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002 後悔はやってからにしろと意識高い系は言うけれども、本当に意識が高い人ならば、最初から後悔しない選択肢を慎重に取るはずだけれども、どうにもこうにもそれでさえ後悔しないとは限らないのだよ人生は。

こんなみらいのないセカイではたらきはじめたきっかけ

 先に家に帰ったのは僕の方で、親父はまだ家に帰ってはいなかった。

 「父さん、倒産したよ」

 とだけのメールしかいていないのだけど、実は人生で勤め先が倒産するのは二回目の事なので、きっと十分伝わっているはずでである。

 

 それはまだ僕が、少年から大人の階段を登シンデレラであった頃。

 バブル景気の真っただ中に、僕は高校を卒業する事となった。

 ハローワークから回ってきた求人票は、月刊少年マガジン程のファィルが、三冊ほど各クラスに置いてあり、就職相談室に行けば、更なる求人票が待ち構えていると言う、その五年後くらいから始まる就職氷河期の時代には考えられない程の売り手市場だったのである。

 猫も杓子も孫の手でもという状態であった。

 そんな好条件の中で既に試験休みに入り、後は卒業式に出るだけだと言うのに、進路がまだ決まっていない僕のところへクラス担任から電話が来たのである。

 「うちのクラスで進路が決まってないのオマエだけなんだけど、どうするんだよ?」

 家庭の財政的な問題で、高校の入学とともに進学をあきらめなくてはならなかった。

 僕は高校三年間を拗ねて過ごした男のである。

 何かに熱中することも無ければ、恋に溺れることも無く、教室の隅の方で大人しくマンガを読んでいるような生徒であった。

 きっと当時の担任教師達でさえも僕の記憶はないだろう。 

 僕自身、高校の担任教師やクラスメイトの名前も顔もほとんど覚えていないのだから。

 そんな僕であるから、高校を卒業した後はブラブラとして、東南アジアを放浪するバックパッカーにでもなろうかと考えていた程度であり、将来になんら夢も希望も持っていなかったのである。

 

 なぜなら時はまさに世紀末であった。

 澱んだ空気が世界に立ち込めていた頃であり、ノストラダムスの大予言によれば、あと数年で空から恐怖の大魔王が降ってくるとテレビや雑誌で大々的に報道されていたからである。

 僕はその時を指折り数えて計算し、僕の人生は27で終わるのだという真理を得たのである。

 なぜならテレビでそう言っているから。

 人類が生まれて何千年が過ぎたのかは知らないけれど、その終わりが自分の生きているうちにやってくるというイベント感。

 終末までの過ごし方。

 そう考えれば、面白き世を面白く過ごさなければならないはずである。

 だからこそ、僕には就労などと言う社会の歯車になる事に、割り当てる時間などこれっぽっちも無いと考えた事はご理解いただけるはずである。


 しかしながら現実という奴は僕をいつも亀甲縛りの様に縛り付けてくる。

 「蛙の子は蛙だ。トンビは鷹を生まない。さっさと仕事を決めて働け」

 と言う親父のありがたい言葉により、僕は就職するという選択肢を選ぶしかなかったのである。

 

 担任教師に呼び出された僕は進路指導室で、一枚の紙を渡された。

 「ここさぁ、人手が欲しくていくらでも雇いたいって言っているんだよ。すでに一人他のクラスから内定している奴がいるんだわ。去年卒業した先輩も働いているし、オマエ、ちょっとここに行って面接を受けてこい」

 その時に社会の授業で習った「職業選択の自由」はどこにあるのかと叫びたい気分であった。

 そもそも渡された求人票を見ても印刷関連であることが分かったが、何をしている会社であるかは理解できないのである。

 あなたの知らない世界である。

 「なんかなぁ、ポスターとかパンフレットとか作ってるらしいぞ?」

 担任もざっくり過ぎて理解できない様であった。

 基本給は他と比べてもまあまあだが、手当てがやたら多く、求人票を見ても総額でいくらもらえるのか不明であった。

 一抹の不安を覚えながらも、面接に行けと言う圧力に負けて行くことを承諾し、その日のうちに面接に行くことになったのである。

 もはや面接を適当に切り上げて、落ちることにしようと考えた。


 バスと地下鉄を乗り継いで二十分ほど歩くと、一般住宅など全く建っていない工業団地にその会社はあった。

 中に入り、担当者を呼ぶとすぐに事務所で面接は始まった。

 それから二十九年間、いまでも忘れずに覚えている面接で最初に聞かれた言葉。


 「野球好きか?うちには草野球チームがあってね。キミは体格も良いしできるだろ?」


 ドラフトか?

 それから終始野球の話が続き、自分はラグビー部で野球は見るのもやるのも好きでは無いという事を伝えると、ひどく悲しそうな象さんを思わせる瞳をした。 

 話はこれで終わりである。

 何か待遇面の話とか、なぜこの会社を志望したとか、うわさで聞いていた面接というものとだいぶかけ離れた様に感じていた。

 合否判定の日時さえも伝えられる事も無く、じゃあ今日はこれでとお開きになるところだった。

 「あの、合否判定はいつ出るでしょうか?」

 仕方なくそう聞くと、面接してくれた工場長は笑顔で言う。

 「合否も何もこっちは全然問題ないから。あとは君が来てくれるかどうかという事だけだから」


 就 職 決 定


  

 

きょうくん


きゅうりょうをいくらはらうかいわないかいしゃはやばい

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