第十二話
南野蘭子、彼女は玲那の昔からの友人だった。
お金持ちのお嬢様でもなく、ただの一般市民だ。
だが、玲那の信頼は熱く、誰にも彼女の間を引き裂くことはできな
いほどだった。
「はぁぁぁぁーー!?ちょっとどう言うことよ!それ…」
「だから〜一緒に住んでるんだって〜」
「男よね?嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ?」
「なんでよ?わざわざ助ける必要ある?絶対にそいつ勘違いするっ
て!」
「それがさ〜ないのよ…」
残念そうにいう玲那に蘭子は驚いた。
いつも男子の告白にうんざりしている彼女が、わざわざ借金を方代
わりして助けた男子生徒を家に連れ込んだと聞いた時は耳を疑った。
そして、二人っきりで住んでいると言うのだ。
絶対に男なんだから襲ってくると断言したのだが、玲那は全く想像
すらしていないのかと思いきや、その逆だったのだ。
手を出さない事を言っておきながら、逆に我慢の限界を探っている
のだ。
むしろ、襲ってくださいと言わんばかりの作戦を聞き、蘭子は驚き
に口が塞がらなかった。
「バカじゃないの!そんな事してたら絶対に危ないって!」
「だって〜…今度は風呂中に行ってみよっかなって〜って思ってて〜」
「ダメ!絶対にダメ!それ、危険すぎるって!」
「大丈夫だよ〜。私こう見えて結構強いんだよ?」
小さい時から格闘技をやっていたのでそれを自慢げにいう。
それでも男と女の差はどうしてもある。
しかも同じ部屋にいるのだ。
いつ襲われるのか心配をすべきなのに、着替えまでさせているという。
女から見えても色っぽくて可愛いと言うのに、それを無防備に晒せば
どうなるかぐらいの想像はつくはずだった。
「だから〜お願い!蘭ちゃん、わかる事でいいから情報集めて欲しい
の!」
「もう〜仕方ないわね〜。でも、本当に用心しなさいよ!」
「うん、うん、ありがとう〜蘭ちゃん、だーいすき!」
抱きつかれると蘭子とて平静を装うのに苦労する。
「全く、どんな奴よ!ちょっといじめてやろうかしら…」
蘭子は親友の玲那の為に、伊波彰という人物について聞き回ること
にした。
金持ちの道楽と言われるテニス部に入っている。
一年のせいか素振りしている姿しか見えない。
たまに曽根崎に声をかけられていた。
仲は悪くないらしい。
「意外ね…世渡りうまいのかしら?」
そして部活が終わる頃になると先輩達に囲まれて一緒に居なくなっ
た。
「これは何かあるわね!ふっふっふっ、私の視界から消えれると思
わないでよね〜」
裏に回り込んで話を聞こうと身構えた。
が、それは予想外な事だった。
さっき素振りしていたラケットで殴られ、蹴られと思いっきりこれで
は体罰ではないか!
それに…抵抗すらしない。
ただ我慢して耐えているだけだった。
そこへもう一人来た。
小金井渉だ。
彼は、伊波を守る様に先輩に反抗して一緒に殴られるが、彼は抵抗
を見せた。
蘭子はすぐに動画を撮って学校側へと提出した。
これには意外だった。
テスト前にこんなことがあったなんて。
調査対象の虚な目を見るとどうしても、普通の男子と同じには見えな
かったのだった。
帰ってくる時には雨が降り出していた。
傘は持ってきていたが先輩に壊されてしまってない。
どうやって言い訳しよう。
玲那に買ってもらった傘だ。
その辺の安物ではなさそうだった。
びしょ濡れで帰ってきた彰に近寄ろうとしてきた玲那を止めさせた。
「ただいま…」
「おかえり〜って、なんでそんなびしょ濡れでなの?タオル持って
くるから待ってて。」
「いや…いいよ。風呂使うから…いいかな?」
「いいわよ。先に使って。」
玲那はタオルを渡した。
彰の表情は見えない。
そのまま洗面所へと向かったのだった。




