1話(3)
一度更新したハズでしたが、間違ってブラウザバックしたことで直前に修正していた分が全部消えるという事故に見舞われた3話のまえがきになります。
お久しぶりです。約一週間ぶりの投稿ですね。
まえがきはこれくらいにして、さっさと始めましょうか。え?書き直すのがめんどくさいって?イヤダナァ、ソンナコトナイデスヨ。
汚染地域中心部
「お姉、大丈夫?」
汚染が発生してから、およそ一時間。ルカが巨木の根本にできた洞穴を覗き込んで、中で横たわるユイに問う。
「行動に支障はありません。ただ、続くとマズイですね。」
「無理しない方がいいんじゃない?ただでさえあたし達のマナを分解した後であんなことしたんだし。」
ユイは傍で付き添うレアに皮肉な笑みを浮かべて言った。
「少しは責任を感じましたか?だったら2人とももう少し慎重に行動してくださいね。」
「それは保障できないなァ・・・」
「レアに同じく。」
苦笑で返す妹達に呆れながら、ユイは今後の事を考える。汚染地域に留まるのは精神、肉体共に良くない。とはいえ、一番どうにかできる自分が倒れているのだから動こうにも動けない。ルカによれば、既に実験に使った魔族は暴走しているらしい。尚更動く事はならなかった。
「レア、私を抱いて飛べますか?」
「やった事無いけど、ユイ姉軽いだろうしイケると思うよ。」
レアは姉妹で一番発達の遅い部分を見つめ、ユイは見られて赤面する。
「まだ発展途上なだけです。痩せているだけです。」
「別に何が軽いとか言ってないし、そう言うってことは自覚あるってことだよね?」
ルカがまた一部分を見つめて笑う。
「貴方達こそ、同じモノを食べてるのにどうしてそう大きくなるんですか。」
最早相手の顔すら見ずに背けたユイが愚痴る。
「う~ん、運動量の差?」
「そう言えば二人とも前衛ですね。ルカは中衛といった感じですが、遊撃の色が強い位置ですね。」
この姉妹の基本的な戦闘スタンスはユイが遠距離から高火力の魔法を叩き込み、ルカがレアのサポートをしつつ牽制、レアが懐に潜り込んで物理的に無力化するといったものだ。――これはこの姉妹に限らず、3人編成での基本戦術になる――ユイとルカは中、近距離で戦うことも可能だが、やはりレアには力の部分で劣る。ただ、ルカは銃器を、ユイはマナを操ることにかけては適正の差を超えて相手を圧倒することもある。しかし、
「それとこれって関係あるんですか?」
というのは至極当然疑問である。
「あるよ~。世の中にはコレを大きくするためだけの運動法だってあるくらいだからね。」
レア程ではないものの、当人もそれなりにあるルカがとってつけたような笑顔で言う。それに対しユイは複雑な顔をしている。
「それを見つける人は暇だったんでしょうか。」
呟いた瞬間、洞穴の外でおよそ生物とは思えない、聞くに堪えない奇声が上がった。
「それより、どうすんのさ?もうそろそろここを出ないとマズイんじゃない?」
姉妹の中で一番発達しているレアが外を覗く。
「かなり成長しちゃってるね。体からマナまで噴出してるし。どうするの?お姉。」
「観測実験は終わっています。アレは始末しましょう。」
ユイが覚束ない様子で立ち上がる。しかし、すぐにふらつき、壁に寄り掛かる。
「大丈夫なの?無理しないでいいよ。」
「そうだよ。あたしとルカ姉となんとかするし。」
2人に気遣われてもう一度寝かされるが、立ち上がり、マナで肉体の補助を入れる。
「放置していていい代物ではありません。私も行きます。」
先程の弱々しさは何処か、凛として洞穴の入口まで歩き、振り返る。その顔は笑っていた。
「それに、貴方達の力加減をコントロールできるのは私だけですから。」
「それってあたし達がユイ姉よりも弱いってコト?」
レアは自分がユイよりも劣っていることを言われたと勘違いをしたらしい。ユイは苦笑をもらして答えた。それよりも先にユイの思っていることを見抜いたルカが満面の笑みを浮かべていた。
「違う。違うよ、レア。」
「はい。違いますよ。貴方達が本気になればこんな樹海の1つなんて簡単に消し飛びますから。」
(まぁ、それでも私には遠く及びませんが)
「ユイ姉何か言った?」
「いえ、なんでもありません。さぁいきますよ。」
言葉を交わしている内のユイは体が楽になっていくのを感じていた。先程まで話すことも辛かったのが嘘に感じられた。。
