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箒機使いのアメリア  作者: 迦楼羅
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落ちた翼の少女

 標高六千は優に超える山々を、10機以上の飛翔体が高速で飛んでいた。

 山々を高速で飛ぶ飛翔体の名は「箒機(ほうき)」。

 かつて世界を滅ぼそうとした十二の獣を殺すために造られた兵器。

 そしてその箒機に跨り戦う者達を「箒機使い」と呼ぶ。

 人を乗せ数多の武装を積み高速で飛翔する兵器は時を経つに連れそのあり様を変え現代では……。


『おーーーっと!! 3番ワイルドホーネットのデネズビー選手、5番レッドフォックスのキリア選手に果敢に攻めていく! だがキリア選手も抜かせじと必死だ〜〜! さらにデネズビー選手の後方は2番クーン選手、9番ジェーンズ選手が追従する!』

 山の麓に作られた特設スタジアムの空には今まさに箒機で戦い合う箒機使いの姿が魔法で作られたスクリーンに映し出されていた。スクリーンに映った映像を実況者がマイクを持ち上げ熱く実況し、それを聞いたスタジアム観客達が熱狂し一斉に立ち上がる。山の頂上まで響き渡るのではと思わせるほど観客の声援は熱く凄まじく、スタジアムにいる子供から老人や男も女も人間も亜人全ての者達が箒機使いの戦いに魅せられていた。


 そう、世界を救った兵器とそれを操る乗り手は時を経て現在では、喜びを与えるスポーツとして人々に愛されていた。


『さーさ、レースも最終局面! 果たしてゴールラインを先に飛び抜けるのは一体どの選手なのか! 先頭を走るキリア選手か、追うデネズビー選手なのか!!! それとも他の誰かが奇跡を起こすのか最後も目が離せない!!!!』


 標高高い山の上でも魔法の影響で観客席の声援や実況者の感情の篭った実況が、選手の耳元まで聞こえてくる。実況者の説明ではゴールを前に競り合っているのは、誰もが知る強者の二人だ。


 だけど私の前にその二人はいない。

 それどころか私は遥か後ろ最後尾を飛んでいた。

 悔しい、こんな思いをするために私は箒機に乗ったんじゃない。

 白く美しい純白の箒機に乗る金髪の少女は心の中でそう思っていた。

 

 勝ちたい、と選手なら誰もが思う気持ちが彼女は人一倍強かった。

 

 だからなのか少女は勝ちを焦る余り突発的な行動に出る。

 少女はアクセルを思いっきり回しエンジン出力を上げ前に出る。

  前方を飛ぶ他の選手を蹴散らべく、箒機に搭載された非殺傷性の重機関銃が火を噴く。前方を飛ぶ選手達は咄嗟の少女の行動に反応できず何発か被弾し抜かれてしまう。

  一人二人と次々に抜いていく少女は奇跡的に強者二人を視界に捉える事に成功する。

『なんとなんと!! ここで最後尾から奇跡的な追い上げを見せるのは、新人選手アルブステイラーのアメリア選手だ! 凄いスゴイぞ後方集団を一気に抜いて前方の二人に追いついた。これはもしかするともしかするのか!!!!』


 イケる! 勝てるわ!


 だが二人を抜けば勝てるというタイミングでアメリアが乗る箒機に不具合が発生した。

 最大スピードから急激に速度が落ちて完全にエンジンが止まってしまった。

 急速に失速した箒機は揚力を失い落下していく。

「?!? どうしてこんな時に!」

  スロットルを何度も回してもスピードが出ずアメリアは二人から離れていく。

  それどころか抜き去った他の箒機使い達にすら追い越されてしまった。


 箒機と共に落ちる少女の視界には空を駆ける勇ましい箒機使い達が見える。

 

