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犬になった日  作者: 秋元智也
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第十五話

彰が目を覚ました時、いつもの部屋に横たわっていた。

記憶は曖昧で身体が重い。


喉がカラカラで起きあがろうとしたがふらついて床に転げ落ち

ていた。


ゴトンっと大きな音がしたせか、廊下を足音が近づいてきた。


「彰くん!」


目を覚まして転けたままの状態で見上げると心配そうに見つめ

てくる玲那の姿があった。


「ごめん…ちゃんと動けるから…あれっ…」


壁を伝って立ち上がるが、まだフラフラして足元がおぼつかない。


「もういいから…ちゃんと病人は寝てなさいよ」

「役に立たなくて…ごめん…」


落ち込む彼を見たかったわけでも、反省させたいわけでもない。


「こほっ、こほっ、けほっ…」

「熱があるの、ちゃんと休みなさい。命令よ」

「う、うん…」


苦しそうに咳をしながら布団に戻るのを見届けてから飲み物と薬、

そして軽い食事を部屋に持っていった。


ぐっすり眠っているのを見ると昔のままな気がする。

もしかしたら、聞き入れてくれるかもしれない。


彼なら…きっと変わらないでいてくれる…

少しの期待と、不安が入り混じる。


2日間休みをとっている間に、学校では大きく変わったことがあっ

た。

それはテニス部であったいじめ、体罰の事であった。

動画として撮られた証拠を教育委員会にも持ち込んだ事で大きな

波紋を呼んだのだった。


当事者は倒れて動けないほど重症だと言ったせいで余計に事が大

きくなった。

それも大西さんがそれを声高に言った事で余計にだった。

大西玲那の母親は敏腕弁護士だ。


それを敵に回したいところなど、ない。


玲那は朝起きると彰の熱を測りにいった。

すでに起きていて、熱を測り終わったところだった。


「何度だったの?」

「ん?…36度2分、平熱かな…」

「そう、学校はどうしたい?」

「どうしたいって、今日からテストでしょ?休む訳にはいかない

 よ…」

「そう…ちょっと騒がしいけど、気をつけてね」

「???」


何を言っているのかさっぱりだったが、学校についてから理由を

知った。


誰かが、自分が殴られているのを撮っていたらしかった。

そして暴行した生徒は自主退学になっている。


それも問題を起こした分の罰金までついているらしい。


金持ちの道楽ならまだしも、半数は一般人だ。

そんな彼らが払える金額ではない。


だが、これも抑止力なのだろう。

ため息を吐き出すと自分の席に座った。


「よ!あっきら〜」

「和泉くん」

「大変だったな〜。身体は大丈夫か?倒れたって聞いたぞ?」

「あっ、それは…」


疲れもそうだが、熱を出したとは言いづらい。


「知ってたか?伊波が休んでいる間、大西さんがこの事を論議の

 議題に挙げたんだぜ?」

「論議の議題?」

「そう、あのお嬢さまが一般の生徒の安全を守る様に掛け合って

 くれたんだよ〜俺らの事もしっかり見ててくれるんだな〜って

 感動したぜ!!好きになってまうやろ〜〜〜」

「あぁ、なるほど…それで騒がしくなるって…」


朝の言っていた事はそういう事だったのだ。

有坂が言ったことに和泉が言葉を続けたのだった。


彰には全ては他人事の様に思えていた。

誰が何を騒ごいが、自分の立場は変わらない。


自由の様で自由になれない。

お金に縛られ続ける未来しかないのだ。


「おーい、席につけ〜!試験を始めるぞ〜」


担任が入ってくると試験用紙を配っていく。

彰を見ると少し怪訝な顔をしたが、すぐに振り返った。


最近は家庭教師もついているせいか、解けない問題のがほとんどな

かった。


試験用紙を眺めても大して何も考えず回答を書き込んでいく。

趣味は勉強というくらい、お金を使わない遊びをしていた彰には、

なんら困らない。


3日間に及ぶ試験を終えると、早く帰れた。


「あっきらくーん!この後どうだ?」

「そうだぞ、勉強ばかりじゃ疲れるだろ?気晴らしに行かないか?」


試験最終日の帰りに和泉と有坂が誘ってくれた。

が、彰は首を縦には振らなかった。


「ごめん…まだ体調が悪いんだ…」

「そっか、それは悪かったな。気をつけて帰れよ!」

「あぁ…」


別に身体は悪くない。

やりたい事もない。


玲那がチラリとこちらを見た気がしたが、すぐに鞄を持って帰路につ

いたのだった。


最近は早く帰ってきた。

お手伝いさんが帰る前に色々と手伝っている。

別にやらなくてもいい事ではあるが、覚えて損はない。


なので最近の料理はお手伝いさんと彰の共同作業になっている。

最近は彰だけで作っている時も多くなった気がする。


もちろん玲那は報告書で知っている事でもあった。



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