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観葉植物ママと触手本先輩に先導されながら進んでいた。
二人……二体?
いや俺の中では彼女たちは俺の先輩とママ。優しい学校のマドンナの先輩とどこまでも包み込んでくれるママなんだ。
話を戻そう。二人は当然ながらモカちゃんの言葉を理解しながら道を進んでいた。
……やめろ! いちいち聞いてくるな。俺だって気になるよ!
二人がごく自然に言葉を理解できるのは俺も気になるけど話が進まないだろ!
はぁ、はぁ。
短い脳内格闘を終え、のっそり立ち上がる。
ある程度進んでいた俺たちは戦いの後、小休止をしていた。俺はというと通路の壁に寄りかかって飛び散った汚い液体を取りながら毛繕い。
コケコッコー!! と喚きなく人間さんと鶏を魔融合させた生物だったり、豚と鶏を混ぜたよくわからん生物に、牛の頭部を鶏にした生物と遭遇した。
どう考えもここのフロア鶏大好きやろっていう感じだったが、これが意外と強かった。別に俺は何もしていないが見てる分には白熱した。
現に肩にいるモカちゃんと汚い妖精は固唾を呑んで観戦していたからね。
手に汗握るってこのことかって思ったよ。最後の方なんて鶏プラスアルファのやつらが全員が超融合を果たした時はおったまげた。まぁ、それも最終的に先輩とママの素晴らしい連携でボッコボコにされたけど。
たださぁ、なんでママと先輩は最後に超融合鶏を抱きしめて風船みたいに破裂させたの? 黄緑色の液体が降り注いで最悪な気分だよ……ちらっ。
ぐっちゃぐちゃになった超融合鶏の死骸のせいで汚れ切った通路。それもママと先輩は片っ端から吸い込みながら体内へ入れていく。
お前らモップかよ。
ついツッコミを放つと、手元にいたワーム君がきゅいきゅい鳴いた。頭を優しく撫で、ついでにモカちゃんを下ろせば汚い妖精がモカちゃんの頭に座る。
おん? なんだこれ。
俺の足元にはファンタジー感ある石ころ。持ち上げてまじまじ見れば、モカちゃんがその石ころを俺から奪おうと引っ付いてきた。
「魔石なのじゃー! くれなのじゃー!」
魔石? ファンタジー要素に欠かせないやつやん。
と言っても何に使うかわからんし、人間の俺が石なんて食べれるはずもない。モカちゃんへ渡そうとしたらどこから視線を感じた。
そっちを見ればワーム君がうるうるした目線。
……ぽいっ。
モカちゃんを無視しワーム君にぽいっと投げた。
「の、のじゃー!? なんでなのじゃ!?」
モカちゃんはガーンとした顔になったが、すぐに再起動してワーム君から奪おうとする。けれどワーム君は口を大きく十字に開くと一気に口へ含んだ。モカちゃんはポカポカ殴るがワーム君は我関せず。美味しそうに目を細め飲み込んだ。
「おかしいのじゃー! 私が先に言ったのじゃー!」
「きゅい、きゅいきゅい!!」
鬱陶しく叩かれ続けさすがのワーム君もちょっとイラっとしたのか、モカちゃんへちょっと強い言い方で鳴き返す。
「うん? お前はさっきいっぱい食べたって? そんなこと知らないのじゃ! 成長期だからいっぱい食べないと死んじゃうのじゃー!」
うん?
モカちゃん、ワーム君と会話できたの?
「きゅいっ、きゅーい!」
どうやってもワーム君の声は鳴いているようにしか聞こえない。
う、うらやましくないもんね!
ふん!
「のじゃー!!」
顔を背け腕を組んでいたらモカちゃんと子犬サイズのワーム君が喧嘩を始めた。喧嘩を治めた方がいいと思うが、喧嘩するほど仲がいいって言うぐらいだし、ほっとけば勝手に終わるだろう。
そんなことを考えながら俺は肩をポキポキさせ周囲を見渡す。
原型止めていない鶏の足だけでの生物だったり、ドラゴンみたいな生物の翼に鶏の頭が植え付けられたりしているよくわからんやつら。
意味がわからんが、それ以上に様々な生物がいた。
よくファンタジー系の小説で見る頭が二つある狼のオルトロスだったり、一本の長いツノがある馬ユニコーン。ちょいちょい鶏の要素を感じるが気のせいだろう。それらはホルマリン漬けになって漂っているか、ガラスが割れたせいで地面に落ちている。
まぁ、それも観葉植物ママと触手本先輩が掃除しているから、あとほんの少しでここら辺には塵一つ残らないだろう。
ちょいちょい、白衣を着たボインさんの元同僚っぽい研究員や身体の半分がドロドロに溶けてる鶏は見てるだけで気分が悪くなる。
主に匂いが半端なく臭いせいだ。
鼻をつまみながらトコトコ進めば、観葉植物ママと触手本先輩は掃除の速度を上げ、どんどん綺麗にしていった。
うん。二人はすごいね。
い、一家に一台ほしいレベルだよ。
「きゅーいー!」
ワーム君の可愛らしい遠吠え。そっちを見れば、喧嘩はワーム君の勝利のようだ。モカちゃんはまた地べたで手足をバタバタしている。
あれ? 汚い妖精がいない。
キョロキョロ周りを見れば、汚い妖精は観葉植物ママの頭頂部にある赤い花の蜜を飲んでいた。
……そ、それ身体に大丈夫なの?
きっと汚い妖精はすごい消化器官をお持ちなんだろう。深く考えても解は出ない。モカちゃんの襟元で掴み上げ、肩に乗せた。
「の、のじゃー!!」
ジェットコースターに乗ったような奇声を上げたが無視し、次にワーム君をそっと右腕に抱き寄せる。
「あっちに進めばここから出られるのじゃ! はぁ〜。本当ワームって器量が狭い種族なのじゃー」
ママと先輩に指示するモカちゃん。だけど、最後にぎりぎりワーム君に聞こえる声を出していた。
もちろん俺には聞こえてる。当たり前だ、俺の身体の上でやってるんだから。
「きゅいっ」
ワーム君はちょっと口をムニッとして不機嫌そうな表情で鳴くと、頭をモカちゃんとは反対方向に背けた。
「私が子供だってぇ!? ば、馬鹿にしてるのかこのバカワーム!」
「きゅいきゅい、きゅっきゅっ!!」
「き、き、貴様ぁぁ! 言って良いことと悪いことがあるぞ!」
おい。のじゃを忘れてるぞ。




