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箒機使いのアメリア  作者: 迦楼羅
3/4

在りし日の箒機と少女

箒機師それは箒機使いと対をなす存在。

 災厄の獣を殺す兵器『箒機』の基礎設計を構築し、兵器を施した獣殺しの兵器を創った者達の子孫達。箒機の全てを知り新たな箒機を創るために日々アイディアを量産する彼らを人々は箒機師と呼び称えた。


今日の朝、クリスからの連絡がきた。

 内容は今後の修理に関しての細かい打ち合わせを兼ねた箒機師アーサーとの顔合わせ、といった内容だ。

 昼前、クリスの工房に向かうアメリアはこれから会う箒機師アーサーに会うのをわくわくしながら向かっていた。

 箒機師なんて普通に会えるような存在じゃない。大抵は大手の企業か有名なチームに囲われその姿を見せることは少ない。

 だから箒機使いとして生の箒機師の腕前を見れると思うと顔がついニヤニヤしてしまう。

 

 人影の少ない裏通りの奥にクリスの工房はある。

 大通りから離れている所為で客足は無いに等しく、ここ最近クリスの工房にやって来る客は自分以外いなかったとアメリアは記憶している。

 しかし目の前には、工房の玄関を煙草を吹かす黒髪の男がいた。

 アメリアはその人物を知っていた。

 昨日レストランで会ったばかりのお客で、箒機使いの卵だと言ったら将来を祝福してくれた不思議な男にアメリアは恐る恐る声をかけた。

「あ、あの〜」

「うん? あれ、君は昨日のメイドちゃん」

どうやら男はアメリアのことを覚えていたらしい。 

確かにあの衣装はとても記憶しやすい格好だと思うけど、ソレで覚えていて欲しくなかったとアメリアは羞恥する。

「おっと、そう怖い顔で睨まないで、冗談だよお嬢さん。それにしてもこんな所で会うなんて奇遇だね」

「……」

 黒髪の男にアメリアは訝しげな視線を送りながら考える。

 このタイミングそれに煙草嫌いなクリスの工房の前で堂々と煙を吹かす命知らずの名前に心当たりがあった。

 

