Whatever will be,will be .
せたです。
厳冬の冬。
風の吹き乱れる12月。
道端のただのコンクリートで、倒れている人を見つけた。
表情は穏やかで、呼吸はスースー音を立てている。
時刻は17時。辺りは暗い。
頭に凍死という言葉がよぎる。
「……大丈夫ですか」肩をとんとん叩く。
「んー」
目を開けた。赤く目を引く瞳。
「ん…」頭を抑えながら起き上がる。
バチッと目が合った。
「誰?」
「えっと…こんなところで寝てたら凍死しますよ。」
「…あれ、」
「?」
「俺誰だっけ?」
「…」
⸻
『華紅 唯一』
学生証を見ると誰なのかわかった。
「ピンと来ないわ」
華紅は立ち上がり、夜の暗がりから見えるノースポールを眺めていた。
「咲き始めですかね」
それに続き可惜夜も覗き込む。
ビュッと風が強く吹き上げた時。
桜の花びらが宙を舞った。
「!」
辺りを見渡しても桜の樹なんて生えていない。
「…」華紅は頭痛に目をつぶる。
風は再び強く吹き荒れる。
夜の嵐。
「…大丈夫ですか?」たまらず可惜夜は華紅に問う。
「問題ない」
華紅は目を開けた。
夜でもわかる雲の動き。上空へ強く吹き上げる。
強い冷めた風が舞う。
そして、
いつの間にか、白い花びらと草花が宙を舞い、ノースポールの上に倒れ込んでいた。
「いたっ…」
「ごほっ」ひとつ咳き込むと口から吐血していた。
脾腹を何かが貫通していた。白い花が赤く染っていく。
こういう時ってもっとしんどいと思ってたけど、案外よく分からない。
周りの音が遮断されていて、風が心地いい。空気が美味しい。もっと欲しい。
ドッドッド
「…」ヒューヒューと呼吸の音だけが脳に響く。
脾腹は酷く痛む。
目線を感じ、痛いのも気にならないくらいに飛び起きた。
「!」
目に見えたのは、白い…像、いや石膏。
布を被った白い石膏像。
風になびく布。手には赤い一輪の薔薇。
『…動いて…る』
その薔薇を一途にこちらへ真っ直ぐ撃った。
こちらにくる薔薇は花びらを散らし、赤い煙と陣と共にやってくる。
この時、死を悟った。
来る、そう思った時、目の前に立ちはだかるは、一人の男。
華紅 唯一。
その赤い瞳と髪を輝かせながら、前に立つ。
「incense」
彼がそうつぶやくと、お香の匂いが空へ広がる。
煙は円を描くように薔薇を消し去った。
石膏はレイピアを手に握り、布をなびかせながら華紅の方へ跳躍した。
腕を振り上げ今にも斬りそうな時、華紅はどこからか線香を何本も束ねた物を石膏に向けた。
華紅の髪が重力を無視して上へと持ち上がり風になびく。
何も無い線香に火がボワッと通り、風で煙に変わると広がるのと同時に、石膏は砕けバラバラに消えていった。
『あ、全部思い出した』
普通の夜なのに、月の光を強く感じた、緑の広がる場所。
プツリと何かが切れるように、再びノースポールの上に倒れ込んだ。
ドスッ
「…」
『あ』
華紅は学生証を拾った。
可惜夜
下の名前は何故か黒く塗りつぶされていた。
「……」
⸻
目が覚めると
見知らぬ天井なんてありきたり。でも真実だから仕方がない。
「こんな家本当にあるんだ」部屋に圧倒されるほど…。
窓を眺めると高い位置らしい。
辺りには森。見る限りお城のような家…。
繋がっていた管を全て外し、
大きなドアを開け、廊下に出る。
「…広…」
辺りは静かで誰もいない。その割に掃除は綺麗にされている。
大きな階段を降りるとホールに出た。
まさにダンスを踊りそうだ。
「いっ」貫通した傷が痛む。
あまりの痛さにしゃがみこむと。
「大丈夫?」
誰かが手を差し伸べた。
顔を上げると、ピンクの長く巻かれた髪。
大きなリボン、綺麗なワンピースを着た1人の少女だった。
「…ここは?」
「Lily violetの本部兼、私の家」
「???」
「顔に何が言いたいか出てる」
「あなた、運ばれてきたのよ。その怪我だから」
「あの、ほかの人は?」
「みんなここに住んでないわ。住んでるのは私1人」
「え?」こんな広い家で?
