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ー8ー


 ハナホジー。



 実際に鼻はほじっていないが、そんな気分だ。最近暇すぎて何もすることがない。



 ゴロンッ。



 寝返りを打って、遊んでいるみんなを見る。



 ワーム君。

 全長十メートルぐらい。もう圧迫感がすごい。俺の足ぐらいの太さ。でも羽毛がモフモフで、ひよこみたいな顔。

 多分……まだ子どもなんだろう。成長したら凄まじい生物になりそう。


 観葉植物さん。

 ワーム君を十分の一ぐらいに圧縮した大きさ。そこから俺の手足と頭が生えてる。化け物かな?

 ワーム君のひよこ成分と俺の凛々しいワイルドな顔を混ぜたような頭。そこから植物要素を必死に出しているのか、蔦と葉っぱが頭部からちょこんっと生えてる。

 心底気持ち悪い。


 例の悪魔が封じられている本。とりあえず触手本とでも呼ぼう。

 その触手本だけど……うん。多分一番おとなしい。本から飛び出た二本の触手で身体? の本を支えている。

 たまにワーム君が触手本へ甘えてるところを見ると、かなり穏やかな性格だと思う。本が穏やかってどういう意味なのか頭を抱えたくなるが、そういうことだ。


 ほら、また観葉植物さんにM嬢されていじめられたワーム君が触手本のとこへ向かった。可愛い声で触手本にぴーぴー言えば触手が優しくワーム君を撫でる。


 ワーム君を奪われた感じで釈然としないが、現在燃え尽き症候群もとい何もする気になれない状態なので、ただ胡乱と見るだけ。



 はぁ……



 ゴロンッ。



 ヘロー!



 壁の方を向いて寝ようとしたら尻尾が俺の眼前に伸びてきた。


 認めたくないが、俺の尻尾は大蛇になってた。ずっと目を逸らし続け数週間、最近ようやく向き合えるようになった。脳内ではモフモフした尻尾の毛並みを整えているイメージだったが、実際に手のひらから伝わってくる感触は爬虫類特有のあれだった。


 ずっとそれを錯覚だと思っていたが、俺は大人だ。いつまでも立ち止まってはいけない。本当は認めたくない。

 だって、そうだろ? 人間である俺の尻から蛇が出てるなんてよォォ! 第三者から見たら、とてつもない変態じゃねぇかァァ!



 ……漣も起きない心。なんとか気分を昂らせようとしたが、一瞬でスンッてなって落ち着く。

 


 うん? 少し前まで、褒美褒美とか言って燃えていただろうだって?


 だって俺、最近何もしてないもん。ここ数週間ずっと同じような敵なんだぜ?


 上着はないけどさ、腕まくりする感じで『我、いざ行かんッ!』って突っ込もうとしたら、みんなが撲殺するんだよ。

 強いのはいいけどさぁ、ちょっとあれだよね? なんだっけかな。


 そうそう、「パーティーが強すぎて困っちゃう系」ってやつだ。



 ひゅ〜、やれやれ……だぜ。



 む? そろそろボインさんのアナウンスかな?

 もうね、俺ぐらいになるとなんでもわかっちまうんだ。

 


「君には驚かせられてばかりだよ。嬉しい悲鳴というのがここまで続くと、少し疲れてしまうね」



 ほらな。



「君の影響によって変異した存在がここまで君に恭順の意を示すとは思わなかった。やはり君の魔は特別ということかな? 初めての事象にこちらもかなりゴタゴタが起きてしまってね。面倒な人間たちを処分するのに手間取ってしまったよ。すまない。おっと? こんな、どうでもいいことは言うべきではなかったかな? まぁ、しょうがない。君はすでに私より頭がいいからね、これ以上は言わなくてもわかるだろう? くだらないことにリソースを割いて、記憶する必要もないよ。ただの愚痴だからね」



 よくわからないけど、右から左に流せって言われれば流しますよ。


 自慢じゃないが俺の頭はなんでもかんでも右から左へ垂れ流す。だから、よほど俺の興味がそそられる話じゃなきゃ覚えられない。キリッ。



「そこまで昂らないでくれ。最近は少し落ち着いてくれたと思ったが、もう気づいたのかい? 本当に恐ろしいものだ、君は。最初の二体を除き、ここ数週間のは全て今日この日までの序章戦かつ過程にすぎない。君もつまらないと思っていただろう? 謝罪させてくれ。今日は君の満足行くものになる」



 ウィーン。



 …………今回、ご褒美とかないの?

 まぁいいよ。どっこらせ。


 ヘロー!


「キュイキュイ!」

「ギュイギュイ!」

「ギュブラヅュッシャザザ!!」


 尻尾がみんなに集合をかければ当然のように返事。ただし、触手本の鳴き声だけがとんでもなく悍ましい。


 のそのそ、とドアをくぐる。別にご褒美がなくても、なんだかんだいってボインさんは何かくれる。

 基本的にはガラクタだけど、ないよりはマシだ。



 恒例のネバネバ液体にぶっかけられ、ドアを出る。特に話すことでもない。



 …………デカくね?



 いつもと同じ少し大きい程度のキモキモスライムだと思ったら、とんでもない大きさだった。ワーム君五匹ぐらいの体積。


 しかも出た場所もとんでもなく広い。具体的に言えば、東京ドームぐらい。

 本当謎すぎる。日本のどこにこんな巨大空間があるんだ?