大樹海中心部付近
樹海の生物が逃げ、1人になったネロを襲ったのは体表面からマナを噴出する巨大な魔族だった。
「冗談じゃない。何でこんな所に、魔族が。」
それもマナで発狂して、より狂暴性が高くなった個体らしい。樹海を構成する大木よりも太く、ツタのようにしなる長い腕の一撃を軽い身のこなしで避ける。避け続けるネロにふと、1つの疑問が頭をよぎる。
「何でコイツ発狂してんだ。普通2日経たないと発狂しないだろう。」
いかに汚染地域とはいえ、汚染を発生させる第三位階魔法自体、使える人が非常に少ない。加えて汚染の元となるマナを放出した後二日かけてようやく発生するのだ。つまりどの汚染も、48時間経たないとどの生物も発狂しない。樹海の生物が逃げ出したのがさっきだから普通は明後日に発生することになる。それが今発生しているということは2日かけて動物が移動したか、未知の脅威が発生したかのどちらか。自らの危機に敏感な動物たちが2日もの時間を悠長に過ごすはずがないのでここでは後者が有力になる。
その場合問題になるのが、
「ソレってつまり、もうヤバいんじゃないのか!?」
叫びながら地上からの魔族の攻撃を躱し、家から持ち出したマナを注ぐと巨大化する斧を取り出す。いつもならここに短剣を携帯しているがすぐに帰る予定だったネロは持ってきていなかった。例え携帯していたとしても、通じるか否かは別の問題ではある。
掌サイズの斧にマナを注入し、自分の身長サイズまで巨大化させ、魔族の頭部目掛けて落とす。
ネロと魔物から約1000m離れた大木の上
木の枝を蹴って移動する2人の姉妹が驚愕に耳を疑う。
「一般人がアレと戦っているというのは本当ですね?」
『嘘言ってもつまんないってのは分かってると思うんだけどなぁ。』
脳波を使って直接会話するルカの眼を疑うわけではない。ただ、一般人が発狂した魔物を相手に生存し、あまつさえ戦闘行為などありえない。
「まぁ、急ぎますよ、レア。」
「先に行くよ。実験前のアレは多分近接型だから。ユイ姉はサポートよろしく。」
レアはそう言うと枝ではなく、より丈夫な木の幹を強く蹴りつけ、さらに加速した。
「分かりました。気を付けて。」
ユイが了承の意を伝える頃には、レアの姿はもう消えていた。
『目標補足。射撃準備よし。』
「どうですか?様子は。」
『ありゃもうダメだね。完全に汚染の中心だわ。』
「そうですか。」
『そんなことより、人間のクセに中々やるなァ・・・。』
ただルカの独り言だろう。だがユイの耳にはそれが重く響いた。
「魔物の標的は人類種なのですか!?」
『もう着くから見た方が速いよ。レアはもう交戦中。こっちも撃つよ。』
大樹海 魔族の暴走によって焼け野原になった中心付近
「下がんな!!アンタじゃ無理だよ!!」
突如現れたヒト型の魔族に襟首を掴まれて引き寄せられたお陰で、ネロは挽き肉にならずに済んだ。
「浄化機関か!?」
ネロを助けた魔族は、丸腰ではあったが、ちゃんとした戦闘服を着用していた。しかし、その姿は年頃の男子には刺激が強すぎたようだ。戦闘衣装とはいえ、それはムダを徹底して排除し、機能性のみを求めたものであるから、体を包む最低限の生地でしかない。ネロはすぐに視線をそらし、魔族の方へ意識を向けた。
「いや、違うね。通りすがりの魔族だよ。」
『レア、3時の方向、ミラーがある。壊して。』
「了解。」
ルカの指示した通り、碧に霞んだ鏡が木の幹に張り付いていた。それは、魔物とこちらの場所を精確無比に繋いでいた。つまり、
「避けろ!!」
レアはネロの首根っこを掴んで上空に逃げる。その一刹那後、2人が居た所をレーザーが薙ぎ払う。
「・・・これが発狂した魔族か。」
「これが汚染の、ひいてはマナの力、という事になりますね。」
「なんつー力よ。」
後から来たユイの姿を確認し、ネロの首を掴んでぶら下げているレアは悪寒に包まれながら高揚していた。
「楽しくなりそうだ。」
「ハメを外してはいけませんよ。」
早速楽しもうと持てる1/10程度の力を解放しようとした時、ユイに出鼻を挫かれた。
「どうしてさ!?」
「レア、貴方今周りの事をかんがえてなかったでしょう?」
「う・・・」
「やっぱり。」
落ち込むレアにさらに追撃の口撃を加えようとした時、
