第六話 王都への道のり
馬車で走ること五時間森を抜ける。森の中で湊人たちは魔物に会うことはなく、簡単に森を抜け出すことが出来た。森を抜けると暗雲が立ち込み雨が降り出してきた。
「雨か。幸先悪いわね。」
雨を不穏に感じているリエナだったがそのことは気にしない湊人がリエナに質問する。
「そういえば、リエナは一人暮らしなんだろ?両親はどこにいるんだ?」
「両親は前の大戦でね...。まだ勇者様が助けに来る前だったからずっと私と村を守ってくれた。って言っても私にはあんまり覚えてないんだけどね。あの頃はまだ幼かったから。」
「そうか、ごめんな悪いこと聞いちまった。」
「別にいいよ。でもお母さんはすごい魔法使いだったイオナが言ってた。だからね私もお母さんに負けないくらいの魔法使いになる。」
「そうか。きっとリエナだったらなれるよ。」
「ありがとう。」
リエナの笑顔に思わず見とれる湊人。ハッと我に返りリエナに聞く。
「ここから王都までは二日かかるんだろ。馬は大丈夫なのか?」
「いや、流石にずっと走りっぱなしてわけにもいかないから。この先にラーデンって言う商人たちの村があるの、そこで休憩するわ。」
「わかった。」
ラーデンに着く頃には雨は止んでいた。ラーデンにつくとリエナとは一旦分かれて商人の町を見て回ることにした。商人の村というだけあって様々な商品が色々な屋台で販売していた。
「おおー。なあおっちゃんこれはなんて言うんだ?」
湊人が指をさしていたのはビー玉のようなガラスの玉だった。
「それは幻術魔法を閉じ込めてある代物だ。これを対象に当てると幻術を見せることができるぞ。」
「へーすごいな。これいくらするんだ?」
「ざっと七百マルカだな。」
この世界では金の単位は全てマルカで統一されているらしい。ちなみに湊人たちの資金として渡されているのは三千マルカだった。
「た、高い...。七百マルカもあれば宿に四泊できるよ!」
「まあ、魔力を持たなくても魔法が発動できる代物だからな。それくらいの値段になるさ。」
「そうですかい...。じゃあこっちは?」
次に狙いを定めたのが指輪だった。
「おお、これはまあたまに障壁を貼ってくれるっていうマジックリングだな。買うか?」
「たまにってなんだよ。それ意味なくないか?」
「まあ、そう言わずに今なら百マルカにしとくよ。」
「うーん...。もう一声。」
「九..]
「じゃあ、いいや。」
「八十マルカだ!どうだ。」
「買うよ。」
「毎度有り!いやーいい買い物したねお兄さん。」
「いきなりそんな持ち上げてももう何も買わないよ。」
「そうかいなら行った行った。」
商人はしっしっとと手払いをした。
「はいはい。」
そう言うと湊人はリエナとの待ち合わせ場所に向かう。既にリエナはそこにいた。リエナは湊人の右手にはめられているマジックリングを見ると指をさした。
「それってあまり効果がないって言われてるジオのリングじゃない。」
「そんなにこれ効果がないの?」
「ええ、通常のマジックリングの効果の三分の一と言われてるわ。」
「おっさんの言ってることは本当だったのか。」
「はあ、いくらで買ったの?」
「八十マルカだけど?」
「八十マルカ!?なんでそんなにボッタくられてるのよ!」
「これでも結構値引いてもらったんだけど...」
「はぁ、そのリングは通常十マルカとかそれぐらいで金のない旅人とかが少しでも気休めとして買うものなのよ。それを八十マルカって...。」
「あのおっさん騙しやがったのか。」
「騙されるミナトも悪いわよ。はぁ、もうこれからは買いたいものがあるときは私に言ってね。」
「はい。」
会話を終えて、宿に着き今後の予定を立てていると問題が起きた。
「魔物だー!!」
いきなりの敵襲に驚く湊人たちだが村の人々はそれほど焦ってはいなかった。なぜか、それはすぐにわかった。商人たちの屋台から武器を持った男や女のパーティーが魔物たちを倒しているからだ。そう商人たちは何も自分たちだけでこの村に住んでいるわけではないこの近辺は魔物が頻繁に出現するため護衛をつけているのだ。そうでもしないとこの村では生きていけない。
