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005 勤め先が倒産したところで命が取られるわけでもないし、人は雨露が凌げればなんとでも生きていけると後輩に言ったのだけれど、後輩はそんな生活はイヤですけどねと言って笑うのだ。

きょうのできごと

 久しぶりに会社に行く。

 誰かもう既に来ているのか、社員用の玄関のシャッターが上がり、鍵も開いている。

 ここで働いていたのがもう何年も前の様に感じられ、いつもは機械の稼働音で難聴になりそうなほどうるさかったのに、キンと耳鳴りがするほど静まり返っている。

 薄暗い社内、いやもう社内でも何でもないのだけれども、そんな思いを抱きながら事務所のある二階に上がっていく。

 「おお、きたか……」

 以前は身なりに厳しく、無精ヒゲなど許さなかった社長が自ら白髪の混じった無精ひげを伸ばして申し訳なさそうに笑顔を見せる。

 まだ五十代半ばなのに、ほんの少しの会わない間にずいぶん増えた白髪頭のボサボサが老け込んだように見せている。

 ふと奥を見ると寝袋が一つ置いてあって、脇にはビールの缶と一升瓶、それにコンビニ弁当のプラスチック容器が無造作に置いてあった。

 どうやら社長は泊まり込んで会社を終わらせる作業を一人でしているようだった。

 データーの整理もしているようで、僕にいくつかのデーターについて聞いてきたので、自分の知っている限りの事を答える。

 そんなやり取りをしている夢を見て僕は目覚めた。


 

 解雇通告を受けた後、会社を出る前に最後に挨拶をと、弁護士と打ち合わせをしていた社長のところに行き、声をかけると僕に今までになかった優しく寂しそうな顔をして社長は言った。

 「つらい部署にばかり回して悪かったな。こんな結果にしてしまって本当に申し訳ない」

 そして頭を下げる。

 本当にそうですよ。給料は十年も昇給しないし、残業代は出ないし、休日出勤代は出ないし、ボーナスも燃料手当も出ないし。

 などと心の中では思いつつも、僕は空気の読める男なのであった。

 「こちらこそ、力になれず申し訳ありません」

 こんな状況にでもならなければ一生見ることも無かったはずの社長の姿に戸惑いながらも僕は会社を後にしたわけなのだけど、それから社長は弁護士がいるにしても一人で後始末を続けているのだろう。

 そうした姿が印象に残っているからか、僕は社長の夢を見たのだろうと思うのだけど、これは乗り越えてもらうわけしかない。

 寝ぼけた頭でそんなことを考えるとスマホの着信音が鳴った。

 見ると元上司からである。

 こんな朝(AM9:00)から誰かと思ってみると元上司の小比類巻課長からだった。

 嫌な予感に包まれる。

 夢枕に立ったのか、それとも乗り越えられなかったのか?

 お恐る恐る電話に出ると健康保険についての話だったのである。

 

 今までは社会保険だったのだが、会社を解雇になったことですでにその日に保険証は失効し、会社に返却しているので、これからは社会保険を継続するのか、国民保険に加入するのかという事を早急に決めて手続きをしなければ保険証がないので、病院に行くと三割負担ではなくなって全額負担なのである。

 もちろん保険証が出来次第手続きをすれば三割負担に戻るため、多く払いすぎた七割分は戻ってくるのだが、しばらく先の事であるのだ。

 高血圧で病院に通っていた僕としては、薬が切れる前に何とか保険証が欲しいのだけど、なかなかどうして今現在に至っても離職票すら届いていないのである。

 社会保険はもともと会社が半分支払っていたので、この先継続する場合は給料明細に乗っている保険料の二倍の金額を払っていかなければならないことになる。 

 国民保険に支払う金額はそもそも解らない。

 社会保険は控除が無いらく、国民保険は倒産による解雇の場合は控除があり、保険料が下がるらしいのでどちらにしたらいいのか不明であった。

 社会保険の手続きと、国民保険と年金の手続きをする場所も違うので、非常にめんどくさいのである。

 とりあえず小比類巻課長と話をしたところで解決する問題でもなく、離職票が届いたらハローワークに行ったときに聞いてみようという事でオチが付き電話を切った。


 14時くらいまで離職票が届くのを待っていたが来ないので、今日は来ないだろうと思い、すでに自宅警備員となっている僕は毎日の業務として母親を連れて買い物に出かけたのである。

 今日はスマホ料金の支払いと、生命保険、ネットのプロパイダー料金が引き落とされる日なのであるが、なんせかんせ給料未払いである。

 スマホは去年の十月に変えたばかりでスマホ本体の料金を分割で支払い始めたばかりで、スマホ料金の滞納はヤバいので親に借りて直接ショップに現金で支払いに行く。


 「会社が倒産して給料未払いなので口座に一円も無いので、現金で払いに来ました」

 

 

 買い物を終えて家に戻ると離職票が入っていると思われるレターパックが届いていた。

 開ける前に小比類巻課長から電話があり、離職票が昼に届いたので、すでにハローワークに行って手続きしてきたという事だった。

 手続き自体はすぐに終わり、待機時間が始まるという。

 と言うか、小比類巻課長は行って話を聞いているはずなのだけど、イマイチ状況がつかめないのである。


 明日、起きたらすぐにハローワークに行こうと思う。


きょうくん

りあるなゆめをみたあとのちゃくしんおんはこわい

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