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龍花の涙  作者: まのじ
第一章 ナイトメア編
3/39

はじめての魔法

 

「〈ぴかぴか、どっかーん〉だろ?」


「ちがうよ、〈ぱちぱち、どっかーん〉だよ!」


 カクテスとロゾーは、それぞれにありもしない魔法を詠唱し始めるので、ディズは笑いながら、腰に提げていた短剣を取り出した。


 それを鞘に納まったまま枝替わりに使うと、彼はとある魔法陣を地面に描き始める。


「なぁに? これ?」


 イリスは二人を放っておいて、ディズのそばで魔法陣を見つめる。


「簡単な魔法陣だよ」


「まほーじん?」


 イリスは首を傾げる。

 これまでは魔法らしい魔法に触れてこなかったので、そのような反応になるのは仕方がなかった。


「まほーじんって、なんか、つよそうだな!」


 いつの間にかカクテスも、ロゾーも、純人種のべスティも集まってきた。


「よし、チビ共。魔法講座を始めるぞ」


 完成した魔法陣を背景に、ディズは魔法講座を始める。


「創世神話は、聞いたことあるよな?」


「しってるよ!」


「かみさまが、せかいをつくったって、はなしだよね」


「ねるときに、パパもママも、よくおはなししてくれる!」


 ディズはうんうん、と頷いた。


「その創世神話によると、創世神(かみ)は人族には魔力は与えなかったとされている」


 すると、ディズは両手を胸の前にかざした。


「確かに神話の時代の人族は、創造神(かみ)に魔力を与えられなかったのかもしれない。でも、神話の時代から幾千年が経ち、一部の人族は進化した」


 ディズは根源に働きかける。

 すると、かざした手からバチバチと音を立てながら、雷が発生し、そしてすぐに消滅した。


「こうして魔力を操れるようになった人族のことを、魔導種って言うんだ」


「「「おぉぉぉぉ!」」」


 子供たちは羨望の眼差しをディズに向けてくる。


「ディズは、まどうしゅ、なんだ?」


「なぁ、おれは? おれは?!」


「ぼくも、まほー、使いたい!」


 べスティは子供たちを落ち着かせると、続きを促した。


「今から、お前達が魔法を使えるかどうかを判定する。ただし、もし魔法が使えなかったとしても、結果を受け入れろ。約束できるな?」


 三人は約束だと、ディズと指切りをした。


 その後、ディズはかざした手をそのまま魔法陣の上に乗せる。

 陣を消さないよう、縁に手をかけるように。


「魔法っていうのは、根源に蓄積されている魔力を糧に、精霊に祈りを捧げることで発生する」


 ディズが根源から魔力を引き出すと、魔法陣はそれに呼応するかのように青白く輝き、空中に小さな雷の球を発生させる。


「この魔法陣は、根源に眠る魔力を引き出し、視覚化させるんだ。ロゾー、ちょっと手を乗せてみろ」


 ロゾーはトコトコと魔法陣までやって来ると、しゃがみ込んでディズを見る。


「こうやって、線を消さないように手を乗せて」


「こう?」


「そうそう。それから、目をつぶるんだ。集中して、根源を探すんだ」


「んーーー……」


 ロゾーは難しそうな顔をする。


「根源は見えるものじゃない。感じるものだ」


「うーん、むずかしいよ……」


 ロゾーは目を開くと、しかし魔法陣がうっすら光を放っていることに気がつく。


「どうやら、ロゾーは魔導種みたいだな。すぐには難しいが、毎日続ければすぐに見つかるさ」


 ロゾーはそれを聞いて大いに喜び、少し離れたところにいるべスティに抱きついた。


 イリスもやってみると、一瞬だけ、魔法陣の上に水の塊ができた。


「おぉ、イリスは筋がいいな! 水魔法を使えるみたいだぜ」


「おみず! おみず! ……あっ」


 しかし、水の塊はすぐに霧散してしまう。


「続ければ大丈夫だ」


 そう励ましてやると、イリスは嬉しそうに頷いた。


「さて、カクテス」


 問題は彼だった。

 カクテスは魔法が使えない。純人種だ。

 ディズはそれを知っている。

 何をどう頑張ったとしても、純人種が魔法を操ることは出来ない。

 たとえ天地がひっくり返ったとしても不可能なのだ。


 しかし三人の中で最も魔法に憧れているのも、カクテスだ。

 他の二人が憧れの魔法を扱えるのに、自分だけが使うことが出来ないと知れば、カクテスのことだ。

 少々厄介なことになるかもしれない。


 ディズは心配そうにべスティを見る。

 彼女は首を傾げるが、すぐに思い至ったのだろう。

 頷くと、「ま・か・せ・て」と、口パクで伝えた。


「こうか? ディズ」


 カクテスは早速魔法陣に手をかざす。


「あぁ、そうだ」


 純人種がこの魔法陣に触れた時に起こる現象は一つだけ。

 ディズはその現象がいつ起きてもいいようにカクテスの隣にしゃがみ込む。


 本当はやらせない方がいいのだろう。

 きっとカクテスは、自分が純人種だと知れば傷つくだろうから。


 べスティもそうだった。

 純人種は遺伝するもので、純人種の親から魔導種は生まれない。

 だがディズも、べスティも、親を知らない。

 だから自分がどちらの種族なのかを判別できなかったのだ。


 自分が純人種だと知った時、べスティは深く傷ついていた。

 当然だ。

 唯一の同年代のディズが目の前で魔法を行使したのだから。

 だがその時の経験があるからこそ、べスティは任せろと言ってくれたのだ。


 それならば、後のことはべスティに任せ、ディズは今出来ることをするだけだ。


