ー3ー
な……ながい。
ドアの先を大分進んでるけどいつになったらつくんですかねぇ……?
特にむかつくのが、突然四方八方からアルコールみたいなやつ液体をぶっかけられることだよ。それのせいで俺の艶々の尻尾ちゃんがボサボサになるんだもん。
はぁ……
よれよれになった尻尾に萎えながら長い通路をトボトボと歩く。
あ! 出口やん!
やっとこんなクソみたいなところから出られると思って、勇足で部屋から出れば、
ライオンと羊の頭をしたやつが真ん中に鎮座してこちらを睨んでいました。
ど、どこが猛獣なんですか? 明らかに化物なんですが……
困惑しながら見ていると、そいつはいきなり咆吼を浴びせてきた。
『GYAOOOOO!!!!』
『MEEEEEEEE!!!!』
うるせぇ! 両方の頭で叫ぶな! ていうかどんな体の構造したんだよ!
プリプリ怒っていると、そいつはお尻からぴょこんと生えている蛇から毒液を飛ばしてきた。
ふぁ?! 尻尾が蛇って化物を飛び越して完全に悪魔というかキメラやんけ!
驚きながらも俺は横へ避けた。一定の距離を保ちながら、さっき入ってきたドアをチラ見。
ウィーーン!!
し、閉められました。
ふざけんな!
あのくそボイン! 勝ったら青少年には不健全な発禁行為をしてやる!
頭の中でボインに悪態をついていると、ライオン頭の方がおもむろに口を半開きにした。何してるんだ? と思いきや何か急激に火の粉が溢れ出し、丸い火の玉が形成されていく。
え、えぇ……? もう完全にファンタジー世界じゃないですか。やだー。
どういう原理ですか?
もしかして機械とかそういう系?
「BOW!!!!」
ドン引きしている俺を他所にそいつは炎の玉を飛ばしてきた。俺は華麗なジャンプでドヤ顔しながら避けるが、あの炎の球は追尾機能もあったようで、俺の尻尾に当たった。
ジュッ!
あ、あ、あぁ俺の尻尾ちゃんがァァァァアアア!
野郎!! ただじゃおかねぇ!
俺は足に思いっきり力を入れて、化け物もといキメラにタックルをお見舞いする。
結構な巨体だったが俺の怒りパワーによって軽々吹き飛ぶ。
キメラが怯んだ隙に尻尾の蛇に手を伸ばして、スーパー握力で掴み、思いっきり引きちぎった。
『GYAAAA!!!!』
うっせぇぇ!! 悪態をつきながら、俺はついでとばかりに尻に思いっきり噛みつき、そのまま馬鹿力で噛みちぎった。
うへぇ、こいつの尻雑魚すぎない?
口の中がこいつの尻肉で溢れてるんだが……
ペッ。
尻肉を吐き捨てると、そいつは痛さからめちゃくちゃ暴れ始めた。
もう遅いぞ!
お前がいくら懇願しようと絶対に許さない!
絶対に、絶対にな!
続いて俺は腕を振り上げ、思いっきりライオンの頭の方に目がけて全力でストレートをぶち込む。
ドンッ!!
腕が貫通して、ライオンの顔の原型がなくなった。
ひぇぇ、もしかしてこいつこの見かけで小動物レベルの雑魚でしたか……?
馬鹿なことを考えながら腕を抜き、そのまま身体に取り付き羊の首に裸絞をする。
初めはライオンの頭が粉砕された痛さによってキメラは気絶していたが、裸絞によって酸素が吸えなくなると、どこにそんな元気があったのかびっくりするほど暴れる。
俺はそれに構わず馬鹿力で逆方向にへし折った。
ボキッ!!
ゆっくりとキメラから力が少しずつ抜け、俺に全身を預けてきた。
わんわんおー!
勝利の雄叫びを上げていると、俺が入ってきたドアが再び開いた。
とっととこんなクソみたいなところから帰ろうと、歩きながら頬についた血をペロっと舐めると、すんごい美味しい味がした。
え、何。こいつこんな見た目してるのに美味しいの?