  離されていく離れていく……少女の視界に彼らはもう見えない。


『ゴ〜〜〜〜〜〜〜〜ル!!! 勝者はレッドフォックスのキリア選手だ!!』


 そして金髪の少女は負けた。



 朝はとても最悪な気分でアメリアは目覚めた。

 昨日は初の試合で箒機の故障が原因で、彼女は途中脱落という最悪の結果で終わった。

こんな最悪な気分で朝を迎える気にならないアメリアは二度寝しようと思ったが、カーテンから漏れる木漏れ日がそれを邪魔する。

「……眩しいわ」

 朝日の眩しさに目を開けた所為か二度寝する気力も失せ起き上がる。

 眠い眼を擦り怠い体で向かった先は洗面所であった。

 負けたショックで自暴自棄になっていても起きたからには、身だしなみはきちんとする派であるアメリアは、寝癖が酷い髪を櫛で梳き顔を洗って歯を磨く。

 軽く化粧を施し普段着ている動きやすい服に着替え終えたアメリアはそのまま玄関に向かう。

 玄関を開けるとそこにもう見慣れた日常の光景が広がっていた。

 誰もが乗れるように改良した簡易型箒機が幾百も飛ぶ光景は、技術が発達した世の中でココだけしか見れないだろう。

 その理由はレブテリア王国の西に存在する標高1万メートルは、ある縦ぼそな山頂から中腹部まで真っ直ぐに割れている事が特徴的な山アルデン。箒機の発祥の地であるこの山には箒機に関わる全てが存在する。

 

 一ヶ月前に来たときはこの光景に田舎出身のアメリアは心躍ったものだが、見慣れてしまったのかそれもとただ単に気持ちが落ち込んでいるせいか今は特に何も感じない。

 そんな朝からテンション駄々下がりなアメリアは、重たい足である場所に向かおうとしていた。レースで落下した箒機が壊れたので、整備士に修理に頼んでおいた。


 レース中箒機使いと箒機には安全対策の為に様々な魔法がかけられている。

アメリアも魔法で落下死する事は無かったが、一緒に落ちた箒機はボディーや各箇所の不具合特にエンジンが止まった原因を修理する必要があった。

 ただでさえレースの報奨金が貰えなかったアメリアにとって生活もギリギリなのに出費が増えたのは頭の痛い話である。

「はぁ〜バイト増やそうかな」

 人生思い道理にいかないものである。

 夢に向かって頑張ってるつもりでも上手くいかないときは上手くいかない。

 人生が関わってるときにはそれが顕著だ。

 

