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アルタイル滅亡

アルタイル聖教国にとって、私は「価値のない石ころ」だった。

ともに召喚された他の若者たちが強大な魔法を披露する中、私は測定不能の「無能」。


「時間の無駄だ。捨てておけ」


教皇の退屈そうな一言。

私は兵士に担がれ、小国フェニクスの国境沿いの崖下に、ゴミのように放り捨てられた。

死に体で這い上がった先で、私はルシェイン第二王子殿下の行軍に拾われた。


「何だ、この女は。アルタイルの難民か?」


ルシェイン殿下は私の正体など露ほども知らず、ただの「行き倒れ」として扱った。


「働けるなら、炊き出しの鍋洗いでもさせておけ」


私はこうして、フェニクス王宮の隅っこで、ひたすら汚れ物を洗うだけの「名もなき下女」になった。


フェニクス王国では、第一王子アウレリウス殿下と、第二王子ルシェイン殿下が王位を巡って対立していた。

アウレリウス殿下は伝統派を率いるエリートで、小国の秩序を守ろうとしていた。

対するルシェイン殿下は、隣国アスガルドの支援を受けて現状を打破しようとしていた。

私は、その時も王宮の洗い場で皿を洗っていた。

だが、政争は動く。

アウレリウス殿下を支持していた伝統派の貴族たちが、実は他国の商人から多額の賄賂を受け取っていたことが、ルシェイン殿下の「たまたま放った」偵察で明るみに出た。


「……信じられぬ。伝統を謳いながら、裏で隣国に国を売っていたのか!」


支持基盤が自壊したアウレリウス殿下は、責任を取る形で王位継承権を辞退。

私は一度も殿下たちと口を聞くこともなく、ただ毎日皿を洗っていただけだが、気づけばルシェイン殿下が王太子になり私は女官として仕える事になっていた。


ある日、王宮で噂が流れた。

「大国アルタイルの国境付近の様子がおかしい。

異様な力が立ち込め、農地が死んだらしい」

フェニクスは小国だ。

アルタイルと渡り合える力などない。

しかし、その隣国が崩壊すれば、難民が押し寄せてくる。


「お前は、アルタイルの出身だろう。案内してくれ」


ルシェイン殿下に命じられ、私は道案内として馬車の御者台に乗せられた。

復讐もなにもない。

ただの「生存確認」の視察だ。

だが、国境を越えた先に広がっていたのは、私が知る「聖なる国」ではなかった。


「……なんだこれ。全部、焦げてる」


一緒に召喚された「スローライフ勇者」が放った、広域育成魔法。


「魔法で毎日収穫すれば、みんなハッピーだよね!」という無知な善意は、大地が持つ一生分の魔力と栄養をたった半月で焼き尽くした。


地力は死に、土はガラスのように硬化していた。

魔法に依存しきっていた聖教国の経済は、内側からボロボロに自壊していたのだ。


かつての教皇は、地面に跪き、廃人のように笑っていた。

勇者は魔法の暴走に飲み込まれ、もうどこにもいない。

私は、馬車から降りることもなく、その惨状を眺めていた。


「……わあ、すごいことになってるわ」


確かに、私を捨てた奴らが勝手に魔法で自爆して、泥を啜っている。


「ざまぁ」と言えば、これ以上の事はないがやり過ぎではないか?

私は「ざまぁ」を観たかっただけなのに。


だが、フェニクスのような小国にとって、隣の巨大な食糧自給国が自爆したことは、致命的な食料危機を意味する。

これから押し寄せる難民、高騰する食料価格、そして死んだ大地。

私は、何もしていないのに。

ただ皿を洗い、ただ道案内をしただけなのに。

奴らが勝手に穴に落ちるのを、見たかっただけなのに。



________________________


作者から


ここ迄読んでいただき誠にありがとうございました。

また、「賢すぎる令嬢は、王子を晒し上げる。」と同じく本作は現在、執筆中の「INCANTUS!」の外伝となっております、異世界の剣と魔法物とも言えないテンプレとは全く違うファンタジーとなって来ました。


もう1章描いてから投稿しようと思います。

本話は現在執筆中の章のラストの召喚者ノア側の視点になっておりかなり先の話になります。


短編は3話投稿しております。

本編は近々投稿したいです。




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