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【第一話】ヴァンパイアとの冒険①


 太陽がサンサンと輝いている。


 高校夏の真っただ中、夏休み恒例の早朝ラジオ体操に間に合うよう午前5時に起きた俺は、海の向こうから上がってくる太陽を窓際から覗いていた。


 「おはよう、俺。今日もまぶしいなぁ」


 太陽に向かってつぶやいた。


 中二病かと思われるかもしれないが、俺は太陽の化身だと本気で思っている。だから、この言葉は今日も人々のために昇っている俺に対してのねぎらいの意味があった。


 ラジオ体操は6時から始まる。それまでの約一時間、するべき支度を終わらせるのが夏休みの日課になっていた。


 寝床の整理、着替え、軽い朝食を済ませ、ゴミ捨てに出る。


 ここは東京から離れた田舎と都会のちょうど間、高校に通うため借りた賃貸からゴミ捨て場まで絶妙に距離がある。


 いちいち服装を整えてから家を出て捨てに行く必要があるのがネックではあるが、俺はこの時間が好きだった。


 両の手にゴミ袋を抱えて道を歩くと、必ず右側に太陽がある。昇る朝日を全身で受けるこの時間が、いつも頑張っている自分にとっての最大のご褒美だった。


 目的のゴミ捨て場までやってきた。この時間帯ではまだ誰もゴミを出しに来ていない、いつも俺が一番乗りだった。


 が、この日は違った。


 「よいしょっと...。ん?」


 ゴミを下した時、ゴミ捨て場の端にかすかに輝くものが映った。


 誰かが何か捨てたのか、気になって近寄って見てみると、それは黄金と鮮やかな赤色に輝く宝石があしらわれたネックレスだった。


 初めは何かのおもちゃかと思ったが、金属の光沢感や宝石の輝き方が安物らしくない本物の様子だった。


 「これは...、捨てたにしては変すぎるな? 概ね誰かが気づかずに落としたんじゃないか?」


 ネックレスを拾い上げ、近くで宝石の中を覗いた。中には紫色の宝石でコウモリの形が作られていた。


 見たことのない技法であしらわれた宝石と近くで見れば見るほど細かな模様や装飾の施された黄金は、明らかにこの場所に有ってはいけない美術品だと確信させた。


 どうするべきか、こんなの明らかに高級品である。俺は学生の身、もともと家族と住んでいたのを無理やり引っ越して一人で住んでいる手前、ずっとお金に困っている。


 これがもし偽物だろうと、売ってしまえばいくらか生活の足しになる。一瞬、そんな考えがよぎった。


 今は早朝、この現場を見ているとしたら太陽ぐらいである。ここで盗んでしまおうが誰にもとがめられないし、そもそもこんなところに高級品を落とすものが悪い。


 「でも、これ落とした人は困ってるだろうな...」


 自分が落とした側だったら、そんなふうに考えたら売るだなんて考えが吹っ飛んだ。


 きっとこれを落とした人は、半泣きになりながら探しているであろう。それなら自分がすべきことは、これを落とした人を探し出して届けてあげる事だけだ。


 少し残念だけど、このネックレスは売らない。持ち主を探す!そう決心し、空を見上げた。


 夜が明けたばかりで、空はほのかに暗かった。朝焼けだ。


 太陽の反対側には、まだ沈んでいない月が見えた。


 「お、残月だ。何気にこの季節に見れるのはラッキーだな」


 太陽と月のセット、これは今日はいいことがありそうだ。




 そう思った瞬間だった。


 あたりが目も開けられないほど激しい光に包まれた。


 「え?なになに!?ナニコレ!?」


 いきなりのことで動揺し、目もくらんで一瞬よろけてしまった。


 何もできないまま身を守るようにかがんでいると、風が吹くような激しい異音と共に地面が回転する感覚が足先から伝わってきた。



 しばらくすると、異音も回転していた感覚もなくなり、周囲を包んでいた光も弱まっていた。


 何が起こったか瞬時に判断することはできなかったが、目を開けた瞬間衝撃の光景が目に入った。


 さっきまでいたゴミ捨て場とは違う、ド田舎の森のような何もない場所にいた。明らかな別の場所、それによく見たら空は真っ暗である。


 手に持っていたネックレスの宝石は、さっきまで光を放っていたかのように徐々に発光を弱めていく。


 何が起こったのか、自分には到底理解できなかった。ただ唖然、しかもここは若干寒い。さっきまでいたところは蒸し暑かったせいで今は半そで半ズボンだ。


 しばらくの硬直。ただ呆然としかできない状況が続いていた。


 『ガサガサ...』


 突然茂みの方から音がした。


 「やっと、やっと見つけたぞー! この盗人め! 私の大切な首飾りを返せ!」


 いきなりの怒声に、思わず体がビクン!と反応し、その方向へ振り向いた。


 「って、あれ? さっきの盗人じゃないわね? しかもそんな軽装でこの森をさまよっている人間なんて」


 あたりが暗いせいで、周りの木々はよくは見えなかったが、そこにいた者の姿は月光に照らされていたからはっきりと分かった。


 金色になびいた髪を一つにまとめた、赤い瞳の、俺と同い年くらいの女の子。


 初めは人なのかと思った。でも、確かにこの目で見た。


 その女の子に背中に、黒くしなやかな飛膜の張った羽が生えていたのを。


 確信した。


 俺は、何か大変な境遇にあっているのだと。


 






主人公の名前がまだ出てきていませんが、2話以降からわかります。

続きが気になるという方は、ブックマークとかしていただけると見やすいと思います。

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