「んんんん……」


 カクテスは目を閉じて力む。


「カクテス、がんばって!」


「もうすこし、もうすこし!」


 イリスとロゾーは、少し離れたところで懸命にエールを送る。

 自分たちにできたのだから、カクテスも魔導種であると信じているのだろう。


「ぬぬぬぬぬぬ!!」


 エールに後押しされるかのように、カクテスが更に力む。


「ぐぬぬぬぬぬ!!!」


 さらに力む。


 しかし魔法陣はなんの反応も見せなかった。


「……ディズ……?」


 カクテスは目を開ける。

 何もアドバイスをくれないディズの顔を見つめては魔法陣に視線を落とす。


「ディズ、こんげんって、どこにあるんだ?」


 カクテスは悲しそうな表情を見せる。


「なんで、まほうじん、ひからない?」


 それでもディズは何も言わない。

 カクテスはディズの袖を掴むと強く揺すった。


「なんかいえよ! ディズ!」


「カクテス……最初に約束したよな?」


 ディズはカクテスと目線を合わせるようにしゃがんだ。


「魔法陣が反応しなかったとしても、結果を受け入れろって」


「ディズは、さいしょから、しってたのかよ! おれが、まほーをつかえないって!」


 カクテスは涙を浮かべながらディズを殴るが、しかしその拳はピタリと止まる。


「〈堅牢な盾よ 我を守りたまえ 障壁(ウォール)〉」


 ディズが発動した〈障壁(ウォール)〉が、その拳を受け止めたのだ。


 〈障壁(ウォール)〉を見たカクテスは更に激昴する。


「なんでだよ! なんでイリスもロゾーもつかえるのに! ディズだって、リーダーだって、シエルだってつかえる! なんでおれだけ……!」


「カクテス」


 カクテスは何度も何度も〈障壁(ウォール)〉を殴る。

 小さなその手は赤くなり、血が滲んでいた。

 しかし彼を呼び止める声にその手を背後から優しく握られ、ようやくその手を止めた。


「べスティ……」


 ゆっくりと振り向いたカクテスは、手を握る人物に目を向ける。


「カクテス。自分だけなんて言わないで。世界には同じように、魔法を使えない人はたくさんいる。私だって、ミュスクルだって、魔法を使えない」


 血の滲む手を開かせると、べスティは傷薬を取り出した。


「でもね、魔法を使えなくても、出来ることは沢山あるよ」


 べスティはそう言うと、傷薬をカクテスの手の甲に塗り始めた。


「回復魔法が使えなくても、こうして傷の手当ができる。火魔法を使えなくても、火は起こせる。水魔法が使えないなら、井戸から水を汲みあげればいい」


 包帯でその小さな手を巻いてあげると、カクテスは涙を零しながら、べスティを真っ直ぐに見る。


「きっと今は、とっても悔しくて、悲しいと思う。私も同じだったから」


「べスティも?」


「うん!」


 べスティは元気に笑った。


「魔法は使えないけれど、他にできることは沢山あるよ。カクテスにしか出来ないことを、一緒に探そう? イリスとロゾーを見返してやるの。ね?」


 カクテスは俯いた。

 すぐには処理しきれないだろう。


 それでも、大丈夫だ。

 彼にはべスティがついてる。

 ディズが何かしなくても、きっとべスティなら、上手く立ち直させて――


「まほうが、つかえないなら、おれは、さいきょうの、けんしになる!」


 ――……うん、大丈夫そうだな。

 すっかり立ち直ってた。


 ディズは地面に描かれた魔法陣を使えないように足で消して術式を壊すと、近くで気まずそうにしているイリスとロゾーを呼び寄せる。


「いいか、二人とも」


 二人はこくりと頷く。


「二人は魔導種だ。不思議な力が使える。でもな、それは別に特別なことじゃないし、威張れることでもない」


 ディズは二人の目をのぞき込むように見つめる。


「魔法は使えても、カクテスと友達なのは変わらねぇ。自分の力よりも、友達のことを大事にしろ。友達が悲しんでる時には、一緒に悲しんでやれ。そんで、泣き止んだら思いっきり楽しませてやるんだ」


「カクテス、げんきになる?」


「おう!魔法は自分のためじゃなく、人が笑顔になるために使うもんなんだぜ。それが出来て、はじめて本当の魔導種になれるんだ。お前らなら、出来るよな?」


「うん! イリス、できるよ!」


「ぼくも、ぼくもできる!」


 すると二人はカクテスの両隣に立ち、何やら言葉をかけ始める。


 べスティはその様子を見ながら、しかしもう大丈夫だと、思ったのだろう。

 立ち上がると、ディズの側に来た。


「カクテスは大丈夫。あの時の私よりもうんと賢い」


 そう言って、べスティは風になびく髪を耳にかけた。


「あん時のお前、凄かったもんな」


「ディズだって、凄かったよ」


「は? なんもしてねぇよ」


 ディズはそう言うと、ゆっくりと町に向けて歩き出した。

 去り際、少し頬が赤かったのを、べスティは見逃さなかった。


「もう、素直じゃないんだから……」


 それでも頬を緩ませたべスティは、ふふと笑うと、子供たちと手を繋いだ。


 空は既に日が傾き、東の空には星が輝き始めていた。


「ほら、早くしねぇと、デルニールに怒られちまうぞー」


「おこられる、おこられるー!」


「ディズが、おこられる!」


「ディズ、かわいそう!」


「え、俺なの?!」


「ふふふ、早く帰ろう!」


 五人は手を繋ぎ、仲良く町へと戻るのだった。

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