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犬になった日  作者: 秋元智也
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第十六話

月が変わって玲那から封筒が渡された。


「これは?」

「小遣いよ。今月分いるでしょ?」

「あのさ…その事なんだけど…バイトさせてくれないかな?」

「どうして?それだけじゃ足りないの?」

「違う…そうじゃなくて…もらうのが申し訳なくて…」

「いつも朝起こしたり、料理したりしてるのに?」

「えっ…知ってたのか?」


勝手にやっているだけなので、まさか知っていたとは思わなかった。


「報告が上がってるのよ。私の…主人の目を盗んで何をやってるかく

 らいは知ってて当然でしょ?」

「何か働かせてほしい。お金を稼ぎたいんだ」

「稼いでどうするの?まさか自分を買い戻したいなんて言わないわよ

 ね?」

「あっ……」


沈黙が流れると玲那がいきなり持っていたコップを床に落ちした。


「呆れた…4千万稼ぐのに何年かけるつもりなの?利子はどうするの?」

「それは…少しづつ返そうかと…」

「もし返し終わって、またあの父親の借金の方に売られたいの?」

「それは…」


確かに、ここにいればもう二度とあんな事はないだろう。

弁護士もついている。


そして何よりこのマンション自体の警備が厳重なのだ。

分かってはいるが、ずっとこのままという訳には行かないだろう。


「今は僕達は高校生で、稼ぐ量だって少ないけど…将来玲那さんに好きな

 人ができたとしたら…僕は必要ないでしょ?それまでに僕は自分自身の

 力でやっていけるだけの腕を磨かなければならないんだ…だから…」

「その必要はないわ。」

「それは…どういう…」

「この話は終わり。そんなに働きたいなら仕事をさせてあげる。ただし、

 時間は学校から帰ってきてから夕飯ができるまでよ。それと、仕事内容

 はこっちで決める。いいわね?」

「あ、あぁ…それで構わない」


玲那は自室に帰るとものすごく動揺した。

今の暮らしを歓迎しているのは自分だけだったのか?


いや、こんな美人と一緒にいれば興味が出てくるはず…。


それなのに、彰の態度は最初と変わらない。

いや、最初の時よりそっけなくなってきている。


これでは当初の計画が全く進まない。

母に相談すると、予想外な答えが返ってきたのだった。


『それなら事務処理をさせたらいいじゃない?家でもできるしワード使

 えるでしょ?』

「でもさ〜、それってやっぱり私から逃げたいって事なのかな〜」

『そんな事は聞いてみればいいじゃない?あの人の息子ってのが引っか

 かりはするけど…彼、意外と誠実そうだし…』


確かに母の言う通りだった。

一緒に暮らしてみて分かった事は、興味がないのか、どんなに色仕掛け

をしても乗ってこないという事だった。


少しは期待していたのだが、ここまで興味なさげにされると悲しくなっ

てくる。


どうしても振り向かせたい。

デレさせたい。

自分に夢中にさせたい。


あの優しい笑顔を自分だけに向けさせたい。


あまり笑わなくなった彼に、玲那が笑顔にさせるんだと誓ったのだ。

それから暫くして試験の成績が発表された。


もちろん上位には玲那の名前があった。

が、そのすぐ上に彰の名前も記載されていたのだった。


もちろん同じ家庭教師に診てもらっているので、それなりにできると

は思っていたが、少し想像以上な事でもあった。


今日は母も家に来ている。


「彰くん、働きたいって言ってたそうじゃない?」

「はい」

「なら、今日からいいかしら?」

「僕にできる事ならなんでも」

「今からこっちにデータを送るわ。やる事は簡単よ。集計とそれを表

 にまとめる事。もちろん見やすくって言うのは前提でね」


じっと眺めるとパソコン画面に釘付けになった。


「こうやって動かしていくの。あとは感性ね。例題として資料は置い

 てくわ。過去の作ったやつもね。見て勉強してちょうだい」

「はい、ありがとうございます」

「いいのよ。これからはデータはUSBに入れてくるからできたら玲那

 を通して渡してちょうだい。いいわね?」

「分かりました」


母親の礼子は素直そうに返事をしてくる彰を眺めながら頷くと玲那に

手招きした。


「ちゃんと言ったの?」

「ま、まだだから!」

「そう?彼なら話してもいいと思うわよ?きっと変わらないわ」

「そんな事…」

「これは母親の勘よ。じゃーまたね」

「もうっ!お母さんったら!」


ニヤニヤしながら出ていく母親に顔を真っ赤にしながら講義したのだ

った。


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