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021 道端の雑草の様に生きる事をささやかな夢としたけれど、世の中は雑草じゃ存在価値を見いだしてくれることはだいたいないよ。ほんとだよ。

電話長い

年末となり職業訓練に通っている学校も休みに入った。

割と仲良くさせてもらっているクラスメイト達もしばらくのお別れである。

そんな中で、前職が一緒だったので特に気が合うというか、同じブラックな労働環境下で働いていたと言う仲間意識があったので、特に仲良くさせてもらっている2つ年下のクラスメートの水前寺さんから連絡があった。


最初はLINEだった。

相談事があると言う内容で、気がついたのが真夜中だったということもあり、既読をつけずに睡眠し、翌朝に何かありましたか?とLINEを返す。


その日は夕方から前の会社で一緒に働いていた後輩と飲みに行く約束をしていて、夕方繁華街に繰り出した。

駅の前で後輩と待ち合わせをし、近くの居酒屋に入る。

僕は前の会社が倒産したことにより、その業界とは全く関係ない業種を再就職先に選んだ。

だから今は職業訓練の制度を使って介護の勉強している。

それに対して後輩君は、前の会社と同じ業種の仕事を選択して、誘いがあったのですぐに働き始めた。


彼はもともと国内最大手とも言える会社で働いていて、会社が潰れる1年前に転勤が嫌でそこを止めて入社してきた。


そして入社直後は僕に付いて働いていた。

僕の所といっても、彼はできる子である。

微妙に機械や様式が違うので、戸惑う部分もあったかもしれないが、そんな些細な部分を僕が彼に教えたのだが、彼は能力が高いのですぐに吸収し、僕を越えていったのである。


だからこそ17歳も年下だけど、別に僕は彼のただの同僚であって、先輩風を吹かせるつもりは毛頭なかった。

むしろ僕を助けて欲しいと思っていたくらいである。

そんなところが良かったのか、会社が潰れてしまえば、つながりも切れてもおかしくないような状況なのだけど、時々彼から定期的にLINEが来て、飲みにいきましょうと誘ってくれるのである。

従業員20人ほどの会社だったが、今でも連絡をとっているのは彼ぐらいだった。


お互いの近況を話し、これからのお互いの人生やお金の話について語り合う。

めんどくさいので彼を山田君とする。


「潰れた会社みたいな酷い所はもうないんだろうと、いま働いている会社に入った時は思っていたのだけれど、あれ以上に酷い所はもうないだろうと思っていたんだけれど、いま働いてる所もなかなかで、失敗したと思っています。だから次はもう少し選んで働こうと思っています」


僕らが働いていたのは時代の波に押されて末期症状にある業種であり、あと何年かしたらほとんどの会社は消えてしまうんじゃないかと思ってる位である。

社会に必要とされてない業種でだった。

それでも山田くんはまだこの世界の片隅で働くと言う。


「大丈夫です。この世界に、この業種の会社がたとえ一社しか残らないとしても、僕はそのたった一社で働いている自信があります」


とてもビッグマウスのように聞こえるかもしれないが、僕の目から見ても山田君は優秀なので、できそうな気がするのである。


ビッグマウスを聞いているとは思わない。


「僕はもう年齢的なこともあって、いまさら一からやろうと思っても雇ってくれるところもないだろうし、たとえあったとしても給料が安いと思う。だから職業訓練で資格を取ってから働けるので、介護の仕事をしていこうと思った。これからも世の中には必要とされる仕事であるし、求人もたくさんあるし年齢に関係なく働ける仕事だからね」


「そうだと思いますよ。仕事はこれからどんどん大きくなっていきますし」


「山田君はどうするの? 今の会社で働き続けるの?」

「すぐに辞めますよ。誘いはいくらでもありますからね。もちろん今の会社の状況が改善されていくならば、働き続けるのもありでしょうけど。ただ経営陣から頭悪い連中ばかりで、あいつらは仕事というもの、経営というものを、どう考えてるのか理解できないですね。何にも考えてないのが正解でしょうけど。利益を出さないといけないのに、利益を出そうと言う意欲がないと経営者で染まっていますからね。馬鹿ばっかりです。それだもの会社が儲かるわけがないんですよ。もう、そう遠くないうちに今の会社も潰れますね」


「これからどうするの? もう自分でやるか、今の会社で会社立て直してやるから社長にさせろって、親会社に言ってみたらw」


「いやですよ。借金のある会社の社長なんて。僕はねぇ、きちんと考えているんです。最終的な理想は個人投資家ですね。一緒に株とか仮想通貨とかFXをやりませんか? 買わないと勝てないんですよ?」

「パチンコと一緒だよね。俺は財布の中が空っぽになるまでぶち込んでいくタイプ。正確には借金してでもギャンブルすると言う破滅型の人間だもの、株とかFXとか、投資は向かないと思う。大穴を狙うタイプなので、そういう人間は投資にはいかないと思う」