「もしかして貴方は、アー」

 クリスがアルデンに呼んだ箒機師の名前を呼ぶ前に男が派手に吹っ飛び、目の前にいたアメリアはギリギリで避ける。

 男は二転三転転がり反対側の壁に激突した。

 確実に死んだ、と思ったが、足がピクピク動いていたのでまだ生きているらしい。

「アーサー、家の半径1キルトで、それやるなって言ったばかりだろうがよ」

 怒気を纏った声が聞こえた。

 男が背にしていた玄関から怒り心頭のクリスが現れた。

 クリスの手にはスパナが握られ今にもトドメを刺さんばかりに男に近づいていくところで、アメリアがこの場に居ることに気づいた。

「……いたのか。嫌なところを見られてしまったな」

「ハハ、丁度良く」

 気まずい空気が二人の間で流れる。

 見られたくない所を見られたクリスは、頭に手を置きため息をつく。

「取りあえず、そんなとこに突っ立てないで上がりなさい」

「は、はい!」

 疲れた表情のクリスをこれ以上に刺激しないように小走りで工房にお邪魔する。

 向かう際聞こえた獣のような呻き声を聞こえないふりをしてアメリアはそそくさとその場から逃げるのだった。


「いやー酷い目にあったもんだ」

 壁に激突して出来た、痣をアーサーが手で擦り、横に座るクリスが自業自得だと言い切る。

 アメリアは真っ赤に腫れ上がる額の膨らみが余りにも痛々しかったので、クリスの許可を貰い手ぬぐいを水に浸しアーサーに渡す。

 それしても派手に壁に激突した割りにはたいした怪我を負ったわけでも無く、見た目以上に頑丈なんだとアメリアは思った。

「これ使って下さい」

「助かるよ」

 気さくな笑みで手ぬぐいを受け取ったアーサーは、空いている片方の手をアメリアに差し出す。

「自己紹介が遅れた。俺はアーサー・ペルムソード。これからよろしく頼む」

 アーサーの手を握りアメリアも挨拶する。

「アメリアです。この度はお力添え頂き感謝します」

「堅いな。もっと仲良くいこうじゃないか? それともこんなオッサンでは会話も億劫かな」

 アメリアは返答に詰まる。会話仕様にも彼の人となりや趣味も何もかも知らない。

 変に頭の中が回転するが、思いついたのは天気の話題か、今日の朝食の話か、どれも直ぐに会話が途切れてしまいそうな内容ばかりだ。

 結局、朝食のことを話そうと思ったが、困り果てた少女にクリスが助け船を出した。

「お前がオッサンなら私も同類になるのだが」

「おっと、ならこの中で一番年上の君がオッサンの称号を手にしたわけだ。おめでとう!」

「巫山戯るな。私と二つしか年が変わらないだろうが」

 パチパチとからかうように拍手するアーサーに、クリスはイラッと顔を歪める。

 仲が悪いようでかみ合っている様な、ちぐはぐな二人のやり取りに思わずアメリアは、クスリと笑った。

「なんだか、フーラとドットみたい」

 有名な童話の登場人物に二人が重なる。

 喧嘩ばかりの仲の悪い職人があるとき、一人の少女を助けるために手を取り合うお話。

 今の現状がその童話に余りにも似ていたのがアメリアには可笑しかった。

「なら、頑固者のドットはクリスだな」

「ぬかせ。お前にはお調子者のフーラがお似合いだ」

 いがみ合いながらも二人はとても楽しそうだった。


「さてと、このまま会話を続けて親睦を深めたいところだが、そろそろ本題に移ろうか?」

 頭の腫れも少しだけ引いたアーサーが、ここにやって来る事になったアメリアの箒機について触れた。

「相変わらず気分で会話を変える……まぁいい。で、昨日あの箒機を見た正直な感想を私達に聞かせて欲しい」

 アーサーどこかワクワクした表情で語り出した。

「二人は厄災の獣は当然ながら知ってるな?」

 何を当然のことを、と二人は互いを見て思う。

 厄災の獣。

ソレは神代の話でもなくお伽噺の類いとも違う現実に起きた世界最大の厄災を巻き起こした12匹の獣の総称。

 何処から現れ何故人間に牙を向けるのか、正しく得体の知れない獣たちと初めて邂逅したのは今から約700年前の話になる。

 当時において大陸随一の規模を誇った軍事国家ドレイラムに現れた一匹の厄災の獣によって、たった一日でその国は地図から消えた。

 それから各大陸に現れた獣達により厄災の炎は一瞬にして燃え広がった。

 人々は逃げ隠れ息を殺し闇に隠れ、神に祈ったどうかこの火を止める祝福の雨を降らしたまえと。

 叶えたのは神ではなく同じ人であり、降ったのは鋼鉄の鎧を纏い空を駆ける獣殺しの兵器とその乗り手達。

 

 血が流れた多くの血が……人々は代価を払い平和を勝ち取り、箒機使いそして箒機師らは平和と勝利の英雄として今でも憧れの的として存在してる。

 

