朝食
セーラは、朝食を食べるダニエルの様子を観察していた。
ちょっと前から、なんとなく元気がないような感じだったが、ここ数日は明らかに変だった。
たまに、虚ろな目で遠くを眺めては「はぁ」と切なげなため息をつく姿は、まるで恋煩いをする乙女だ。
何度か声をかけようかとおもったが、その独特の空気感に、なんとなく声をかけそびれていた。
今朝のダニエルは、一段と暗いどよーんとした空気をかもしだしている。
いつも食事のときは、本当に幸せそうなぽわーんとした顔をして食べるのに、今朝は無表情で黙々と食べている。
心なしかうつむき加減だ。
「今年の桃は美味しいねぇ~」
ニコラスはダニエルと正反対に、かなり上機嫌で桃を頬張っている。
「ジョンも食べる? あーんして」
甲斐甲斐しく息子のジョンにも食べさせたりもしている。
セーラは無言でニコラスとダニエルを見比べていた。
どうも釈然としない。
明らかにダニエルの様子がおかしいのに、なんでニコラスは平然としていられるのだろうか。
ニコラスとダニエルの間に何かあったのだろうか。
いや、何となくそれは違う気がした。
ニコラスは一週間ほどの出張を終えて帰宅したばかりだ。
ダニエルの暗さが増したときには、ニコラスは不在だった。
それに、昨日、ニコラスが帰宅したときは、二人はいつもの調子でしゃべっていた。
「ごちそうさまでした」
ダニエルは暗い声で言った。
「師匠。今日は僕、実家に行かないといけませんので」
「そっかぁ。ルアードによろしく言っといて」
ニコラスはいつもの調子でこたえる。
「セーラさん。僕、お昼は実家で食べることになってますので。夕食までには戻れると思います」
少しうつむき加減で言うと、ダニエルは食器を重ねだした。
「ダニエル君、大丈夫?」
セーラはこの時とばかりに尋ねてみる。
「え?」
「なんか、元気なさそうに見えたから」
「あ、ちょっと胃もたれがしてるだけです」
ダニエルが少し視線を彷徨わせる。
セーラは口を開きかけた。
「ダニエル。食べ過ぎちゃダメだよぉ」
絶妙なタイミングでニコラスが会話に入ってきたので、セーラはそれ以上聞くことができなくなってしまった。
セーラは軽くニコラスを睨んだが、ニコラスはどこ吹く風という様子で鼻歌をうたっていた。
大きなため息をつきながら、セーラはダニエルを見送った。