先ほどの声に反応して外に出た湊人がその凄まじい戦闘を見て声を上げる。
「す、すごいなこれは。」
「ええ、ここにいる人たち全員がかなり腕の立つ人たちみたいね。」
話していると魔物が湊人たちに向かって走ってくる。ランプラドで見たのとは違いゴブリンがひとまわりほど大きかった。
「グルシュァァァ!」
ゴブリンが湊人をつかもうとするがそれをバックステップで躱すと横に回り込み脇腹にダガーを差し込む。
「イギャァァァ!!」
ゴブリンが悲鳴を上げる。しかし湊人は止まらなかった、そのまま腰のフォルダーからソードブレイカーを抜くとゴブリンの喉を掻っ切る。
「ミナト...こんなに強くなったんだ。」
リエナはイオナから湊人が修行していると聞いたがここまで強くなっているとは思わなかった。たった二週間で急成長しているのだ修行していたクリスが一番驚いていただろう。
「ミナト本当に強くなったね。」
「ありがとう。でもまだ終わりじゃないみたい。」
湊人が言うとおり村ではまだ魔物と人々が戦っていた。
「これじゃあおちおち寝てもいられないわ。私たちも行きましょう。」
「うん。行こう!」
湊人たちが走り出すと一体の魔物が飛び出してくる。湊人は見たことがない種だった。一言で表すとトカゲだった。しかし体はさながら人間のそれだった。
「リザードマンね。あいつは体が硬いから私が魔法を詠唱し終えるまで引きつけておいて。」
「了解ッ」
そう言うと湊人は駆け出す。リザードマンは湊人を捕まえようと腕を振るが湊人がそれを回避する。ちょこまかと動かれ頭にきたリザードマンが大ぶりの攻撃を仕掛ける。それを避けた湊人は相手に一撃を入れたがギィンッ!と硬いウロコに弾かれる。
「硬いな!」
「ミナト!いいわよ!」
「あいよ!」
そう言うと湊人はリザードマンに蹴りを入れ後退する。
「スペル・フリーズ・氷柱」
リエナがそう唱えるとリザードマンの下に魔法陣が浮かび上がる。そして氷の柱がリザードマンを貫いた。
「やっぱり容赦ないなリエナは。」
「ミナトもさっきゴブリンを切り刻んでたじゃない。」
「ま、まあそれは置いといて終わったみたいだね。」
「そうね。私たちがいなくても全然平気そうみたいだね。」
「そうだね。でも大丈夫かな村は?」
リエナが村人たちを見ていう。
「大丈夫よ。だってみんな笑ってるんだから。」
リエナの言うとおり村の人々は皆、魔物に打ち勝ち活気づいていた。
「あれなら、商品まけてくれそうだね。」
「ふふ。そうね。行ってみる?」
「行こうか。」
笑顔で答える湊人。リエナはその笑顔に魅了されていた。
次の日の早朝湊人たちはラーデンを出発するために馬車に荷物を積んでいると。一人の男が話しかけてくる。
「よお。昨夜は活躍してたな坊主。」
「あ!ぼったくりのおっさん!」
「まあまあ、そう言うなってそのことについて悪いと思ってここに来たんだ。」
「え?」
「その荷物を見ると王都かそれよりも奥に行くんだろ?」
「そうだけど。」
「だったらこれをもって行きな。」
そう言って商人が渡してきたのは高額で買えなかった。幻術魔法のマジックアイテムだった。
「いいのこれ?」
「いいさ。お前さんのおかげでうちの店が襲われなかったからな。」
「そんなつもりはなかったんだけど?」
「いや、リザードマンがいただろ、あいつはうちの店にあるワーム酒を狙っていてな。前にも襲われたことがある。だからまあ、それは礼だ受け取ってくれ。」
「あ、ありがとう。」
「ミナトー?何してるのー?」
「ほらほら、嫁さんが呼んでるぞ。」
「そんなんじゃないってば!」
そう言って湊人は馬車の方に向かうと立ち止まり。
「おっさん!ありがとー!!」
「おっさん言うな!頑張れよ!」
そう言葉を交わして馬車に乗り込む。
「誰と話してたの?」
「マジックリングの商人」
「え!どうしたの?」
「いや、なんか俺らが結果的におっさんの店を助けたらしくて。それでマジックアイテムもらった。」
「どれ?見せて?」
「これ。」
「幻術魔法のマジックアイテムみたいだけどこれ効力が弱いわ。」
