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貧乏子爵家令嬢の真の価値



「そして、そなたが散々貶しおった、そこな子爵の息女エリザベス嬢だがな」


 ショックを受ける第六王子殿下に冷ややかな目を向けながら、陛下がさらにお言葉を続けられます。


「子爵家の初代の妻が王孫であることはすでに知っておるな。では二代の妻が、当時の臣籍降下した公爵の孫娘だと知っておるか?」


「…………は?」


 そうなのです。二代目のお祖父様の妻は伯爵家からいらしたのですが、その伯爵家に嫁がれたのは、臣籍降下され公爵位を賜った当時の王子殿下の娘の公女様でした。祖父の妻、つまりわたくしの父方のお祖母様は、その公女様が伯爵との間に儲けられた娘なのです。

 当時の伯爵家の思惑は今となっては定かではありませんが、おそらく王家の覚えもめでたい我が子爵家と縁を繋ぐことに利を見出されたのでしょう。そのためわたくしは、伯爵家から輿入れした祖母を通じて、公爵家を興された元王子殿下から数えて五代目の血族に当たるのです。

 わたくしは父方の曾祖母を通じて五代血族、祖母を通じても五代血族ということになります。


「で、ですが父上、それでもこの女は⸺」


 まあ、これだけではわたくしは王家血族とは言っても、王族の血筋としては1割ほどの末端の血族に過ぎません。曾祖母からは16分の1、祖母からも16分の1です。

 けれどね、殿下。


「まあ、そうじゃな。エリザベス嬢の父方の(・・・)血筋だけではまだ第六王子(そなた)の方が血が濃ゆい。だがな」

「………………まさか」


 そのまさかですわ、殿下。


「そこな子爵の妻は隣国からの(・・・・・)輿入れ(・・・)だと知っておるな?」


「…………そ、そんな、まさか」


「さすがにこれで分からぬほど愚鈍ではなかったか。⸺ま、そなたの考えておる通りじゃ。エリザベス嬢の母方の(・・・)曾祖母(・・・)が、初代子爵が守って隣国まで送り届けた当時の王女、そなたの曾祖父の王妹じゃよ」



 そうなのです。曾祖父(ひいおじいさま)がお守りして隣国の国王様に嫁がれた当時の王女様、この方は三代前の陛下の王女(むすめ)に当たる方です。その方の娘のおひとりが隣国の伯爵家に降嫁され、さらにその娘が国境を越えて領地を隣接する我が子爵家へと嫁がれたお母様なのです。

 曾祖父に命を救われた王女様、つまり隣国の王妃様は、生涯我が曾祖父への感謝を忘れなかったそうです。すでに婚姻も決まり嫁がれるさなかの出来事だったため、曾祖父に嫁ぐことこそ叶われませんでしたが、できることなら妻になりたかった、とまで公言なさったことがあったとか。

 曾祖父の婚姻は、その隣国王妃様からも口利きを頂いた上で当時の我が国の国王陛下がお決めになったことだそうです。そして王妃様ご自身も、ご自分の孫娘が曾祖父の孫へと嫁ぐことを、とてもお喜びになっていらしたと伺っています。


 つまりわたくしは、母方の祖母を通しても隣国王妃様を初代とする四代血族に当たります。8分の1ですね。


「い……、いやしかし、それでも!」


 あら殿下、まだ諦めておられませんわね。


「隣国に嫁いだ王女が娘を嫁がせた伯爵家だがな、父の公爵から爵位分けで独立した分家であることは知らんだろう?」

「えっ?……そ、それが、何か……?」

「その初代伯爵、つまりそなたが散々貶しておるエリザベス嬢の母方の祖父だが、その祖母は余の曾祖父、つまり三代前の陛下の王妹なのだがな」


「………………は?」


 そうなのです。初代の曾祖父がお守りした隣国王妃様の叔母、つまり三代前の陛下の王妹殿下がわたくしの高祖母、母方の祖父の祖母に当たります。高祖母は隣国の公爵家に輿入れされました。

 三代前の陛下の王妹殿下が嫁がれたのは、隣国王家の分家でもある公爵家。その娘である公女様は隣国の別の公爵家に嫁がれました。その公爵家同士の縁組で生まれた三男が公爵家分家の初代伯爵、つまりわたくしの母方の祖父(おじいさま)です。

 その祖父に、隣国に嫁がれた王妃様の王女(むすめ)のおひとりが嫁がれ、そして生まれたのがわたくしの母なのです。


 わたくしの母方の祖父と祖母の婚姻は、隣国王家と隣国の公爵家との縁つなぎ。加えて我が国から嫁がれたおふたりの王女様の血統を濃くする意味合いもあったそうです。そうすることで我が国の王家宗族が隣国でも力を発揮するのですから。