『あー、えーっと?聞こえてるかな?』
ルカから脳波でレアに救い船が来た。
『これからぶち抜くよ。隙ができるから畳んで。あと、』
「なんですか?」
『ソイツさっさと帰しなよ。誤射したら困る。』
その言葉と共に、おおよそ鉛玉とは思えない物体が木の幹に張り付いたミラーを砕き、魔物からの視界を潰した。
「この腕なら問題ないと思いますが、確かにそうですね。」
「コイツは任せてもいいか?家の方が心配だ。」
「じゃあなんでさっさと逃げなかったのさ?」
レアの疑問も当然のものである。逃げる理由があるならさっさと逃げればいいが、それができずに回避に専念するだけの訳はネロにはあった。というよりもせざるを得なかった、というのが正しいかもしれない。
「アイツの腕伸びるんだよ。それに背中見せたらさっきみたいに見えない所から狙撃される。」
一度、ネロも後退を意識して木の洞に隠れた。が、その直後に洞の中を精確に狙った射撃が発狂した魔族から放たれたのだ。それから逃げると長大な腕が伸びてきて巻き付こうとした、といった感じに遠近共に隙が少なく精確な攻撃を繰り出し、ネロを――というよりも獲物を――逃がそうとしなかった。
『要するに近づかなきゃいいんでしょ?』
「だったら私に任せてよ。」
『いや、でも1人でやるには』
「レアとお姉はアイツの動きを止めて。あとはこっちでやるよ。」
『了解。ユイ姉、バリアよろしく。手加減なんてしないよ。』
『ハァ・・・分かりました。余計な言葉でしょうが、無理はしないでください。』
「さっきまで倒れてた人の言葉とは思えないね。」
『何か言いましたか?』
「何でも無いですよっと、ミラー展開。加速装置生成。小型結晶8基、大型結晶6基ぐらい、で充分かな。マナレーザーは何発がいい?」
『8発くらいで充分でしょう。』
「うっうー。反応弾は温存しとくね。何するか分かんないし。」
『本気だね、ルカ姉。』
「じゃあ、撃つよ。」
『あいよ、じゃあ合わせるよ。』
『バリアの展開は終わってます。好きに暴れてください。』
汚染発生後城下町付近
「やれやれ。あと何体だ?」
マナ汚染の影響で狂った機功種の脳天を撃ち抜き、男は一息つく。
「ボヤく暇があったら戦闘に集中しなさい!!まだまだいるんだから!!」
一息つく男の傍で、1人の女性が振り下ろされる2つの剣を受け流していた。
「はいはい。全く面倒な事だ。これが終わったら飲むか。」
西城門付近
樹海を走り抜け、城下町の門
「魔族の次は機功種か。汚染の影響が強すぎるのか?」
どちらにせよ、やることと言えば自分の保身と家族の安否確認しかないわけだから脚を止める訳にはいかない。だが城門をくぐり、街に入った時点でそこはネロにとっての庭である。いくら元が器用で、対象の動きを予測して行動できるとはいえ、思考が破壊一辺倒になった機功種に捕捉し続けられる程、彼の体は遅くない。むしろ防御を極力捨てずに攻撃力と機動力を極限まで追求した機功突撃兵と大して変わらない程俊敏である。
「来るな、来るなぁ!」
所々から火が上がる家の屋根に登って屋根伝いに移動している時に、壁際に追われた住人が居た。追い詰めたのは魔族1と機功種1。機功種は機功重装兵。魔族は全身から刃が出て戦闘に特化した見た目から冥海出身と分かる。一般人1人に少し動ける程度の子供が1人出て行っても勝てる奴らではない。ただ仲良く殺されるだけ。なら行かない方が良いだろう。と、ネロは思っていたのだが、向こうはそうもいかないらしい。
「・・・せイ体カく認。排除、はいじょ、ハイジョ、haijo」
機功重装兵がネロの存在に気付く。当然狂っている。
「ヒートソード出力上昇。マナ充填。」
右手に握られた赤熱する刀が1本、ネロに向かって投げられる。続けてナイフが3本連続して投げられる。ヒートソードを頭を下げて避け、ナイフを両手で弾いてその1つを手に取る。その隙に機功種は一気に彼我の距離を詰め、もう1本のヒートソードで斬りあげる。しかし、ネロの体が左右に斬られることは無く、寸前で後ろに下がって回避した。空振りした機功種の腕は自身の体をも振り回し、その場に倒れ込んだ。
「今の内だ。」
機功種に背を向け、路地に入り込み、自分の家の方向へと向かう。しかし、例え路地裏であろうが当然の如く発狂したモノは存在する。それらの目をくぐってようやく家までおよそ300mとなった。そこで、ネロが見たモノは、
