003.5 高血圧
からだはしほんというけれどつかいつぶすのがこのせかい
僕は高血圧である。
カロリーゼロ理論を無意識に実践してきたせいかどうかは解らないが、母親もかなり生粋の高血圧なので遺伝の可能性も無くはないのだろうとは思うけど、基本的に僕自身の生活習慣のせいであると言って差し支えないだろう。
会社の健康診断で血圧を測った時、看護師のおばさまがモニターを二度見したのは忘れもしない。
その前の前の年から健康診断のたびに、上昇気流に乗っていく感じで上がり続けていたのだけれど、その年はついに計測不能と表示された。
社内の記録更新であった。
ちなみに前のタイトルホルダーは僕よりも15歳くらい年上の方で、よく朝礼の最中に倒れたりして救急車で運ばれていた方だった。
他に糖尿やら、アルコール依存症疑惑もあり、震える手の原因は何であろうかと社内で噂され、ときどき駐車場に行き自分の車の中に常備している水筒で給水しているのを目撃されていたのであるが、その中身はウィスキーの水割りではなかろうかと囁かれていた。
その方がウィスキーが大好きだという事はみな知っていたからである。
まぁ、半分冗談の噂話であるのだけれど。
しかし三回目に倒れた時、もうすでにアルバイトでありながらも定年退職年齢であり、社長の遠縁であるということもあり今までは雇い続けてきたが、さすがに健康問題もあり、解雇を言い渡された。
その方と並ぶタイトル奪取であった。
この時僕は43歳。
改めて二度目の計測。
限界突破である。
機械では図ることが出来ないと判断した看護師のおばさまは、聴診器を僕の左腕にあててアナログで計測を開始した。
210/105
あまり血圧に知識がない僕でも、これは確かにやばい数字だと理解できる。
「すぐに病院へ行ってください」
おばさまはまるで余命宣告の様に僕に言う。
何ならもう救急車を呼ぶレベルですみたいな事を他の看護師のお姉さん方が囁いている。
そう言えばちょうどその少し前から、寝ていて目を覚ますとき、飛び起きるような起き方をすることが続いていて、意識が覚醒した時には心臓がバクバクと脈打っているという体の変調は確かに気が付いていたのではある。
しかし仕事は忙しい。
健康診断なんてしているから、その後の予定が当時はギュウギュウに詰まっていたのである。
しかも当時はまだ銀玉遊戯で作ってしまった借金330万円を債務整理して毎月6万円を払っている最中なので、病院行くお金は給料日前という事もあってなかったのである。
だからおばさまの言葉は有難く頂戴し、給料が出てから病院行こうと決めたのであったのだが、僕の後ろで次の順番待ちをしていたのは社長だったのである。
「病院に行ったら報告するように」
社長にそう言明されてしまったのである。
後で聞いた話では、検査で引っかかった人が出ると、会社の方も把握することになるらしく、経理にも医者に行くようにと厳命されたのである。
後日、お金が出来た僕は社長も通っているという会社近くの内科病院に行くことにした。
なんでもとても空いていて、待ち時間が全くない僕らのような時間の無い人達には最適な病院であるという。
行ってみると言われた通り僕以外には患者さんの姿がまるで見ることのできない、待ち時間ゼロで診察をしてくれるという素晴らしい病院だった。
気さくな院長先生の専門は消化器系・胃カメラだそうだった。
健康診断の血圧の数値を伝えるとそれはちょっとやばいねぇと言う。
血圧を測ったらやっぱり200オーバー。
採血をして、薬を出してもらい、それから4年間毎日飲むことになっている。
とりあえず、血圧が高いということ以外に異常はないのでそれ以外の治療などしていないのだけれども、会社が倒産した事によって問題が発生している。
会社が倒産し、解雇されるとその時点で健康保険証が失効してしまうのである。
病院に行こうものなら全額負担である。
会社が倒産して解雇となると、社会保険を継続するなり、国保に切り替えるなりする手続きをすれば保険証が届くまでは全額負担だが、あとから手続きをすれば解雇の日から三割負担となり負担した残りの七割が戻ってくるという。
僕は月一で診察して薬を貰うだけだから、全額負担でも大した金額ではないが(それでもないのだけれど)、同僚に糖尿病一型なってしまった人がいて、その人が全額負担すると、一回の受信で3万円かかるという。
思えばその糖尿の人も、ずっと夜勤専属で、何年も何年も一人で夜勤していたのだけれど、ある日会社に出てこなくて連絡したら家で急に調子が悪くなり、救急車で病院に運ばれて検査を受けると膵臓が活動を停止していると言われたらしい。
僕も若いころの睡眠時間が三時間と言う生活が祟って高血圧になったのかはわからないけれど無茶な生活の反動はきっと後からやって来る。
ちなみに残業代も夜勤代ももちろん無いので、体を壊したのは全く意味のない事だった。
きょうくん
かいしゃはいざというときまもってくれない