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真の勇者の定理とは  作者: 山本羽布実
第一章 世界の洗礼
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悪妖精

どうもこんばんは。山本羽布美です。まだまだ文章力がないのですが努力していくのでどうぞよろしくお願いします。

ど、どうなってるんだ……?

 深い森の中、少年――湊人は今起こっている現状に頭を悩ませていた。自身の黒髪の頭をクシャクシャと掻きながら、現状の整理をしていた。

 鏡……。そういえばあの鏡が、光ってからおかしくなってしまった。もしかしたら近くにあるんじゃないのか?

 湊人はあたり一面を、キョロキョロと見回すが、鏡どころか書斎にあったものが全て消え去っている。というよりも湊人だけがこの場所に移動させられた。と言ったほうが正しいだろう。

 この森全体の大きさもわからず、むやみに動けない湊人。現状の打破を諦めてしまったのか、その場にへたり込んでしまう。


「なんで、こんな目に遭わなきゃいけないんだ……」


 ぶつくさと文句を言い、その場に寝転ぶ。

 このまま、誰にも合わず死ねば父さんと母さんに会えるだろうか?もしそれが可能ならば、今すぐにでも……。

 そう、湊人が物騒なことを考えていると、コツコツと何かの足音がした。その足音は確実に湊人のもとへと近づいてくる。


「だ、誰?」


 そう女の声が聞こえた。声の方向に、湊人が目を向けると、彼は途端に固まってしまった。そこに立っていたのは、一人の少女であった。光沢を帯びる金色の髪の毛と、同色の瞳が湊人のことを写し出していた。

 綺麗な人だな……。

 湊人の率直な感想だった。何か喋らなければと思い、口を開くが言葉が出てこない。手をクネクネと動かし、口をパクパクとさせているだけ。傍から見れば変人だった。


「な、なに?」


 その仕草に少女は引いていた。それはもう見事に。


「あ、いやその怪しい者ではないんだ」


「どこからどう見ても怪しさしかないわよ貴方」


「え……。マジ?」


「ええ。マジよ」


 ファーストコンタクト失敗。見え始めた希望が崩れゆく音がした。もしかしたら森を脱出できる方法が見つかったかもしれないというのに、怪しすぎる少年と少女がともに行動することは、限りなくゼロに近いだろう。

 も、もしかしたら口ではああ言っているけど、少しは気を許してくれているんじゃ……。

 そう思った湊人が一歩前に出ると、少女は腰にかけていたメイスを正面――湊人に向けて構えた。

 ですよねー。怪しい人が目の前にいたら、俺も同じことをしたと思う。でも今は巫山戯ている場合じゃない。何とかして少女を説得しなければ。


「ま、待ってくれ。本当に危害を加えるつもりはない。それにほら俺は武器を持っていない」


 湊人は手のひらをヒラヒラさせ、何も持っていないことを少女に伝えた。


「……それなら、私の質問に答えなさい。貴方どこの村の人間?」


 しかし少女が警戒心を解く気配はなく、むしろ嘘偽りを言ったら殺す。と言わんばかりの剣幕で湊人に詰めかかる。


「お、俺は村の出身じゃない。というよりも、この場所がどこなのか、それすらもわからない……。これは本当だ。断じて嘘はついていない」


「ここは、プライッセン国の北東に位置するプラドの森。後ね、貴方武器も持たずに村の外に出るなんて、馬鹿げてる。この森は魔物が出るのよ、死にたいつもり?」


 プ、プライッセン?プラド?何を言っているかは分からないけど。これで二つ情報を収穫した。ここは日本ではない。そして彼女はこの森のことを知っている。ここで取るべき行動は……。


