さようなら洞穴
前半なに言ってるかわかりませんので、想像で補ってくださいね。
「こ、こんにちは」
突然現れた子供達に内心驚きながらも、なんとか挨拶を口にした。考え込んでトリップする癖を治さないといけないな。と、今はこの子達に集中しろ。ぐるぐる回る思考を一旦放棄して小さな訪問者に向き直る。
「ーーーーー!ーー?ーーーーーー。」
は?
男の子の方が何か言ってるみたいなのに、何も聞き取れない。でもこの感じ、どこかで経験したような…。
「〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜。〜〜〜〜〜〜〜?」
続いて女の子が男の子に何か言ってるようだけど、やっぱり聞き取れない。なんだこれ?知らない言語だとしても声が聞き取れないのはおかしい。
「ーー、ーーーーーーーーー、ーーーーーーーーー?ーーー、ーーーーーーー。」
「〜、〜〜〜〜〜〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜。」
うん、分からん。互いに向かい合ってなにやら言い争う2人の会話に集中するが、どう頑張っても声が拾えない。周波数の違う言語でも使っているのだろうか。2人とも猫耳だし、犬笛のような人間には聞こえない言葉なんだろうか。どう見ても口パクで会話してるような光景を見てふと、水中で会話しようと頑張ってた幼少期を思い出した。あれ、どう頑張っても何言ってるかわかんないんだよなぁ。またあらぬ方向に思考が向かう。と、
ぐるるるる!
ピタっ、と言い争いをやめた2人が恐る恐る僕へと顔を向ける。一瞬クリーチャーが現れたのかと思ったが、洞穴内で反響したその音は僕のお腹から発せられたものだった。
夢の中でも、お腹って鳴るんだね。
羞恥心から現実逃避に近い思考を繰り広げると、ついさっきまでの剣呑とした雰囲気はどこへやら。男の子はけらけら笑いだし、女の子は笑いを堪えているのかプルプル震えている。
…場が和んだから結果オーライだよね。
しかし、コミュニケーションが取れないのは由々しき事態だ。どうせ夢なら会話に難儀させないでほしい。自動翻訳、実装してください。
「なぁ、腹すかしてるみたいだし、あそこに連れてってみようぜ。」
「うん、そうだね」
「は?」
突然子供達の会話を理解できるようになり、僕は思わず声を漏らしていた。
「「へ?」」
今度は子供達が同じように息を漏らす。
「あ、ごめんね。急に言葉が聞き取れたから、びっくりしちゃって、つい。」
「それはこっちのセリフだ!さっきはわけわかんない言葉でしゃべりやがって、からかってたのか!?」
「いやいや!君たちこそ僕の分からない言葉を使ってたじゃないか。」
「?わたしたちずっとこのはなし方だよ?」
???
僕たちは等しく首をかしげる。と、
ぎゅるるるるる。
僕のお腹は自己主張が強いようでここぞとばかりにその音を響かせた。
「お兄さんのお腹、怪獣みたいだね。」
「は、はは」
今度は隠すことなくクスクスと笑う女の子。
僕は苦笑いを浮かべる。
「あはは!お前よっぽど腹へってるんだな!よし、ついてこい!とっておきの場所に連れてってやる!」
男の子はそういうと僕の手を取って洞穴の外へと引っ張り出した。太陽の光が燦々と降り注ぐ外の世界は、これまで見たどんな景色よりも輝いて見えた。