「・・・タチが悪いぜ、お前ら。」
ほぼ全壊した自宅だった。最早見つかって攻撃されることすら考えずに走る。家に着くまで約8秒。その間、3体の魔物が彼を攻撃対象に加えた。しかし、彼が脚を止めて暫くした時、その3体も彼には敵わない事を悟る。攻撃対象に加えたとはいえ、元から勝算などありはしないのだ。手を触れずにモノを破壊する方法に対処するなど、できはしないのだ。
――それはともかくとして――
「父さん!母さん!!何処だ!?」
瓦礫の山となった自宅に向かって叫ぶ。やはり、というか案の定というか、返事が無い。
「・・・ネロ。」
「母さん?」
脚を置いていた柱の下から母親の声を聞いた。柱を退けるとやはり下敷きになっていた。
「待ってろ。今、助けるから。」
「いや、待て。」
後ろから声をかけられる。
「何だよ、親父。止めんなよ。」
彼の父親は肩に手を置き、首を振った。
「俺達を置いて逃げろ。」
それを聞いた瞬間、ネロは弾けるように父親に飛びついたが、それよりも速く、彼は首を掴まれていた。
「お前には言ってないが、発狂した奴らは自らの存在を保つために、より強大なマナを持つ者に惹かれる。俺達もそうだが、お前もそうだ。お前は生きろ。」
「親父達は?」
そう訊いた時、父親の顔が暗くなった。そして、待っていたかのように、近所中の家々を壊しながら、あるいは壁を破りながら、ネロ達の住んでいた家に近づいてきた。
「・・・聞くか?」
「嘘だろ?」
その問いには答えず、瓦礫の下から3振りの剣と1つの盾を引っ張り出した。盾の大きさはネロの胸よりも少し低い程度の大きさで、裏に剣を1つ収納できる機構が見られた。剣は2つはネロの両腕と同じ長さの双剣。1つは盾と同じ大きさだった。
「持って行け。使うには時間がかかる。まずは1本で練習しろ。それから」
続けて自分の妻を引き出して、ネロと向かい合った。
「マナは良くも悪くも生物を活性化させる。俺達のマナが両方お前に遺伝しているとしたら、お前は滅多な事では怪我すらしないだろう。それどころか、痛みすら感じないかもしれない。」
それは、痛みを感じずに死ぬという事。苦しまなくていいが、逆を言えば自分が傷ついていることが分からないという事になる。
「でも、それは貴方だけの力。痛みを感じない代わりに、マナを直接使うことができる。他の誰にもできない事。それを忘れないで。」
(この間包丁で手を切った時痛かったんだけど・・・言わないでおこう)
「いつかマナの汚染が無くなったら、お前のように自分で気づかずに怪我をしたり、死ぬヤツが居なくなるかもな。」
「自分の子供の前でトンデモねぇことをサラッと言うな。」
背中に2振りの双剣を差し込み、盾を手に持つ。
「・・・行ってくる。」
「暗い顔すんな。まだお互い死んでないだろ。」
「そうよ、ネロ。また会えるわ。」
「じゃあ、行ってきます。」
両親に背を向け、ネロは一番人気のない通路に入って行った。その先にある下水道は街の東の川へ続いている。マナによる汚染が発生したのは西側。つまりなだれ込んでくる敵の量は圧倒的に少ない。加えてその東には別の商業国がある。またその国には、浄化機関の入団試験の会場もあった。
汚染によって全てを失くしたネロは、全身にマナを巡らせ風となり、その国を目指した。
マナ汚染で発狂するモノの手によって悲しむ事のない世界を求めて。
さて、これで1話は終わりになります。で、いきなりですが、舞台は2年後まで吹っ飛びます。1話は、いわばプロローグ。物語の入りです。次から本編です。ドラ〇エだとようやく勇者が旅立つところです。因みに最初のダンジョンはまだ先です。ラスダンはもっともっと先です。いや、どっかのRPGだと勇者の実家の裏にボスがいたりしますが、この話ではそんなことはありません。
とりあえず、次からは2年後の話になるので、(多分無いと思いますが)時間の感覚が狂わないようにお願いします(そもそもこんな新参の小説を何人の方が見ておられるのか)。
ではまた次のお話で。
今さらですが、不定期更新です。定期的には絶対更新されないので、「気づいたらかなり進んでた」「気づいたら作者が失踪していた」なんてことの無いようにしてくださいね。