第二話 エピローグ
女子大生――木崎悠美は、彼女の両親と共に赤い鳥居をくぐっていた。それは即ち、自宅の玄関をくぐったと言っても良い。
そんな悠美を迎える、一つの影があった。黒縁の四角い眼鏡をかけたその男は、悠美の姿を見るやいなや口を開いた。
「悠美、おかえり。大変だったそうだな、合宿」
男の言葉に、悠美はプクーッと頬を膨らませる。
「た、大変だったなんてものじゃないよぅ。小野塚くんが助けてくれなかったら、もう少しで私……お、小野塚くんが……」
次の瞬間、ボッと悠美の顔は赤くなった。病院のベッドで目を覚まし、自分がどのように救出されたのかを友人に聞いてから、彼女はずっとこんな調子なのだ。
と、そんな悠美を見ていた男が、不意に鼻をひくつかせた。クンクンと、悠美の周りの空気を嗅ぐように、彼女を中心にぐるりと回る。
悠美はいきなりの男の奇行に眉をひそめると、一体どうしたのかと尋ねた。
「臭うぞ、悠美……。前に、お前が友達と遊びに行った時と同じ臭いだ」
「え、えぇ!? に、臭うって……そんな変な臭いするかな、私?」
「あぁ……。醜悪な、物の怪の臭いだ」
そう言って、男は眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。