灰桜色の髪をした少女
初めて書いた小説です。拙いところも多いと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
灰桜色の髪をした少女が、ふっと微笑みかけてきた。その笑みに、私は何か暗いものを感じてしまって仕方がなかった。
彼女の笑みは、純粋な子供の笑みのように見えてそうではない。それは、愛を知らない子供が大人に好かれるためだけに行う、打算的な笑みであった。それが一層、彼女の無邪気な哀れさを引き立てていた。
そこまで含めて、彼女の策略なのかもしれない。私は、財布の口を開いて、試しに500円玉を手に取った。すると彼女は言う。
「お兄さん、今、お財布からお金を取り出したでしょう。どうして。」
「それはその、ほら、君の風体があまりに哀れを誘ったから、恵むために。」
「それだけ?」
灰桜色の髪は、柳とともに風にたなびいて、彼女の赤い瞳を見えなくしていた。代わりに、唇が弓なりに曲がっていて、少女の割にはひどく扇情的な顔つきに見えた。それがまた、私をぞっとさせた。
おそらく、彼女が、私のような通りすがりの大人に金銭を渡されたのは、一度や二度ではないのだろう。正直にいえば私も、身なりの割に小綺麗な彼女の風貌に惹かれていて、だからこそなけなしの金銭を恵んでやろうと思いついたのかもしれない。しかし、そこにまさか春情などは含まれてはいなかった。
「何かするの。」
「まさか、それは違う。自分で言うのもなんだが、これは純粋な思いやりだよ。多分。」
「あら、それじゃ私は純粋に憐れまれたの。」
彼女は、さも疑わしいといった目つきでこちらを見上げてきた。
「なけなしの額だよ、何かしようってわけじゃないから、本当に。」
「それなら何故恵むの。」
「そりゃあ、君が可哀想に見えて。」
「じゃ、憐れまれたのね。」
彼女は、こちらへ手の平を差し向けてきた。やはり、まだどこか幼さの残る右手だった。私は、財布の中からとりだした500円玉を、彼女の手のひらの上に置いた。それからして、ふいに、財布からもう一枚500円玉を取り出して、やっぱり彼女の手の平の上に置いた。
「憐れんだね。」
「可哀想だと思ったんだよ。」
「意外なところを慰み物にされたわ。」
「ええ、そんなことないよ。うーん、そうだな。もうちょっとあげようか。」
そういうと、彼女は灰桜色の髪を振り乱して、元いた柳の木の下へ帰っていってしまった。彼女の帰っていった柳のさらに奥に、彼女と同じような身なりをした老若男女たちが、並んで座っているのが見えた。その中には、誰一人として彼女と同じような灰桜色の髪をしたものはいなかった。
彼女の灰桜色の髪が、あの座り込んでいる者たちと同じような黒色だったら、私は彼女にお金を恵んだろうか。こういうことを考えていると、自分が随分と醜いやつに見えてきてしまう。せっかく良いことをした気分なのに。
私はまた、柳の立ち並ぶ街道を、前に向かって歩き出していた。生暖かい風が、頬に向かって吹き付けていた。随分と白々しい青空だった。