 多くの現代人が知る正史を、アーサーは饒舌に語る。

「それが、私の箒機と何か関係あるんですか?」

 何が言いたいのか全く分からないアメリアは、勿体ぶるアーサーに怪訝な視線を送る。

 対してクリスは話を聞いてアーサーが何を言いたいのか考え込み、しばらくしてハッ、と顔を向ける。

「……まさか、本気で言ってるのか? アーサー」

「ああ」

 動揺を見せるクリスに、アーサーは確信にみちた様子で頷く。

「あの、すっごく置いてきぼりな少女がここに居るのを忘れてませんか? 二人とも」

 大人の会話に置いてきぼりのアメリアの頬が、ぷくぅと膨れる。

「いやなに、君が持ち込んだ仕事が、想像を超える大仕事だと分かっただけだよ」

 そんなに難しい修理なのかと、気分がげんなりする。

「アーサーさんでも私の箒機の修理はむずかしいと言う事ですか?」

「難しいかも知れない。なにせ獣殺しに使われていた最古の箒機の修理なんて誰もやった事ないだろうからな!」

「……はい?」



「クリスが匙を投げるのも当然だな。俺ですらえ初期型の箒機を見るのは初めてだ」

 場所は移り一階の工房に三人はやって来た。

 装甲を外され中身が露わになる純白の箒機を前にしながら、アーサーがワクワクしながら箒機について語り出した。

「この箒機は実に面白い。外見(エクステリア)自体は50年前に流行った流線型を多用したオールドな造形をしているが、その中身は大気中の魔力を吸収する事で、長時間戦闘と大量の魔力を消費する高出力アンチビーストウェポンを搭載を可能とした最古の箒機。『イエーガー』のモノであると分かった」


 アメリアの頬を汗が伝う。母から受け継いだ箒機にそんな秘密が隠されていたとは知らず驚く。


「道理で、初めて見る構造をしていると思ったが、それにしても良くそんな代物を持っていたな」

 少なくとも自分一人ではなんともならない事実を知れて、クリスの顔から腫れ物が取れたみたいにスッキリしていた。

「……お母さんの形見なんです」

 母からの最後の贈り物に、アメリアは手を添える。

「……そうか。それはすまないことを聞いた」

 不躾な質問だったとクリスは反省する。

「……続けてもいいか?」

「お願いします」

 知りたい。母から継いだこの箒機の全てを。


 アーサーがエンジン部分に指を指し再開する。

「イエーガーの強みは大量の魔力を吸収し長時間の飛行や戦闘を可能とした。だが、現代の箒機にはその機能が継承される事は無かった。何故だか分かるかアメリア」

 アーサーに名指しされたアメリアは考える。考えの果てに行き着いたのは現代と過去に置いての相違点。

「今の時代は昔ほど大気中の魔力が多くないから?」

「そうだ。理由は誰も知らないが世界中の魔力は徐々に減衰している。自然とイエーガーの機能も必要なくなり、今の箒機には固体魔力のみで動作する機能しか残らなくなった訳だ」

 魔力を固体化し燃料として使う技術は700年前にもあったが、当時の魔力が世界を覆っていた時代において固体魔力の技術はあくまで何かあったときの為の予備としての存在だった。それが現代の魔道具の多くを支える技術になり得るとは当時の技術者は思いもしなかっただろうとアメリアは思う。


「でもそれがあの試合の墜落と何か関係があるんですか?」

 秘められた箒機の能力は分かった。ならあの時の墜落の結局の原因は何なのかとアーサーに問うた。

「……それが全く分からないんだなこれが」

 お手上げとばかりにアーサーは手を上げ戯ける。

「おい。何のためにお前を呼んだと思っている。何とかしろアーサー」

「当然何とかするに決まってる。そこでだアメリア一つ提案があるんだが聞いて貰えるだろうか?」

 自分の箒機で協力できることがあるのなら、とアメリアはアーサーの顔を見て頷く。

「私は何をすればいいですか?」

 提案はするやるかは彼女次第だが、会って間もないアメリアはきっとやると言うだろう。

 箒機は箒使いが乗ってこそ本領を発揮する。

 落下した原因があるとしたらそれは空を飛んでいるときだ。

 

 だから彼女に協力してもらおう。きっと横にいる過保護な親友には後で拳骨を喰らうと覚悟しながらアーサーは笑顔で言った。


「アメリアにはこの箒機に乗って、もう一度、空を飛んで貰う」

 


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