そんな個人投資家の夢を語る山田くんと居酒屋を2軒はしごして飲み歩いてから別れた。



帰りの電車の中で職業訓練のクラスメートである元同業者の45歳からLINE電話が入っていたのに気がついた。


またまためんどくさいので、仮の名前を水前寺さんとする。


正直言って彼は酒癖が悪い。


僕は、と言うか誰でもそうかもしれないが、酒癖の悪い人間は好きでは無い。

どんなに飲んでも、楽しく飲んでくれるなら全然問題ないのだが、飲酒によって気が大きくなってしまう人や、自分の限界を超えて泥酔し、他の人に迷惑かけるような人は好きでは無い。

もちろん人間だから1度や2度の失敗はあるだろう。

一度や二度の失敗を言うつもりはないのだけれど、毎回その調子で飲まれると気になって仕方がない。

僕はビールをジョッキで7杯ほど飲んだら気持ちが悪くなるので、5杯を自分のデッドラインに決めており、飲み会でみんなが楽しそうに飲んでいるのを見るのが好きなタイプの人間である。

水前寺さんは酒が入るとグチっぽくなるタイプである。

飲み会の席では延々と飲み続けても最終的には自宅までたどり着ける事のできる人なので、ジョッキを一次会で20杯以上のみ、二次会でまたまたジョッキで何杯か飲み、そのまま眠りに落ちる人に比べればマシなのであるが、自分が楽しくないと不機嫌になるタイプでもある。


自分はあくまで職業訓練に通う学校のクラスメートでやって、彼の上司でもなければ親でもない。

愚痴や説教を聞くいわれはないし、自分でお金を払って楽しくないお金を楽しくない酒の飲むつもりもない。

だから一緒に飲みに行くと言うこともなかったし、自分から誘う事は基本的にないだろう。

そんな水前寺さんは1人で飲むのも好きなタイプらしい。

そして電話をかけてくる。

僕のところにである。

正確には他にも犠牲者はいるそうなのだけれど、いままで何度かあったのだけれど、どろれつの回らない様子で延々と同じ話をされ、寝落ちされると言うことがあった。

休みの日には夜通し朝まで飲んでいるらしく、早朝に電話をかけてきて、こちらがもう用事があるので切っていいかと言うまで話し続ける。

そしてその日の夜にまた電話をかけてきて、午前中に寝落ちのする前に話していた事を繰り返すのである。

もちろんそれを本人に言えばいいのだろうが、それを言えないのはあと残り3ヶ月の間に、人間関係をめんどくさいことにしたくないからである。

仕方ないので、何かありましたらとLINEを送る。

返事が来たのは翌朝だった。

大丈夫ですと言う返事があった。


何が大丈夫かわからないが、彼は電話で話したいのかLINEで詳しい話は文字で送ってくれない。


放置してたら、その日の夕方に電話が来た。

12月30日15日(←時かな?)のことである。


「どうかしました」


「いやー、実は相談があって、いま大丈夫ですか?忙しいみたいですけど」


「大丈夫ですよ。なんですか?」


「城内さんなんですけど。あの人は一体何なんですかね。自分勝手というか、周りの空気を読まないというか。なんか、あの、すごく腹立ったんですよね」


しらねーよと思うのはきっと僕だけではないだろう。

城内さんと言うのは30代初めのスレンダーなギャル風の女性。

クラスメイト30人の中で1番遅刻が多い。

休憩時間が終わってもなかなか戻って来なかったり、実技の授業では決められた服装指定を守っていなかったり、空気が乾燥していると喉が痛いと、体調が悪いと言って授業を放棄しているような状態である。

しかし実は聞いていないように思える座学も、実技もかなり優秀で、もともと介護の仕事で働いていたと言うのもあるかもしれないが、成績自体は優秀な生徒である。

端から見れば学級崩壊とか言えなくもないのであるが、明らかな発達障害系の人であると僕は思っていた。

席が近かったのでグループワークで話もしたことがあったのだけど、自分の考え方もきちんと思っている人であったので僕は割と好感を持って様子を見ている。

多くの生徒は訓練終了後は、高齢者介護に行こうと思っているが、彼女は最初から障害児の介助を希望しており、そういった面でも自分の考えをしっかりと持った人である。

今でも授業が終わった後は障害者施設でアルバイトしてるらしく、そういった面でも自分の目指すものに対してやる気はあると思う。


「城内さんは仕方ないですよ。先生たちもそこまで注意しないじゃないですか?彼女はそういった面で空気が読めない人だっていうのはわかっているから、先生たちもあまり言わないじゃないですか?発達障害だってわかってるんじゃないすね?」


