最終話 プロローグ
それは、不意に見た夢――。
コリコリ、クチャクチャ――音がする。ゴクンと飲み込み、舌鼓。美味しくて、頬っぺたが落ちそうだ。
さぁ、次はどこを食べよう? 柔らかそうな、お腹かな? それともプリプリしたお目々にしようかな? 手の辺りは小骨が多そうで、ちょっと嫌だなぁ。
……あれ? そういえば、私は何を食べているんだっけ? えーっと、えっと――。
思い出せない、思い出せない。私は何を食べてるの? こんな時、あの人がいたら教えてくれるのに。
…………あの人?
あの人って、誰? 誰? 誰? 思い出せない、思い出せない……。
思い出せないけど、変な感じ。寂しい、寂しい……嫌な感じ。何で? どうして? ……分からない。でも、嫌な感じ。
誰か教えて。あの人って、誰? あの人って誰なの? 私は一体『誰』を食べてるの? 教えて、教えて……!
◆
不意に少女は目を覚ました。チュンチュンという小鳥の囀りが、窓の外から聞こえてくる。
「……あーうー」
モゾモゾと布団から這い出し、ボーッとした目で辺りを見回す。
あの人は、まだ隣の布団の中で夢を見ていた。スーッ、スーッと、規則正しい寝息を立てて、もうしばらくは目覚める気配は無い。
少女はその枕元にチョコンと腰を下ろすと、彼の寝顔を上からジッと見つめた。その刹那、少女の中に住まう虫が、音を立てて空腹を知らせる。
しかし、少女はそれを気にしない。時折口元に垂れる涎を手で拭いながら、ただジッと見つめ続けていた。
まるで、その顔を決して忘れてしまわぬように――。