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003 時の流れに身を任せなどと言うが、流れに乗ることが出来る奴と流れに飲み込まれてしまう奴もいるのだけれど、飛び込んでみなければ始まる事も無い。イチかバチかの勝負に出ても誰も助けてくれない。

せかいはそういうふうにできている

 初めての就職。

 初めての職場。

 平成の始まりの年。

 広がった人間関係など、杉岡龍児の人生第二幕は波乱に満ちた幕開けをしたわけではあるが、それも八年の歳月で幕を閉じる。

 バブル景気の終焉と共にうなぎ登りだった業績も、下がり続けた上に、印刷業界にとって産業革命時代の活版印刷の発明と並ぶくらいの技術革新が起きたのである。


 それは新印刷三種の神器の登場。

 Photoshop。

 illustrator。

 QuarkXPress。


 そしてそれらを動かすMacintosh。

 早い話がデジタル化 DTPの登場である。

 それまではそれぞれのソフトの行える工程を、その道の職人さんがアナログ作業を個別に受け持って行われていた。

 それが全ての作業をモニター一つでやる事ができる時代になったのである。

 

 「お前もういらねーから!!」


 職人さん達はそう言われる時代に突入したのであった。 

 そんな波に乗り遅れた会社が滅びるのはまた必然であったという。



 吹き荒れるリストラの嵐。

 飛び交う罵声に、荒ぶる課長。

 泣き出す営業。

 

 リストラ宣告を受けた当時三十代の、ほんのちょっぴり人格的に問題のあった「あぁ、女神さま」に登場するヒロイン・ベルダンディーが大好きだったベルダンディー課長は、リストラ宣告を受けたその場でこう言ったという。

 「俺をリストラしたら何をするかわからない。夜道には気をつけろよ」

 と言い残し、解雇宣告を受けた日を会社に出社し続けて、うやむやになって最後の日まで勤め上げることになる。

 

 出社したら会社の前に止めてあった数台の営業車のフロントガラスに、お葬式の祭壇に飾られるような白い花が奇麗に並べられて飾られていた事もあった。

 それでも全ては今にして思えばいい思い出であり、その時代はその時代で、失われた十年などではなく確かに存在した日々であったのである。

 

 

  かくして僕・杉岡龍児が最初に勤めた会社は倒産することになった。

  27歳の秋の事である。


 細かい話をするならば、ここでどうやって倒産を乗り越えたのか?などと言う、手続きの話もあるのだろうが、正直言ってあまり記憶にないのである。

 行ったと言えば職安くらいで、その手続きもすぐに次の就職先が決まっていたのであまり動き回った記憶も無い。

 退職金もあったのかもしれないが、手続きをした覚えがないので何にもなかったんだろう。



 二度目の倒産を経験することになり、当時の記憶を探ってみたのだが、役に立ちそうな記憶が全くないのである。

 ちょうどそこに親父が帰ってきた。

 二階の自室にいた僕が一階の居間に降りると親父が言った。

 「わからんかったのか? 普通経理とか気が付くだろ」

 「それが、経理と社長はチョメチョメで、ギリギリまで外に濡れてこなかった」

 「給料は?」

 「丸々一月分未払い。退職金は手続きしてからひと月くらいで出るけど」


 「会社行って、金目の物を持ってこい」

 「建物は賃貸だし、金目のものなんてないから。しかも弁護士が持ち出さないように見てるし。もう今頃は会社の玄関に張り紙されていて、中に入る事は出来ないから」

 「退職金だってわからんぞ。潰れる会社に払えるわけ無いだろ」

 「退職金は会社が潰れようが潰れまいが、会社と切り離されたところで積み立てられているから、払ってるところまで問題なく出るから」

 そう言うと親父は少し納得したようで、僕を見てこう言った。


 「お前、会社を二つも潰したのか?」

 その表情は笑っている。

 「いやいや何を仰るお父様。うちの会社は社員十六名のうち二度目の倒産経験者は七人で、さらに倒産が三回目と言う古強者のいるのですよ。まだまだ二度目ではトップを取ることはできないのでござるよ」

 和やかな空気が流れる中、夜勤専属で五年ほど過ごしてきた僕は、久しぶりに親父とともに食卓を囲み、この後の事などサラッと話し合ったのだった。

 

 こうして倒産二日目の夜は深けていく。


 ……二日目。

 そう二日目である。

 本当は会社が倒産したのは前日の事であり、そして親父に会社が倒産した事を告げたのはその翌日である。

 なぜそうなったかと言えば、会社が倒産した当日は上手くタイミングが合わずに言い出すことが出来ずにいたのだった。

 仕方ないので既に会社は倒産していたのだけれども、僕はいつも通りに昼から起き、会社行くと家を出てから外をぶらぶらして、親父が仕事が終わった時間を見込んでメールしたのであった。

 何分しばらくは金がなく、迷惑をかける事になるから申し訳ないという気持ちもあり、しかもわずかに手元にあったお金を少しでも増やそうと、解雇通告を受けたその足で銀玉遊戯に直行し、スカンピンのドッチラケにやられて無一文になっていたからでもある。

 しゃーない。

 人生はそういう風に出来ている。

きょうくん

しつぎょうちゅうにぎゃんぶるはよくない

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