第十四話
部屋に入ったはいいがその場に座り込むと頭の中がぐわんぐわんと
揺れた。
ヤバいと思った時には床に倒れた事を知った。
軽く身体を打ちつけたせいか殴られた場所以外も痛みが走る。
「ちょっと!彰くん!!」
何か騒ぐ声が聞こえるが、気にする余裕もなくなってきた。
視界が歪んで見えない。
(あー…やだな〜どうして普通ができないんだろ…)
慌ただしい音が聞こえてくる中、意識が途切れたのだった。
その頃、目の前で彰が倒れて、一向に目を覚さない事に玲那は慌て
ていた。
「お母さん!どうしよう!目を覚さないし、冷たいし、どうしよう」
『落ち着きなさい。何があったの?』
「それが…彰くんが、………」
事情を説明しているうちに救急車を手配したのか一階が騒がしく
なった。
『玲那、しっかり聴きなさい。今から行くからちゃんとするのよ!』
「う、うん」
玲那の母親礼子は一階についた救急隊員と一緒に部屋へと入った。
倒れたままの彰にタオルをかけて温めようとしていた玲那を引き
剥がし救急隊員に任せる。
そのまま病院へと運ばれると解熱剤と点滴を打ってから帰宅許可
が降りたのだった。
「もう、慌てすぎよ?」
「ごめんなさい。いきなり倒れるんだもん…」
「もう、いいわ。事情は分かったわ。でも、同じ人間なの。それに
彼はあの子なんでしょ?直接話したらどう?こんな試す真似して
ないで、ちゃんと話せばいいじゃない?」
「でも…お金があると、みんな人が変わった様になるんだもん…」
玲那の言いたいことは分かる。
金持ちで、容姿がいいとそれだけでチヤホヤされる。
だが、実際付き合ってみると想像と違うと思われる。
それに生半可金持ちとなると、自分の感情より優先させる気持ちが
ある。
これを玲那は嫌っていた。
損得で人を判断して、自分の理想を押し付けてくる人は非常に多い。
そんな中で、小さい時に親切な少年にあった。
周りはみんな子供であっても大西の姓に惹かれて集まってくる貪欲
な連中ばかりだった。
それが嫌になってある日、家を飛び出したのだ。
しかし、道に迷って困った時に公園で泣きそうになっていた玲那に
寄り添ってくれた子がいたのだ。
「帰らないの?」
「帰りたくない…私、一人でも平気だもん…」
今にも泣きそうな顔で意地を張った玲那にそっと何も言わずに上着
を着せて隣に座り込んだ。
「帰るまで一緒にいよっか?」
「いいの?家族は心配しないの?」
「うん、大丈夫。君の家族は心配しないの?」
「あ…分からない」
「一緒に帰る?」
「帰らない!」
「なら、ここに一緒にいよっか?」
笑顔で何の忖度もない純粋な優しさだった。
あの時の少年を探している。
あの後、玲那の捜索が行われて公園で見つけられると即座に家に帰
された。
「待って!名前教えて〜」
「あきら。彰って言うんだ〜またね〜」
あの時、自分は名乗りもしなかったのに、彼は不思議と
『見つけてくれてよかったね』
と言ってくれた。
意固地になっていたのもあるが、心細い気持ちでもあった。
そんな時に出会ったせいか、ずっと気になって仕方がなかったのだ。
それ以来、すぐにその公園周辺で探してもらったが、どこにも見つ
からなかった。
やっと見つけた時には家族離散した後の彼だった。
あの時の笑顔はなく、ただ毎日を生きるだけで精一杯だった。
こんな時に名乗りでたら、きっといつもの様になる。
彼まで思い出を汚す様な事を言って欲しくなかった。
だから、わざとピンチになる様に仕向けた。
そして、助ける様な形で彼をお金で縛ったのだった。