「別に大丈夫よ、お手伝いさんいるし」
「そう…」
「本当よ。今は深夜2時だから居ないだけ」
「深夜2時!?」
「3日間くらい寝てたよ」
「どうしよ…」
⸻
少女は真上に手を広げ、
「incense」
そう呟いた。
ピンク紫の煙が雲のように宙を泳ぐ。
その焚かれた香はどこかプラネタリウムのよう。
そのお香達は次第に下へ降りていき、可惜夜の周りを呑み込む。
「??」
包帯の隙間から傷口へと、お香が吸い込まれていく。
傷口が埋まっていく、変な感覚だ。
「痛くない」血の巡りも感じる。
「たかが3日だと捉えればいいよ」
部屋の前まで戻ってきた。
「また朝に話しましょう」
そう言ってもらい、深い眠りについた。
目が覚めた。すっかり日は登り、朝の明るさを取り戻している。
再びホールに来ると、少女がいた。
「来て、朝ごはんにする」
長いテーブルに椅子。
朝食は紅茶、クッキー……
「Lilyvioletって知ってる?」
「いいえ」
「Lilyvioletは、あなたが襲われたあの石膏、ラジアータレッドLilyの対処に当たる人達。」
「ラジ…」
「なにか質問ある?」クッキーを沢山ほお張る。
「…インセンスって?」
「incenseは私たちLily violetの必殺技だよ。ラジにクリティカルヒット。」
「…理解が追いつかない…現実って広い…」とほほ
「そんなものだよ、世界は広いんだもの」
そう、世界は広い。
自分の知らないところで、あるものも無いものも存在し、今もなお時間を刻み動き続けている。
今日知らないものも、明日知ることになる。そういうものもある。
⸻
朝食を終え、庭で散歩することになった。
植えられているバラは美しく、丁寧に育てられているのを感じる。冬だよな。
「でもどうして全部教えてくれたんですか」
「だってどうせ記憶消すし」
「…えっ?」
「怪我してたから治るまでここに置かれてただけで。本来知っちゃまずいんだから」
「どうして?」
「知ってしまうと楽しく過ごせなくなるからって言ってた。それに面倒なことが多いからね、だって」
「そういうことで」
少女は立ち止まり、こちらに向けて手をかざした。
「え、待って、」
「なに?」
「えっと名前!」
「シンフォニィ」
「…しんふぉにぃ?」交響 曲
「」びっくり
「よし、消します」
「えってっえっ」
「いっ…」
交響がincenseを使おうとした時、誰かがその手を持ち上げた。
「まて、曲」
赤い髪、赤い瞳が良く似合う。
華紅 唯一
「なに」
「こいつの腕見てみろよ」
華紅は手荒に可惜夜の腕をまくった。
するとそこには、神経が血管のように赤く浮き出たような跡が浮かび上がっていた。
「なにこれ」
「…毒」
「1度曲のincenseを使っているのに、解毒されていない。」
「…」
「記憶を消す訳には行かないわけだ。」
「待ってください。わかるように説明してくださいよ。」
「毒はラジの攻撃を負った時に負うもので、インセンス(治癒)を使えば解毒されるものなんだ。毒が回ると呼吸困難に陥り死を迎える。でもあんたは、解毒されず、毒も回らず止まったまま。これは解明する必要がある。だから記憶は消せない。」
「つまり、君もLily violetに入るしかない。いつ毒が回り出すか分からないし、最悪死ぬからね」
「つまり、強制連行…?」
「YES」
赤い薔薇と白い薔薇は混じり合いながら、宙を舞う。
肌寒い今日。
部屋に戻る途中のホールに来た。
「連絡先見て友達の家に泊まるって連絡しといたけど、家、お茶屋さんなんだ」