 色々と悩みながらアメリアは鍛冶と職人の街工房街にやって来ていた。


 ここは箒機の修理や開発を目的とした者達が集まり作られた地区だ。

  朝なのに其処らから鉄を叩く音や研磨機の甲高い音など様々な音が鳴り響く。

  五月蠅い場所であるが、アメリアはこう言う音が案外好きだったりする。


 地区の中心から少し離れた郊外に偏屈な整備士が営む工房がある。

 工房は少しいやかなり寂れているが、アメリアの箒機はこの工房で修理されている。

 正面玄関に備え付けられたチャイムを鳴らす。

 しばらくするとチャイムから声がする。

「……はい」

 幼さが残る声の少女が出た。

「お早うユリカちゃん。アメリアだよ」

「今行きます」

 中からパタパタと足音が此方に近づいてきて扉が開かれる。

 扉からエプロン姿の10才くらいの茶髪の少女が現れた。

「お早うございますアメリアさん」

「うん、お早う。クリスさんは起きてる?」

「起きてる。思ったよりも元気そうだな」

 ユリカの後ろから急に野太い男の声が聞こえ現れたのは、少女と同じ茶髪で眼鏡をかけるこの工房の親方クリスだった。

「絶賛傷心中ですよ」

「ここに来れただけまだ良いさ。まーとにかくまだ朝飯まだだろ、食べていけ」

「いいんですか?」

 アメリアがそう聞くとクリスではなくユリカが答えた。

「大丈夫です。きっとアメリアさんが来るってお父さんが言ってたので多めに作っておきました」

 知り合って一ヶ月しか経っていないのに、私の行動はこの親子にはバレバレのようだ。

扉の隙間からほのかに香る美味しそうな匂いに、私は相当お腹が空いていたのかクゥー、と鳴る。

「……お邪魔します」


 工房の二階には親子の生活空間があり、アメリアはキッチンで二人と朝ご飯を食べている。

 野菜たっぷりのスープに柔らかいフワフワのパンとソーセージとスクランブルエッグ普通の朝食だがとても美味しい。

「このスープとっても美味しいわ」

「当然だ。ユリカの作ったスープは世界一だからな」

 ユリカの頭を撫でようとするも手を叩かれクリスは手を下げる。

「お父さん。お客様の前で恥ずかしいことを言わないで下さい」

「相変わらずの親バカですね。余りしつこいと嫌われますよ」

 私の娘は世界一可愛いから仕方ない、と恥ずかしげも無く言うクリスと、それに呆れながらも少し嬉しそうにするユリカの仲睦まじい光景を見て少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。

 そんな二人との朝食の団欒はとても楽しかった。



「さてと一応君の箒機は昨日中に修理はしておいた」

 朝食を食べ終えアメリアとクリスは一階の工房に下りていた。

 先程のプライベートな空間と打って変わって、一階は様々な工具や機械などが整理整頓されたクリスの性格を顕した工房の真ん中に、一台だけ白い箒機が鎮座していた。

 現代の主流であるモダンで先鋭的な箒機とは違い、オーソドックスで古くさい誰から見ても骨董品なアメリアの愛機。

 魔法のお陰で何とか大破しなかったものの、外装にかなりのダメージを昨日までは負っていた。だか、アルデンで偏屈ながらも優秀で知られるクリスの仕事は、外装の細かな傷すらも修復してみせるほど完璧だった。

 

新品同様までに修理された愛機だが、肝心のエンジンがどうなったのか聞く。

 「ありがとうございます。それで、エンジンは直ったんですか?」

「それだがな。私では……此奴のエンジンを直すことができんのだ」

 先程から感じていたクリスさんの申し訳なさそうな表情からある程度は察していたが、思っていた以上に最悪な回答に心が揺さぶられる。

「そんな、?ですよね? クリスさんでも修理できないなら、もう、私。この箒機に乗れないの!」

「落ち着け」

 動揺する私の肩にクリスさんのゴツゴツした手が強くのしかかる。

 私の眼をクリスさんはジッと覗いてくる。

「いいか、落ち着くんだアメリア。深呼吸をして肩の力を抜け」

「……はい」

 肩の力を抜き浅く深呼吸をする。

 だんだんと体の力が抜け自然と心に余裕が出てくる。

「ごめんなさい! 私取り乱しちゃったみたいで、あの」

「いや、言葉足らずだった私の方が悪かった……でだ、君に一つ相談がある」

 強い覚悟と意思をクリスから感じ取った。

「私ではエンジンを直すことが出来ない……」

 クリスが本当に悔しそうに、それでもアメリアを助けるためには選択した。

 自分ではどうにか出来ないならどうにか出来る人間に手を借りる事をクリスは選んだ。


「だから、非常に腹正しいことだが、彼奴の力を借りることにした」

「彼奴? 誰何ですか」

「アーサー・ペルムソード。歴史上希にみる天才的な才能を持った箒機師であり、私の古くからの悪友さ」

 吐き捨てるようにクリスは言った。



 その頃、アルデンの中心街で、建物に取り付けられている大型の魔道モニターに映し出されている試合を鑑賞している黒髪の男がいた。

 丁度それは先日アメリアが敗北した試合だった。


「良いね。中々根性のあるお嬢さんだ。アレは良い箒機使いなる」

 男は試合を見終わるとその場から立ち去り歩き出す。

 向かう先はクリスの工房の方角だった。


 

 

 

 


 

 


 


 

 

 




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