
が…玲那に止められ、椅子に座らされた。
どうも、彰のボサボサの髪型が気に入らないようだった。
しっかりアイロンをかけられストレートの髪質にされた。
髪色も少し明るめに、そして前髪はバッサリと切られた。
視界は良好になった。
身だしなみを気にする事なんてなかっただけに鏡越しに見る姿が
一瞬誰か分からなかった。
「うんうん。いい感じだね。先にご飯にしよっか」
「あ、うん…」
美容院を出た後はどう見ても高級そうな店に入った。
「ここに入るのか?僕だけ浮いてないか?」
「大丈夫よ。その服だって私が選んだやつでしょ?ちゃんと着て
くるなんて偉いわ」
それ以外に来ていける服がなかったのだ。
同棲するからと恥じない様に何着も服を買って貰っていた。
が、家で着るにはと思ってクローゼットにしまい込んでいたもの
を昨日引っ張り出してきたのだった。
孫にも衣装。
そんな言葉が似合う出立ちだったが、髪を整えた事でさほど違和
感はなくなった。
食事のマナーなんてはっきり言って分からない。
そんな事などお構いなしに料理を注文していく。
「いい?外側の手にとって、皿はできる限り音を立てない様に切
って食べるの」
「あぁ…やってみる…」
ギギギッと擦れる音がしてくる。
カチャ、カチャッ…
疾苦八苦しているのがわかるが、説明は全部口頭で言った。
確かに美味しいが、これでは食べている気がしなかった。
食事を終えると映画館へと入った。
チケットは先に買ってあったらしい。
「座席指定?」
「そうよ、ここの番号のところに座るの。」
「A2シート、A…2…?シート?」
玲那が先に見つけると手招きしてきた。
そこは大画面を真ん前で見れる席で長椅子の様になった席だった。
「これが………映画館かぁ〜」
「そうよ。こっちはちょっとリッチなのよ!」
(まさかカップルシートなんて言えないわね…)
彰には座席に区別されてることすら知らないのだった。
恋愛ものだったが、予想以上に面白かった。
ラストの感動シーンはホロリとくるほどで、悪くないチョイスだ
った。
「すごいのな〜」
「よかったでしょ?」
「あぁ、確かに大きな画面で見るのもいいな!」
恋愛ものを見ながら肩が触れ合う距離というのが玲那の作戦でも
あった。
が、みごとに打ち砕かれた。
終始見入っている彰の邪魔する事ができず、ただ普通に見ていた
だけになったからだ。
「楽しめたのなら、よかったわ」
「あぁ、また来たいな…」
「そう?ならっ…」
「玲那さんじゃないですか!こんなところで会うとは奇遇です
ね?」
映画館を出て少ししたところで後ろから声がしてきた。
聞き覚えのある声。
それはテニス部の問題児、曽根崎新だった。
隣には両サイドに彼女らしき人を抱き寄せながら玲那に声をかけ
たのだ。
「ごきげんよう。今、デート中なので…」
「デート?その汚らしい男か?まぁ、いい。今からどこか休める
ところへ行きませんか?ほらっ、お前らは帰っていいぞ」
虫でも払うように彰の方に手でシッシッと振り払う。
「悪いのですが、今日は玲那さんは僕を指名してるんです。邪魔
しないでくれますか?」
「あっ…」
咄嗟に言った言葉だったが、玲那の前に出るとハッキリと言った。
本当はこんな事言うつもりではなかった。
が、命令されたのは家に帰るまでだ。
「それに女性を両手に連れて、他に女性に声をかけるなんて非常識
ですよ?」
「なっ、平民風情が…」
財布から数枚の万冊を取り出すと床に投げた。
「拾え!それとも足りないか?」
どれだけ入っているのだろう。
結構な枚数を床に落としていた。
「お断りします。ご自分で拾ってください。玲那さん、行きましょ
うか?」
「そうね。」
差し出した手を取るとそのまま家に向かって帰る。
家に着くとどっと疲れた気がする。
「彰くん!今日はかっこよかったよ!」
「そうか?さっきの曽根崎先輩だよな〜、やっぱりやばかったかな〜」
「何をくよくよしてるのよ!せっかくかっこよかったのに〜」
「そう言われてもな〜」
さっきは気づかれてなかったけど、すごい目で睨まれていた。
学校で会ったら、絶対にタダじゃ済まない気がする…
憂鬱な気分になりながら、風呂に浸かると目を閉じたのだった。




