手
「それじゃあ寝るね、おやすみー」
ドアノブがある。私の部屋は、ちょうど押して開けるタイプのドアで、丸いノブを捻って開ける。
部屋を真上から見て、ドアは一番左下にある。二階の廊下側から見て、左側に蝶番。だから、部屋に入るとき、右手側に大きな空間――つまりは部屋があるということになる。左手側はクローゼットだ。上側はベランダ。右側には出窓とベッド。花柄の布団カバーは、一目で気に入ってつい最近衝動買いしたものだ。バイトしててよかった。高校生としては安くない量の野口が、財布からいなくなってしまったのだから。
私の部屋は二階にある。
今までは一回で録画したドラマを見ていたのだけれど、姉ちゃんがおもむろに怖い話を始めたので、怖くなって逃げてきたのだ。怖い話は苦手だ。とくに、この話を聞くとあなたのところにも――って奴。なんか、本当に来てる感じがして嫌。眠れなくなる。
今回は、なんか手がどうこうって話だったけど、頑張って聞かないようにしてたから、詳しくは知らない。なんか、手だけが出る話。どこになにしになんて、怖くて聞けるわけがない。
両手で耳をふさいで、小刻みに動かしつつ「あ~」。これしとけば、大体の音はカットできるから、姉ちゃんとの仲が険悪になりすぎずに済んでいる。
それじゃあ寝るね、と姉ちゃんの声を遮って階段を上る。
「え~、ここからが面白いところなのに~。お姉ちゃん、みーちゃんが構ってくれなくて寂しいぃ~」
階段の途中から顔を出して、この酔っ払いめ、と吐き捨ててから急いで登り切ってしまう。姉ちゃんなんて嫌いだもんね。
階段を上りきってところにあるトイレで用を足してから、自分の部屋に。
「ん」
あれ? なんでドアが閉まってるの?
いくら今日から十月とはいえ、まだ暑いから閉めたりするわけないのに。今日は風が強かったから、勝手にしまっちゃったんかな。
まあ、開ければ良いんだし、気にしない、と。
年中ひんやりして気持ちいい金属製のドアノブを握って回し、内側に開く。三〇センチくらいドアを開けた時だった。
とある感触があった。
ドアノブを掴む私の手を、上から掴む、暗闇の中で青白く浮かぶ手があった。