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020 僕にとってどうにか出来る世界とは、手が届く範囲だけが全てなのだけれども、他人のそのパーソナルスペースに入っていくのは心がすり減るくらい難しい

■介護と僕


職業訓練で介護福祉士の勉強始めて思った事は、座学は割と得意な分野であったと言えるだろう。


それとは逆に、介護実技は不器用すぎて不得意だ。

子供の頃から体が硬く、メタボリックでポッチャリなゆるふわボディの今の体では、靴下を履くのも一苦労している。

介護の現場で離職していく人々の理由は、人間関係と、腰を壊してしまった事が最大の理由であると聞く。

だからこそ「ボディーメカニクス」と言う介護の現場での体の使い方を徹底的に仕込まれている。


体を捻ることなく、直線的な動きで体に負担がかからないようにテコの原理をつかう。

そして見た目が機敏で美しく動くことが重要視されている。


早い話が、プロの動きと言うものなんだけど、そんな動きはズブの素人に期待できるものであるわけがもない。

約2週間にわたって、毎日6時間授業で徹底的に講師が鬼軍曹と思う呼べる調子で叩き込まれるのである。

ベッドに横になっている状態から、体の不自由な人をベッドの端に座らせるために体を起こしたり、そこから車椅子や普通の椅子に移動させたりする技術。

生徒でグループを作り、介助される人と介助する人に別れて練習する。

介護と言うのは相手のパーソナルスペースに入って行く仕事だ。


精神的にもそうなのであるが、相手を抱き抱えたり密着したりすることになる。

クラスには女性の方が男性よりも倍以上多いので必然的に女性と練習する事も多くなるのはけども、やはりそこは職業介護でやっていこうと思う人ばかりなので照れることもなく最初の授業からすんなりと密着していくこととなった。

恥ずかしいとか照れくさいとか言う人はいないのである。

基本的にみんなそれなりの歳月を生きてきている人たちであるから、思春期真っ盛りの中学生のような事はないのだけれど、それでもやはり気を使う事は多い。

特にスメルには気を使う。

消臭スプレー、加齢臭除去の医薬用ボディーソープは高いのを使い、気遣いを欠かさない。


介護と言うものは、歳をとって体が言うことをきかなくなっり、病気や怪我で不自由な体の人に対して、不自由な部分を介護者がしてあげるものだと思っていた。

しかし授業を受けていく中で、介助をしてあげるのではなく、仕事ととしてさせて頂いているのだと考えを改めさせられる、

むしろこちら側が「介護させて頂き、ありがとうございます」と言わなければならないのだと。

介護はサービス業であるから、お客様は神様です。

この考えは、自宅で親の介護をしなければならなくなった時には自分では思えないだろう。

仕事では思えるかもしれないが、現実的に親の介護問題が目の前に立ち塞がってきている自分からすると、僕の時間を親に奪われてしまう事が納得できないのである。

産んで育ててくれた親に対してそう思うのはいかがなものかと思うかもしれないが、人は野生動物ではないのだから、本能だけで子供を作り、後は育てよと言いコンクリートジャングルに放置されても困る。

それなりの先行投資をしたのであるならば、そんな親のために介護をするのもやぶさかでないだろうが、


「高校を出たら働いて家に金を入れろ。大学や専門学校に通わせるお金も時間もない。どうせ大学に行ったって、遊び呆けるだけだろう」


と言って給料の三分の一を上納させ、自分たちは貯蓄もせずに老齢期をむかえて金が無いと言われてもそれは僕のせいではないと思うのだ。

僕は僕一人生きていくだけで精一杯なのである。

だからこそ、親はもちろん九年間失踪中である姉や、置き去りにして行った小学生の頃から不登校で中学には一度も行かずに卒業した甥っ子。そしてありとあらゆるところに借金していて、僕からも今現在で三十六万円ほど借りていて返す気もない糖尿病を患っていて、糖尿病性の網膜剥離で両眼を失明しそうな弟の面倒を見ている余裕はないのである。

僕は結婚もする事もなく、だからこそ子供もいないのであるけれど、自分一人が生きていくくらいなら何とかなるかも知れない人生を歩んできたつもりだったのだけれども、気がついたら何もかも終わりそうな現状だったのである。

出来るだけ現実に目を背けて生きていく。



■介護保険


40歳になったところ、普段は開けることもない給料明細の袋を、開けたことがあった。

完全固定給であり、月によっての変動は全く無く、残業代も夜勤手当も全く付かない完全無敵のブラック企業だったので、給料明細など全く意味がなっかったからだ。

しかし経理の課長に今月から介護保険が引かれる事になったので中身を確認しといてねと言われたので開封した。


それまでは介護保険等と言うものは、自分が年老いた時の話しであって、全くもってそれまで特に気にした事もなかった。

改めて自分が年老いたと言うことを思い知らされた気がした。


引かれる時は何も言わないで、勝手に給料から引かれていると言うのに、いざ介護保険が執拗になった時は自分で地域包括センターみたいな関係各所に手続きしなければならない。

そこで医師から介護度の認定を受けなければならいという事がある。

介護保険に限らず、この国で何か行政から支援を受けようと思えば、申請を自分でしなければならない。

こんな支援がありますよと言う周知活動は全くないわけでは無いのだけれど、それが分かりにくかったり表立って宣伝されているわけではない。

役所に行っても、それらの告知活動であるチラシは発見できるかどうかわからないような場所に、ごく少数置かれているだけだったりする。

バレなければバレなかったほうがいいと言う感じである。

権利はある。

しかしその権利は主張しなければ恩恵を受けないのである。

病院などにかかってもいれば、個人個人の状況というのが把握できそうなものであるが、金がかかる事なので、見て見ないふりをしているのかもしれないとおもうのだ。

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