俺は戦慄しながら、後で美味しくいただいてやるぜ! と考え、キメラを引きずって自分がいた部屋に帰る。
ー混合獣研究部:研究員ー
検体番号β-012の実験をすると他所の部署から連絡が入った。βタイプなんて一世紀前の存在だろう。よく今まで生きてこられたな。仮に強かろうと突然変異タイプだろうと所詮は元人間。
混合獣に勝てるわけないだろ、と高をくくり他の研究員と俺は談笑をしていた。
数十分後、例のβ-012が混合獣がいる部屋に入ると情報が来た。数分もせずβ-012も死ぬだろうなと考え大して期待もせず、現れるだろうドアを眺めながら優雅にコーヒーを飲む。
そいつが入ってくる瞬間、私も含め周りにいた研究員は氷付いた。
β-012の眼光は凄まじく、私たちがいる場所まで来ることがないとわかっていても恐怖心に襲われた。まず初めに身体の大きさに驚いた。本当に元人間かと疑うほどの巨体。目測だけでも、優に三メートルは超えている。
黒い体毛の上からでもわかるほどに、異常に筋肉が肥大化しており四股や首も木の幹ほどであった。推定だけでも六百キログラム以上はあるだろう体重も、β-012は足音一つ立てず二足歩行で歩いている。
まるで西洋で語り継がれている人狼の見た目。
β-012がいや、人狼が混合獣と目を合わせると、最初はどちらも沈黙していたが、突如人狼が混合獣を馬鹿にするように鼻息を立てる。
混合獣は馬鹿にされたと感じたようで、人狼に向けて咆哮を行った。魔を孕んだ咆哮だというのに人狼はまるでそよ風でも受けたかのように無言で見ている。
恐ろしい。人狼はどういう体の構造をしている? 相手は中型の混合獣だぞ? 蓄えている魔力は並々ならぬものだ。普通の人間であれば、直接魔を浴びせられたらそれだけで魔染物体に様変わりする。
ゴクリッ、誰が唾を飲み込んだかわからないが、嫌に耳元で聞こえた。
それに、痺れを切らした混合獣がゆっくりと、尻尾の蛇を死角から毒液をかける。
しかし人狼の異常な聴覚なのか、掠ることすらなく軽く避けた。
その後も人狼の方から手を出すことがなく遠巻きに混合獣を観察していた。それを挑発だと受け取った混合獣はライオンの頭部から火の玉を出した。
人狼は先ほどの毒液と同じように避けるが、火の玉はそのまま追尾して尻尾に軽く当たるとかき消えた。
……眺めていた私たち研究員は慄いた。
あの混合獣を捕獲した際には、火の玉一つで軽く十人の精鋭を焼き尽くすほどの火力だぞ! あの人狼の尻尾に軽く当たるだけですぐ霧散するなんて……
『GYAAAAAAAOOOOOOOOOO!!!!』
私たちは突然の咆哮に驚き瞼をつぶった。
恐らく人狼は火の玉に当たったことにひどく腹を立てたんだろう、幾重にも強固に作ったはずの防壁すら超えて咆吼が聞こえた。
そして目を開けると、先ほどまで遠くにいた人狼は、とんでもない早さで混合獣に近づいていた。
胴体に張り付くとその大きい手で尻尾の蛇を掴み、引きちぎる。
混合獣が大きな声で叫ぶと、次に凶悪な口を限界いっぱいに開き胴体へ噛み付いた。
人狼は噛みついたまま顔を離すと、混合獣の胴体にぽっかりと穴ができた。
痛さによって混合獣が暴れていると、人狼は噛みちぎった肉の塊を吐き捨てる。そしてまた近づき頭部に拳を上げたか思うと、肥大化している腕がブレ、ライオンの頭部が吹き飛んだ。
そのまま羊の首に腕を絡め、締める。混合獣は暴れるがそれを無視して、そのまま強力な腕力で反対方向にへし折った。
混合獣の体がゆっくりと動きを止め、ぐったりすると……
『WAOOOOOOOOOOOOOONNNNNN!!!!!!!!』
人狼は勝利の雄叫びを上げるように遠吠えをした。唖然している私たちなんて無視して人狼は混合獣の巨体を片手で引きずり去っていった。
ぱくぱく、もぐもぐ
さっき倒した化け物を食べてるが意外とおいしいやんけ!
だからといって、お前が俺の尻尾をちょっと焦がしたのは許さないからな!
ぷんぷんしながら、もぐもぐしているとまたボインさんのアナウンス。
「いやぁ、悪いね。ちょっと別件の用事で君の勇猛な戦いを見れなかったよ、とても残念だ。だが、先ほど部下が持ってきた報告書に目を通して見たが凄まじいね。さて、君が戦う前に言った通り、私のポケットマネーの範囲ならなんでも用意するよ。安心したまえ、私はこう見えてかなり高給取りで貯蓄もあるからね」
ざけんな! 何が軽く運動能力を知りたいだ!
さっきの猛獣どころじゃないだろ! あとお前ぜったいに残念がってないだろ!
ムカついた俺はさっき倒した羊の角を思いっきり、ボインさんがいるだろう壁に向かって投げた。
ドンッ!!
メカメカしくて硬そうだと思っていた壁は意外と脆く、簡単に突き刺さった。
え、意外と脆い? ちょっとドキドキしながら、顔を背けてフンッと言って尻尾のケアを始める。
おーよちよち、私の可愛い尻尾ちゃん。
さっきの火の玉痛かったねぇ……いっぱいトリミングしてあげるからね。
俺がふて腐れて尻尾と戯れていると、ボソボソと聞こえる。多分ボインさんが何か言っているんだろうが、俺の投げつけた角のせいで前半部分が聞こえなかった。
「……が……かい? ならプラスで何か好きな物を上げよう」
プラス? 二つくれるってこと?
…………! い、今ボインちゃんのボインボインをボインしたら、俺の理性がボインになっちゃうよ!!
で、でも僕ちんは紳士な男性です!
ていうか今の感じでボインボインしたら理性が抑えられるわけがない、とりあえず落ち着くために他のものにしてもらおう。
うーん、やっぱり人間なら衣食住っしょ!
ていうか、今更だけど二十四時間光ってる部屋にいたら普通の人間なら気狂うからね?
そこんとこわかってる?
俺が服と寝床を要望すると、ボインさんの承諾した声とともにマイクが切れた。