 事実、母方の祖父である伯爵様は我が国でも伯爵位をお持ちで、折りにふれて我が国を訪れては、我が子爵家にもお立ち寄りくださり私のことも可愛がってくださいました。第六王子殿下との婚約も、それは喜んでくださいましたのに。


 そしてその母方の祖父を通じて、わたくしは王妹殿下から数えて五代血族となります。


「そんな……王家の、血統が……四本……」



 その通りですわ、殿下。わたくしの身には四本の王家血統が流れているのです。

①父方の曾祖母(三代前王の王妹の娘。16分の1)

②父方の祖母(三代前王の王弟=公爵の孫。16分の1)

③母方の曾祖母(隣国に嫁いだ先々代王の王妹。8分の1)

④母方の祖父(隣国の公爵家に嫁いだ三代前王の王妹の孫。16分の1)


 ちなみに①と②と④の王妹、王弟というのはいずれも三代前の陛下の弟君、妹君でいらっしゃいます。三代前陛下がご長男、以下①がご長女、②がご次男、④がご三女だそうです。今上の陛下がわたくしの父世代ですから、わたくしは四代前の陛下のお子たちを初代とする五代血族、それに三代前の陛下の王女殿下を初代とする四代血族ということになります。

 なお血統を数える際は、王家の直系から『宗族』として立った方を初代と数えます。王の在位中はその子供たちは全員が『王家直系』ですが、兄弟姉妹の誰かが王位を継いだ時点で残りの兄弟姉妹は『王家宗族』の初代となるわけです。

 ということでわたくしの血統は16分の1、つまり6.25%が三本と、8分の1つまり12.5%が一本で………


「そんな……そんな……31.25%……だと……!?」


 そうです。わたくしは身分こそ子爵家の娘に過ぎませんが、この血の中に王家の血を三割持っているのです。これは全ての王家血族の中でも最高比率で、王家宗族や王家直系にもこれ以上血筋の濃い方は数えるほどしかおられません。

 ついでに申し上げれば、王家の血を濃く引くわたくしはその身に宿す魔力も強く、魔術の才も国内有数の実力を誇ります。

 代を重ねる上で半ば偶然的にこうなったわけですが、この血の濃さが今上の陛下のお目に止まって、それで組まれたのが第六王子殿下との婚約だったのです。


 その目的はふたつ。ひとつはわたくしを王家直系の妻として、その血と魔力を王家に取り込んでしまうこと。そしてもうひとつは、王家として恩ある子爵家に新たに宗族の(・・・)立場を(・・・)与え直す(・・・・)こと。

 父の子はわたくししかおりませんから、わたくしが次の子爵つまり女子爵です。そこへ第六王子殿下を婿入りさせ、子爵家をわたくしの代から再び『王家宗族』に格上げすること。そうすれば、わたくしと殿下の間に生まれた子たちには王位継承権が発生します。血筋は問題ないのですから、能力と運次第ではその子の誰かが王位に就くことも、王位継承者の正妃となることも夢ではなかったでしょう。

 それこそが、この縁組の目的だったのです。


 逆に申し上げれば、第六王子殿下にはそれしか(・・・・)役割が(・・・)ない(・・)のです。殿下のお父上⸺今上の陛下にはお子が多くいらっしゃいますし、わたくしの血縁を見ても分かるとおり近隣諸国には累代の婚姻関係ができています。第六王子殿下が婚姻外交をなさる必要がないのです。

 ちなみに当代の王妃様は南の隣国の姫で、先代の王妃様は北の隣国の姫であられます。わたくしの母方の曾祖母が嫁がれたのは西の隣国ですね。


 まあ本当ならば、陛下はわたくしを王太子殿下に(めあわ)せたかったのだろうと思います。そうすれば次代に生まれてくる子たちは王家の血も魔力もより濃く引いて、しかも上位の王位継承権を持つことにもなるのですから。

 ですけれどわたくしは表向きには末端の王家血族でしかない子爵家の娘。加えて王太子殿下とは10歳の歳の差があり、しかもすでにお妃をお迎えでお世継ぎもいらっしゃいます。今さらわたくしを側妃などにしたところで将来の争いの火種しか生みません。

 そこで第六王子殿下の婿入りです。この場合、望まれるのは娘でしょうね。現在の王太子殿下が御即位なさったあと、お世継ぎにわたくしの娘を正妃として娶らせれば、わたくしの持つ濃い血と魔力が無事に王家に回帰するのですから。







家系図、ややこしくてホントすいません……m(_ _)m



一応、念のために書いておきますと、主人公エリザベスと第六王子コンラドはどちらも「次世代」です。当代はエリザベスの父の子爵や現国王(今上の陛下)の世代ですね。

つまり「先代」と言えばエリザベスたちの祖父の世代、「先々代」は二代前(曾祖父たち=当代の祖父の世代)です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ややこしくて図解が欲しいです…
[一言] ややこしすぎてわからん
[良い点] 計算が! 難しい! でもそれがいい!www
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