この間、教室にテロリストが入ってきたときの話(前編)
あー、タイクツだ。
この学校はつまらない。意外なほど高校生活は面白くない。
授業中だが今日も日課のサインの練習でもしよう。
数学教師イノウエが発しているおよそ日本語とは思えぬ呪文のような言葉をBGMに、ノートには無数の「ハシモト」が書き込まれていく。
絶好調だ。もし俺が将来大物になってもイノウエには書いてやるものか。
ノートに40個を超えるほどのハシモトが書き込まれたとき、時計の針は10時45分を指していた。
はあ。あと15分か。かったるいなあ。なんか面白いことでもおきねえかなあ。
ガラッ
「動くなーーー!俺たちはテロリストだ!動くと撃つぜ!」
なんと、3人のテロリストが教室にはいってきた!
なんてこった…俺はなんて不幸なんだ…テロリストが教室に入ってくるなんて。
いや待てよ、何度も俺は授業中に、あるいは寝る前の布団の中で、シミュレーションしてきたじゃないか。
今こそこの経験を生かす時…ん!?
「オラアアアアアアアアアアア!」
俺の一つ前の席のミサワが急に立ち上がり、雄たけびをあげながらテロリストに突っ込んでいった。手にはペンケース。
しかしミサワのチャレンジはあっけなく失敗に終わる。
パン、パン。
テロリストの放った3発の銃弾のうち2発がミサワの腹部を貫通。崩れ落ちるミサワ。
この男は本当にペンケースでテロリストを倒せると思っていたのだろうか。
いや仮にペンケースに殺傷力があったとして、その席からテロリストまで10m近く距離がある。
間には机とかイスとか人とかの障害物もある。走って向かっても攻撃するまでに3秒くらいはかかってしまうだろう。
3秒あればアバウトに狙いを定めて引き金を引くくらい余裕であろう。
「キャーーーー!」「わーーーーー!」
ミサワの死に教室中に悲鳴が響き渡る。完全に冷静さを失っちまったようだな、みんな。
…どうやら冷静なのは俺だけのようだな。現状分析をしてみよう。
テロリストは3人。全員が拳銃を所持しており、ミサワを瞬時に撃ち殺したのを見ても殺害することに躊躇は無いようだ。
ただし、射撃精度はさほど高くないように思える。
さっきのミサワの殉死のとき、距離は近かったのに1発外していた。
射撃訓練を積んできた戦士という可能性は限りなく低いだろう。
あとは…それ以外に武器はないか…?もし銃だけなら接近してしまえば対処のしようもあるのだが。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
陸上部のシバタが席と席の間を縫うようにジグザグに走り回りながら少しずつ接近していく。
パン、パン、パン、パン。
テロリストどもが発砲するが当たらない。
なるほど、やはり奴ら射撃制度は高くない。動いている的に当てられるほどではないのだ。
これはもしかすると…手柄をとられてしまうかもしれないな。
バチバチバチバチ!
シバタの拳がテロリストの顔面に届こうかというところで激しい音が鳴り響く。
同時にシバタの身体が痙攣し、バタリと倒れこんだ。
…スタンガンもあるのか。
パン、パン。
倒れたシバタの体にテロリストどもが面倒かけさせやがってとばかりに弾丸を撃ち込む。
シバタ死亡。
離れている時の拳銃、接近された時のスタンガン。万全の備えだ。しかも相手は3人。
いくらシミュレーションを重ねてきた俺とはいえ、勝ち目はあるのか…?