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箒機使いのアメリア  作者: 迦楼羅
2/4

お金に貪欲な少女

結局あの場所にいてもやることがないアメリアは、箒機の修理と同等いやそれ以上に生きていく上でとても大切な事。

 つまりソレは酷く俗世的な誰もが抱える問題。お金についてだ。

ただでさえ箒機は維持や修理で金を使うため、新人の箒機使いは金の工面で失敗すれば経った数ヶ月で業界から姿を消す事がザラにある。裏を返せば金の問題を乗り越えられた箒機使いは一人前と認められる。

 何故ならよほど金持ちかバックに大手のスポンサーがいないかぎり、箒機使いが大金を稼ぐ手段は優勝しかないからだ。

 栄花の裏には常に金の匂いが染みついてる。

 勝てば王様、負ければ敗者ソレはとてもシンプルな真理で、逃れられない現実だ。

 では敗者として王道を進むアメリアは、現実を認め受け入れるかと言ったらそんなことはない。

 彼女にとって箒機使いは子供の頃からの夢で絶対になると決めた道で、ひたすらに努力してつかみ取った可能性を自ら手放すなんてあり得ないと思っているからだ。

このままで終わってなるものか、とアメリアは気合いを入れ直しながら、怒濤の勢いで注文された料理を手に、給仕用のエプロンにどこぞの貴族に使えていそうなメイド服に身を包み、テーブルに次々と料理を運ぶ。


ハッキリ言ってアメリアはとても可愛い少女だ。

パッチリとした青い瞳に淡い金髪の少女。

そんな女性がメイド服を着て給仕をしてくれるならソレを目当てに男共がやって来るのは必然であった。おかげでレストラン「バルハラ」は昼時も相まって満席状態だった。


 一ヶ月前、少しでも金を稼げるバイトを探していたアメリアが偶然求人募集で見つけた高時給のバイト先がレストラン「バルハラ」だった。

 当時は何故ただのレストランがこれ程まで高い時給を払っているのか疑問にも思わなかったが、入ってその理由を深く知った。

 

 皆、この格好が嫌で辞めたのよね、きっと。


 そう、店主の趣味が全快の制服を誰もが率先して着たがらなかったのだ。着たとしても客から好奇な視線に耐えられなくて辞めていく者が続出した。

 かくゆうアメリアも時給が後もう少し少なければ辞めていた。

 というか辞めようとしていたが、この客足の原因であるアメリアを手放したくなかった店主に時給アップを条件に残ることにしたのだ。


 恥ずかしさよりも欲が勝ってしまったアメリアは少し残念な少女なのだった。


「アメリアちゃん! コレ、三番テーブルのお客さんに出してきて」

「はい!」

 そんな訳でせっせと働くアメリアは厨房からデカデカとした肉団子入りのスパゲティー二をお客のテーブルに運ぶ。

「お待たせしました! デカ盛り肉団子のスパゲティー二です。ご注文は以上でよろしいですか?」

 料理をテーブルに置き、マニュアル通りの接客をする。

「おっ! 待ってました」

 超特盛りのスパゲティー二を頼んだレプテリアでは珍しい黒髪の客は、よほど空腹だったのか料理を置くと直ぐに食べ始めた。意地汚いなと心の中で思いながらアメリアはふとある事が気になった。

気になったのは客の格好だ。

工房街に店を構えるバルハラに来る客は、工房に関係する人がメインに来る。たいして目の前の客はレーザーのジャケットに細身のジーンズとシンプルでとても似合っているが、工房街は職人の街だ。彼らの仕事は基本汚れる事が多く、それを見越して汚れていい格好の人が殆どで、周りの客からも服装が浮いているその客の事をアメリアは物珍しく見ていた。