「鰤鰤さん、俺の彼女と同じこと言っている‼︎ 実は彼女にも相談したんですよ。寒いのに休憩時間に窓を開けて自分では閉めなかったり、実技の授業でも髪をまとめるとか、動きやすい靴を履くとか決められているのに全く守らないので担当の講師の先生の機嫌を悪くさせてとばっちりで空気が悪くなったりするのに、本人は何も考えてないみたいだっちゅう話をしたんです。そしたら俺の彼女が発達障害なんだから仕方ないでしょう。そういう子なんだから腹を立てるのがおかしいと言われたんですよ」


「あの空気の読まなさは凄いですよね。水前寺の彼女さんは看護師長さんだから、そういう人たちを知っているんでしょ」


「……彼女と同じ話を聞いて納得しました。俺がものを知らないだけなんですね。もう腹立って腹立って、怒鳴りつけてやろうかと、何度も思ったんですよ」


水前寺さんは酒が入ってない状態でこんな様子であるから、酒が入ったらめんどくさいことになるのは言わなくてもご理解いただけるだろう。

そして今は酒が入っている状態で、所々呂律が回ってないのである。


「授業で受容と傾聴ってやったじゃないですか。相手を否定しない、相手の言葉をそのまま受け入れる。きっと城内さんにも自分なりの言い分があって、彼女はそれに従って生きているだけなのだから。それに他人がどうこう言ったところで彼女はきっと変わらないでしょう。もちろんそれが周りに実害が出るようだったら問題がありますけれども」


「やっぱり俺が悪いのか。彼女にも言われるし、鰤鰤さんにも言われるし、俺が知らないだけなんですね。物知りですよね。鰤鰤さんって」


言葉尻がいちいち毒があるのはなんだろう。


「広く浅くがモットーです。ネットでも達障害とかうつ病とか、そういった人たちとつながることが多くて、気になったことをネットで検索したりして読んでたからです。そういった人たちは周りに理解されなくて周囲の人たちとの人間関係に障害があったりするのですけど、彼女たちには自分でどうにかできる問題でもないですから周りが理解してあげる必要があるんじゃないかと思いますよ」


「そうなんですね納得するしかないんですね。俺がおかしいだけなんですね。まぁそれはどうでもいいんですけど」


明らかに全く何にも納得してない様子だったが、水前寺さんはこの話を切り上げる。

しかしまだ話したいことがあると言うのである。

この時点でもう、40分ぐらい話してるので、いい加減電話を切りたかったのだけども、仕方ないので話を聞くことにする。


「まだ他に何があるんですか」

「介護の仕事の事なんですけども、給料が安いじゃないですか。彼女の給料年収が800万あるんですけどで、男として彼女に年収も負けているのが納得いかないですよ。彼女には、あんたがどんなに頑張っても一生、年収が超えられる事は無いと言われましたよ」


「僕ら、働き始めても夜勤がなかったら230万くらいしかないですよ」


この話は前に水前寺さんには言ってあったのだけど、どうやら水前寺さんは冗談だと思っていたらしい。


「マジで言ってますか? 手取り15万くらいしかないじゃないですか⁉︎」


「何言ってんですか、年収は総支給額で計算してるんで、社会保険とか税金とか引かれるから、手取りは11万しかないですよ」


電話の向こうで水前寺さんの呼吸が止まったのがわかった。


「……生活できないんじゃないですか?」


「そうですね。。でも何の技術も経験もなく状態で働こうと思ったら、他の仕事でもそれぐらいが相場ですよ? だからタバコも吸えなくなるし、格安スマホに変えていかないと破綻しています」


「この前、鰤鰤さんが確かに言ってましたけど、冗談と思ってました。どうやって生活していけばいいんですか?一気にやる気がなくなったじゃないですか? 責任とってください」


そう言って水前寺さんは力なく笑うのである。


「月に5回ぐらい夜勤をやるのは5万近くにはなりますけども、入社して夜勤をやらせてもらえる様になるまで、半年から1年ぐらいかかるそうだからら、キツいのには変わらないです」


「マジですか……月に自由になるお金が10万くらい無いと何のために働いてるか、分かんないじゃないですか。タバコも吸えないじゃないですか。禁煙しろって言うんですか。酒も飲みに行けないじゃないですか。何が楽しくて生きているんですか?」

「嗜好品なんて無理ですよ。休憩の時に飲む缶コーヒーだって飲めなくなりますからね。毎日麦茶をマイボトルに入れて持っていくしかないんですよ」


「生きてて楽しいんですか?俺たちの人権はどこにあるんです?働くの嫌になってきました」


「人権と尊厳を守るための職業である介護職が、一番人権がないと言う矛盾」


「一緒に何か別の商売やりましょうよ」


「自分で商売するのは怖いです。自分は少なくとも介護福祉士の資格を取るまでは働きますよ」


こうやって水前寺さんとの会話は行ったり来たりと繰り返し、気がつけば1時間半の通話時間を超えていた。

自分から切ろうとしない水前寺さんのの代わりに僕が最後通牒を出す。


「すいません水前寺さん、母親を買い物に連れて行かないといけないものでここら辺で」

彼女に養ってもらう道もある

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