「どういうこと?」
「相手に幻術を見せられるのが四秒ぐらいなのよ。」
「まあ、無償でくれたわけだしね。」
「でもマジックアイテムには変わらないから結構値は張ると思うわよ。」
「そうなのか。じゃあ、いいおっさんだったんだな。」
「あんたこれから先が心配だわ..。」
馬車が村をでて王都への道を走る。王都への道は開けておりたまに行商人の馬車とすれ違う。
「後どれくらいでつくの?」
「そうね、あと二時間ぐらいね。」
「おお!早く着かないかな。」
「あの丘を越えたらそろそろ城が見えてくるよ。」
「そうか!早く行こうぜ!」
「いや。ここらへんで少し休みましょうか。」
「馬が限界?」
「そうねこの子には頑張ってもらってるから。」
そう言ってリエナは馬を撫でる。
「ここなら、死角もないし魔物が来ても対処出来るでしょ。」
「そうだね。じゃあここらで休もうか。」
穏やかな風が湊人の頬を撫でる。心地のいい空間だった。しかしそれが一瞬で悪夢に変わった。
「あれ、魔物だよね?」
「いや、牛車でしょ?」
「いやいや牛車がなんでこんなところ通ってるの?」
「あれ、ミノタウロスだよ...」
「モギャァァァァッ!!」
湊人たちを認識した瞬間にミノタウロスが突進してきた。
「おいおい!こっちに来てるよ!」
「構えてミナトこの前と同じ形で行くわ!」
「オーケー!」
湊人はリザードマンの時と同じようにミノタウロスの前でステップをするがリザードマンの時とは勝手が違いスピードが速い。魔物のパンチが湊人を捉える。
「グッ!!」
ナイフで受け流そうとしたがそれも虚しくそのまま後ろに弾き飛ばされる。
「ミナトッ!!」
「大丈夫...。詠唱を続けて。」
再びミノタウロスと対峙する。湊人はソードブレイカーを出す。先に動いたのはミノタウロスだった。
「モギャァァァッ!」
かなりの剣幕で湊人に迫る。先程と同じように殴ってくる。その力を利用して右の拳にダガーを突き刺す。
「グルジャァァァァァ!!!」
ミノタウロスが苦痛に声を荒げる。
「ミナト!」
「了解ッ!」
湊人はソードブレイカーでミノタウロスの腰を切りつけ拳からダガーを抜きそのまま走る。
「スペル・フリーズ・氷槌!!」
ミノタウロスの頭上から氷の金槌が勢いよく振り下ろされる。
「モガァ...。」
断末魔を残しミノタウロスは絶命した。
「はぁはぁはぁ。」
「大丈夫?かなり勢いよく飛ばされてたけど。」
「なんとかね。魔物が近寄らないうちに行こうか。」
「無理をしないで。なんとかじゃないよ。血が出てるわ。私は治癒魔法が得意じゃないから。このまま王都へ行きましょう。ここから二時間ほどだから。」
そう言って湊人を馬車に乗り込ませリエナは馬車を動かす。三十分ほど経つと湊人は傷口のせいなのかそれとも疲れがピークに達したのか寝ていた。
未だに不穏な空気の中馬車は進む。もしかしたらまた魔物が襲ってくるかもしれない。リエナはずっとそう考え警戒していたがいたが、目の前にはもう城が見えており、魔物の姿も見えない。リエナは安心してホッと息をつく。後ろを見ると湊人はまだ寝ていた。
ミナトは自分の身を犠牲にしてまで私を守ってくれている。そう思えるだけで私は幸福だとリエナは思っていた。
王都の門に着く。イオナから渡されていた通行書を門番に見せ王都の中に入る。すると門の開く音で気がついたのか湊人が起き上がる。
「着いたの?」
「着いたわ。これで一安心ね。」
「そうだね。でも王都ってもっと活気づいてるというか村とは違う空気が流れてるって言えばいいのかな?なんか変だね。」
「まあ、これだけ大きな街にもなれば空気は違うと思うわよ。それよりもあなたの傷の手当てをしに行かなきゃ。」
「あ、うん。わかった。」
近くの診療所を探しそこで湊人の治療を行う。湊人が治療を終え街に戻ると、やはりと湊人には何か気がかりな事があるようだ。リエナがどうしたのと聞くと湊人は街を見渡して言った。
「ここって本当に王都だよね?」
「そうよ。それ以外のどこに見えるのよ?」
「地獄だ。」
湊人はそう言う言い放った。