「……なにか俺の顔にでもついてるか?」

見られていることに気づいたお客が困った顔をしていた。

「あ、えっと……あっ、小冷のお代わりは如何ですか?」

 しまった、と慌てるアメリアは咄嗟にコップの中見が空になりかけている事に気づいた。

「うん? じゃあ、貰おう」

「お客様、アルデンは初めてなんですか?」

「仕事で何回か来たことがあるよ。君は……田舎から来た出稼ぎの少女といった所かな」

「ふふ、残念ハズレです」

 客は、残念とばかりに肩をすくめる。

「実は私こう見えても箒機使いなんですよ」

「へぇーこんなに可愛い箒機使いがいたなんて知らなかった」

「まだ、無名の新人ですから」

 アメリアは苦笑しながら並々に水を注いだコップを渡す。

 受け取った客はコップをテーブルに置かず天に向かって掲げる。

「なら新たな箒機使いのこれからの活躍を祈って乾杯」

 それはささやかな祈りの言葉だった。



夜もふけバイト先からアパートに帰ってきたアメリアは、お風呂に入っていた。

肉体的にも精神的にも疲労し疲れ切った体をお湯が、暖かく揉みほぐしてくれる。

 町中で見つけた花をあしらった少し高い入浴剤を使えばさらに気分良くなるが使うのは我慢した。

 アレは特別な時に使うと決めていたし、貧乏なアメリアでは毎日使う分を買えば確実に生活に支障が出るほど戸棚に閉まってある入浴剤は高い。

 代わりといっては何だがバイト先のレストランから余った柑橘系の果物を貰い、その皮を浴槽に浮かべ香りを楽しむ。

 アメリアは凝りきった手足を伸ばしリラックスする。

 浴槽の縁にタオルを引きその上に頭を乗せる。

「……今日は疲れたな」

 今日も色々あった。

 愛機は問題だらけエンジンが修理できなければ飛べず試合にも出られない。

 バイトの給金で何とか生活できていても、何時か限界がくる。

 その前に何とかして箒機を直して試合に勝つしかないが。

「私……本当に勝てるのかな?」

 自信は昨日の時点で打ち砕かれた。

 初めての試合で勝ってるとは思っていなかった。

 でも、チャンスはあった。

 モノに出来なかったのは様々な要因が重なったからだ。

 実力は乏しく、経験も浅い、運にも見放され、乗っている箒機はオンボロで原因不明の欠陥を抱えている。

 

 だからといって諦めはしない。

 でも不安は残る。

 勝てずに箒機使いとしての道が途絶えてしまうかもしれない未来。その不安はお湯に浸かっても溶け落ちることなく、アメリアの心の奥底に深く刺さっている。

「こんな時、お母さんだったら」

 

 何て言うのかな。思い浮かぶのは、あの白い箒機に跨がり蒼穹を飛ぶ母の姿。

 とても強い人だった。

 箒機使いとして母は最強だった。若い頃は常に勝利し誰もが憧れ、ついたあだ名は『蒼穹女王』。かくゆうアメリアもまた彼女に憧れ箒機使いになった。

 だが憧れの存在はもういない。

 空に愛された女王は天に還った、少女が幼い頃の話だ。

 幼いながらも忘れなかった強く優しい母ならきっと笑ってこう言うだろう。

『嫌なことは美味しいものを食べて、暖かいお風呂に入って、ベットで寝て明日になれば解決するわ! だからアメリアちゃん、明日も元気よく生きようね』

 陽気な母の姿が思い浮かんだ。

「明日も元気に生きよう、か……でも、生きるの簡単じゃないよ、お母さん」

 子供ながらそれは簡単に思えて大人になるととても難しい母の教え。

 大人が楽しく生きるにはこの世の中は辛いことが多い。

 誰もが辛さを背負って生きている。

 ソレはアメリアも同じだ。

ただ彼女には支えてくれる大人と叶えたい夢があったからここまでやってこれた。

 辛さに負けず現実に打ちひしがれながら少女は一歩一歩前に進む。

 

だから毎日元気に生きることは出来ないかも知れないけど、頑張って生きようとアメリアは思った。



 時は少し戻り昼時の工房街。

 

 男は腹が減り、客がそれなりに入っているレストランに入った。

 昨日、昔の親友から久しぶりに連絡が会ったと思ったら、唐突に箒機使いの聖地アルデンまで来るように半ば強制的に来るように言われた。

 何でもどうしても自分の手を借りなければ修理できない箒機があるらしい。

 いつも自分に対して辛辣な親友からは考えられないほど必死に助けを求められた。

 魔道通信機越しの声は酷く苛立たしく荒れていたけど。

 断る理由もないそれに久しぶりに親友の顔が見たくなった。

 たいした荷物も持たずやむなくアルデン行きの飛行艇に乗った男は一日を費やしアルデンにやって来た。

 久しぶりの聖地は相変わらずのようで色々と変わっていた。

 

箒機使いの試合は今も昔も変わらず命を削るとまでは言わないまでも、見てて血潮が熱くなるほど心躍る。

先程の魔道スクリーンでやっていた試合なんて正にソレだ。

残念ながら良い走りをしていた白い箒機の箒機使いは、最後で落ちてしまったけど最後まで諦めない勝利への貪欲さ心意気に心が高鳴った。

久しぶりに良いレースを見れたと思った。


最近は大手企業の参入によって箒機レースも、金と権力が渦巻くクソッタレな環境に様変わりし、より強い者が勝ち弱い者は淘汰される酷くつまらない金持ちの遊び場になっていた。

その所為で新しい芽は育たずここ十年は同じ箒機使いがトップを担い続けレース自体が停滞している。世の中はソレをよしとしている同じヒーローを崇めてた方が一定の高揚を得られるし、新人を応援しても直ぐに消える。

誰も求めていないのだ。

弱者が強者を打ち負かす(ジャイアントキリング)姿なんて

 男はその現状が酷くつまらない。

 同じ試合似たり寄ったりの顔ぶれが織りなす作られたレース。

 そんなものに何の価値があるのだろうかと男は憤る。それよりも、何の力もない新人が成長し勝利を使む姿こそ現代の箒機使いとしてあるべき姿だろうと、説教臭く思う。

 だから自然とあのレースの新人と、目の前の新人箒機使いだと名乗るメイド姿のウェイトレスには夢を諦めずに頑張って欲しいと思い、格好つけて杯を掲げクサい事を言ってしまった。


「年は取りたくない」

「何か言ったか」

 夜風に当たる男にクリスが近づいてきた。

 久しぶりに会ったというのにその顔は酷く疲れていた。

「疲れているな。今回の仕事はそんなに難しいのかクリス?」

「じゃなきゃ、お前を王都からわざわざ呼ばない」

 横に立つ親友はため息をつき嫌そうに言った。

「頼りにしてる。アーサー」


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