表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同棲喰人鬼  作者: 代篠
2/13

第二話 プロローグ

 暗闇に支配された、狭い空間――。

 ここにいるのは、俺と奴の二人だけ。他には何もない。俺と奴の二人だけだ。

 真っ直ぐ一直線に、怪しく光る双眸が俺を射抜く。

 そしてギザギザに尖った歯が、俺の首元に狙いを付けた。いや、もはやそれは歯ではなく、『刃』だ。全てを貫く、鋭利な牙だ。

「――――――――」

 何かを呟きながら、奴は少しずつ俺に近づいてきた。だが、俺は動けない。金縛りという言葉が、フッと頭に浮かんだ。

「――――の――で――」

 近づいてくるたびに、少しずつ奴が何を言っているかがハッキリとしてきた。奴はハキハキとした口調で、しかし淡々と、こう言っていた。

「以前からT市で立て続けに起こっている不審火は、県警の捜査により、同一人物による連続放火事件であるという見方が強くなり――」

 次の瞬間、奴の牙が、俺の喉を捉えた。ズブ……ズブ……と、ゆっくり俺の肉に喰い込んでいく。不思議と痛みはない。だが、その代わりに重い。まるで米袋が腹の上に乗っかっているかのようだ。

「わ……あぁああぁあっ!?」

 肉を食まれる恐怖感に、俺は思わず叫び声を上げた。

 するとその刹那、突如として光が灯り、一瞬にして辺りを照らし出した。





「あーうー?」

 どこを見ているのか分からない、どこか虚ろな瞳。気の抜けた、抑揚のない声で発せられる、いつものフレーズ。見慣れた我が家の居候の姿が、そこに――布団に包まって仰向けになっている俺の腹の上にあった。

「おー。やっと起きたかー、しんたろー」

 居候が嬉しそうに俺の上でバタバタとはしゃぎ出したので、俺は何とかそれを退かすと、ガバッと上半身を起き上がらせた。

 そこに広がっているのは、何て事はない――普段通りの狭いアパートの一室だ。カーテンの開けられた窓からは燦々とした日の光が差し込み、いつの間にか電源がオンになっているテレビからは、朝の最新ニュースが報じられている。

 夢――その単語が浮かび上がった時、俺は思わず溜息をついた。我ながら、なんという悪夢だ。喰われる夢、とは……。

 俺はふと、布団の横でチョコンと座っている居候に目を移した。

 居候はジッと、すぐ隣の台所に設置してある冷蔵庫を見つめていた。その様子は、まるで餌を前に『待て』の命令を下されている犬のようである。

「……はいはい」

 俺は布団から抜け出ると、台所まで歩いて行き、冷蔵庫から市販の魚肉ソーセージを二本取り出した。俺の分と居候の分――二人分の朝食だ。

 ポーンっと一本のソーセージを、パタパタと尻尾を振って待っている居候に向かって放り投げる。するとそれを受け取った居候は、またこれかというボヤキとは裏腹に外装フィルムを上手に剥がし、美味しそうにソレを咀嚼し始めた。俺もそんな居候を見ながら、同様にソーセージを口に運ぶ。

 いつもと同じ朝が、今日も始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