「なあ、この近くにアンタの言う村っていうのはないのか?」


「あるわ。私の住んでるランプラド村ってところが」


「お願いだ。そこまで俺を案内してくれくことはできないか!アンタこの森のことよく知ってそうだし。それに、村も知ってる。だからお願いだ。案内してください!」


 湊人は頭を下げながら、彼女にそう告げた。少女は少し悩んだ末に、「仕方ないわね」と快く承諾してくれた。


「あと、アンタって呼ばないでよね。私にはリエナ・フロットって立派な名前があるんだから」


「そうか。ありがとうフロットさん」


「むず痒いわね。リエナでいいわ。みんな私のことをそう呼んでいるから。私のことは話したんだから、貴方のことも教えなさい」


「ご、ごめん。俺は中上なかがみ湊人みなと。湊人って呼んでくれ」


「ミナトか。変わった名前ね」


「そうか?俺のいた国だと普通の名前なんだけど」


「そうなんだ。まあ、その事は後で聞くとして、今は森を出ましょう。私の村に案内するわ」


 クルリと反対方向を向き彼女――リエナは歩き出す。しかし数歩歩いたところで急に立ち止まり、変なことしたらただじゃおかない。と湊人に釘を刺し、また歩き始める。

 湊人が彼女に付いていこうとすると、


「痛っ」


 周囲のできごとに気を取られていて、気づかなかったが靴を履いていないのだ。それもその筈だ。先程まで部屋の中にいたのだから、靴を履いていないのも当然である。


「ミナト、靴履いてないの!?」


 リエナは持っていたポーチの中から、草履のようなものを取り出した。


「今はこれ履いておいて、村に戻ったら、ちゃんとした靴もあるだろうし」


「ありがとう。でも予備の靴なんて、よく持ってたな」


「何があるかわからないから。この森には魔物もいるって言ったでしょ」


「魔物か。じゃあ、この世界には魔王とか存在するのか?」


 軽い気持ちで、湊人はリエナにそう聞いてみた。しかし返ってきた言葉はその気持ちとは裏腹に、とても重いものだった。


「いるわ。確かに魔王は存在する。でも、先代の勇者様が封印したのよ……」


「魔物は出続けるのにか?」


「一年前から、魔物が湧き出したの。封印してから十年間は、魔物も出なかったし、私たちも安心して暮らせることができたんだけど……」


「そうか」


 少し悪いことを聞いてしまったかもしれないと、湊人は後悔した。とりあえず謝ろうとリエナに話しかけようとすると、いきなり腰にかけていたメイスを抜き出した。


「え、どうした?」


「魔物よ。気配も小さい。ゴブリンね。まだこっちに気づいていないわ。仲間を呼ばれたら厄介だし、仕留めるわよ」


「仕留めるって言われても、俺戦い方知らないんだけど……」


「使えないわね。仕方ない、私についてきなさい」


 リエナが歩き出した方向に、湊人も足を進める。


「あいつよ」


 見えたのは、茶色の肌をした悪妖精ゴブリンだった。手には、何かの生肉が握られており、食事の最中だったことが予想できた。


「な、なあ。もしかしたら気づかれずに村に戻れるんじゃないのか?」


「だめよ。村には戦えない人達もいるのよ。襲われたりしたら危ないじゃない」


 その時、ゴブリンの大きな耳がピクリと動いた。辺りを見回し、二人を見つけると一度大きく後ろに飛び威嚇した。


「ビャァァァァァ!!」


「まずい!ミナト悪いけど少し囮になって!」


「は!?いやいや、今さっき戦えない人が……」


「ゴブリンは基本群れで行動するの!仲間を呼ばれたら、二人とも死ぬわよ!」


「ああ、もう!」


 湊人はリエナの前に立ち、ゴブリンと睨み合う。先に動き出したのは、ゴブリンだった。一直線に湊人へと突っ込んでくる。湊人はその姿を見て、右に左に必死に逃げ続けた。


「リ、リエナっ!まだかよっ!!」


 そう呼ばれた少女は、杖を前に突き出し言葉を紡いでいた。その姿はまるで歌を歌っているようだった。


「ビャァァ!」


 ゴブリンは叫びながら、湊人のことを追いかけ続ける。追いかけられている本人は、息を切らし走るスピードも、遅くなってきている。


「なっ!?」


 湊人は驚きを隠せなかった。ゴブリンが大きく跳躍し、湊人の前に立ちふさがったからだ。万事休す。そう思ったとき、リエナが叫んだ。


「氷の薔薇アイスローズ!」


 その瞬間、地面から薔薇が地面から伸び、ゴブリンの体を羽交い締めにした。刺で出血しながら、次第にゴブリンの体は凍っていった。


「大丈夫!?」


 リエナが湊人のもとへ駆け寄ると、口を開けたまま動かなかった。


「聞いてる?」


「あ、ああ。聞いてた。これは何?」


「魔法よ……」


「す、凄いな!魔法か。いや、それにしても危なかった。あと少し遅かったら俺死んでたかも……」


 少しためらった言い方をしたリエナだったが、湊人の予想外の反応に目を丸くしていた。


「どうした?」


「私は魔法を使えるのよ?つまり魔女なのよ!?怖くないの?」


「怖くないだろ。今回は俺を助けてくれたし。それに怖がる理由が見つからないんだが……」


「変な奴ね。本当に」


「どういう意味だよ!」


「言った通りの意味よ。さ、行くわよ」


 リエナは手を差し出し、湊人を立たせる。ぶつくさ言っている少年の前を歩いている少女の顔は、いつもより少し晴れやかだった。

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