 まぁ、考えでもしょうがない。ボインさんはいつもより強いとかそんなこと言ってたけど、どうせみんなが鏖殺する。


 ぼけぇ〜って見ていると、ワーム君と観葉植物さんが黒い炎の球を連射。上達したのか、コツを覚えたのか、一回で数十個飛ばせるようになっていた。


 俺を差し置いて強くなっている姿に嫉妬するが可愛い仲間だ……うん。可愛い仲間だからね。倒した後はきちんとナデナデしてあげる。

 ワーム君は気持ちよさそうに目を細めるが、観葉植物さんはぶっさいくな表情になるから不気味だ。


 最後に触手本が触手を使って逆さ五芒星。ズゥゥンと体に凄まじい圧。



 モクモク上げっている煙ごと、巨大キモキモスライムが潰された。



 多分、重力を操っているんだけど、最近一段と強くなった気がする。半端ねぇよ、触手本先輩。


 ヘロー!


 あれ? 尻尾がいつもと違う声を上げた。

 いつもならニコニコしたような雰囲気でみんなを呼び寄せるんだけどな。

 どうしたんだ?



 うお! あぶねぇ!!



 潰されてぺっちゃこになっていたはずの巨大キモキモスライムから何かが飛んできた。なんとか素早く避け、飛んでいった方を見れば、壁に深い穴が開いている。


 ほほう? 今回はなかなかやる感じか?

 ちょっとだけやる気が出てきた。


 巨大キモキモスライムに視線を戻せば、少しずつ再生するように身体が膨れ上がる。なぜだか、周りのみんながちょっと困惑したような様子で警戒している。



 き、きもッ。



 強大な肉達磨から夥しい量の人間の手足。


 いくらなんでも気持ち悪すぎやしませんかねぇ?


 それでもキモキモスライムの溶かしてきそうな粘液質が消えたのは嬉しい。俺の肉弾戦が通用するってことだ。



 ヒャッハー!! みんな遊ぼうぜ! あ、お前ボールな!!



 足に力を入れ、ダンッッ。


 一瞬で肉達磨の眼前。


 そのまま飛び蹴りを放つ。ぐちゃりと気色悪い音と感触が足裏から伝わってくるが、気にせず吹っ飛ばした。







 ー魔染生命体研究部:研究員ー

 ここ数週間ずっと僕の可愛い子たちが特異個体の人狼たちに殺されてしまった。いつもなら憤りを感じるが、可愛い子……違う。ゴミたちにイライラする。

 僕があれだけ可愛がってあげたのに、人狼と対面するとすぐに節操なく魔力を振り撒くなんて!!

 は、は、はしたないにもほどがあるよ!! んもぅ!!


 まぁ、それもゴミがゴミだからしょうがない。そこで発想の逆転。ゴミたちを共食いさせたらすごい子が生まれるんじゃないか? という案だ!


 早速、主任に直談判。一言二言だけで主任は快く承諾してくれた。さすが主任! わかっている!


 僕はスキップしながら通路を通っていると、最近やってきた新人の所員たちがチラホラ。みんな絶望したような顔を浮かべている。

 まったく辛気臭いったらありゃしない。そりゃ、僕も最初ここへ異動された時は同じだったけどさぁ。でも、数日もすればここが最高の楽園だとわかるはず。


 しかし最近やたら所員の入れ替わりが激しいけど何が起きてるんだろう? ま、いいか! 僕はただの研究者だし、どうでもいい!


 満面の笑みで新人の所員たちの背を強く叩き、実験室へ向かった。



「ほう? いい感じだね」


 僕の最高傑作の子どもを見て、主任が褒めてくれた。少し照れくさい。えへへ。


「ありがとうございます!」


 賛辞を受けたなら当然感謝。大きな声で返せば、主任が苦笑いをした。


 主任から視線を移動させ、子どもを見る。ゴミとゴミを掛け合わせ、忌々しいけど人狼の魔を強く受けたありとあらゆる物をたくさん与えてあげた。

 結果、ゴミは巨大な魔染生命体になった。それだけじゃなく、食欲旺盛で残虐性に光るものがあるんだ。


 餌ポタンをポチリッ。


 巨大な魔染生命体に続く部屋にいくつもの穴が開くと、餌たちが滑って現れる。全員が全員、何かを喚いていた。数人の餌に見覚えはあったけど、今の彼らは餌。

 わざわざ覚えてもしょうがない。すぐに記憶からデリート。


「彼の名前は?」

「グリゴリです!」

「ほぅ? 見張る者とは面白い」


 さっすが主任だ! 一瞬で名前の由来までわかるなんて!


 主任の言う通り、グリゴリは見張る者という意味もある。ちょっと陳腐で安直すぎるけど、名前は大事だ。

 二百の粘液魔染生命体と様々な二十の魔染生命体を掛け合わせたからね。まぁ、この理由で決めたんじゃなくて、グリゴリが餌をボロボロに遊んだ後、餌が息絶えるまでジッと見つめる姿から思いついた。

 これは主任に言わなくてもいいかな。面白くないし。


 あ! やっぱりグリゴリは頭がいいね!


 グリゴリが粘液を飛ばし、餌たちを捕まえ始めた。普通の粘液魔染生命体ならドロドロに溶かしてしまうが、グリゴリはいろんな要素を掛け合わせただけあり、すぐに溶かすことはない。

 粘液を筋肉のように膨らませ手足をぐちゃぐちゃにして遊び始める。


 可愛い! グリゴリは他の魔染生命体と違い、理性があるところが立派だ!


「…………少し用事ができた。数体の上位魔染生命体をグリゴリに与える許可をする。実験後は報告資料をよろしく」

「はい!」


 主任も最初は面白そうに画面を見ていたけど、突然耳に指を当てて誰かと会話し始めた。少しだけ顔を顰めて去っちゃった。


 どうしたんだろう? うーん。ま、いいや! 上位魔染生命体なんて、魔染生命体専門の所員が多い上、派閥もあってそうそう使えないからね。

 大事に使わないと。



 グリゴリも喜んでくれるかなぁ〜。


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