「まぁ、そうですけど、これからどうするんですか?」
「学校はここから通うでしょ、友達とルームシェアするって連絡した?」
「そういうていで行くんですか」
「まぁ」
「分かりました、まだ死にたくないですし、ちょっと面白そうなので、とりあえず連絡しに行きますけど」
これもまた遠い未来から見ると、いい青春なのかもしれない。
「あの、ところでなんで最初会った時、本当に記憶なくしてたんですか?」
「………」
「え?」
⸻
ーーーーーー
数日だった頃
「迎えに来ました」
お茶の香りや紅茶の匂いが広がる店内は綺麗で落ち着く。
「すみません、わざわざ。学校まで片道2時間ということでルームシェアに誘って頂きありがとうございます。」
理由がしっかり作り込まれてる…笑
「いえいえ、賑やかになっていいですし、助け合いですよ」
「じゃあ、いってきます。」
荷物を抱え込む。
「いってらっしゃい」小さな子供が泣き顔でひょこりと顔をだす弟。
「ぐすん、いってらっちゃい」
「行ってきます。」
少し歩いてお店が見えなくなり、人気がないところに来た。
2人で歩いていると左右前後から煙が立ちこめる。匂いは特にお香で、感触はドライアイスの煙に近く冷たい。辺りがまるで見えなくなった時、再び目を開けると、あの建物の前に居た。
「…」
中に入り華紅は言う。
「部屋はここを使って」
1人の部屋にしては広く、家具は揃っている。少しの調理が可能な調理器具、食器まで…。
荷物をおろし、窓を眺めた。
「ここには何人暮らしてるんですか?」
「毎日住んでるのは曲だけ。」
…やっぱり。こんな広い家で。
「でも、よく泊まるよ、みんな。」
「みんな?」
「incense保持者見て」
そう言って見せたのは
「これは?」
「免許書みたいなものだよ、これがないとincenseは使えない。これを持つものは保持してるものってこと。まぁ、見分けは付けづらい。」
華紅は可惜夜に一冊の本を渡し、部屋を後にした。
その本によれば、
証と言われたそれは、宝石も形も人によって異なったり、同じだったりするらしい。
現 13代 Lily ヴァイオレット
「incenseは誕生石から力を発せられる。宝石がエネルギーとなり、お香に変わりincenseとして発動される。そしてこの成分が、彼岸花。この力を編み出し繋げたのが、ラピス・リーライズ。イズと呼ばれることが多い。」
「ラジアータは石膏が原料。ラジのもうひとつの原材料としては彼岸花が挙げられる。ラジは特殊な石膏の鉱物でできている。ラジを生み出したのは、1人の若者(以下ラジ)だとされている。その男は老いることなく、今も尚なにかに囚われながらラジアータを生み出し続ける。その男の正体は現在まで永遠に明かされていない。目的でさえも。」
「現在ではイズもラジも行方不明のまま幕は開かれており、生死でさえ分からない。10年以上前から続くこの戦いはまだ始まったばかりである。」
「ラジの毒性について……石膏は中性である。彼岸花の成分アルカロイド・リコリンが混ざっているため毒性がある。呼吸困難から始まる。」
……………etc
「…10年前からか、10年前何してたかな」
扉が開いた。
「夜ご飯たべよ」
曲がひょこりと顔を出した。
相変わらず長いテーブル。
「スープ?」
「そう」
パンとスープを頬張った。
「美味しい」
するとティーポットを持った、藍色の髪をした人が入ってきた。
「…アースアイ…」
「曲、紅茶。」
「ありがとう…あ、可惜夜このひと」
「お手伝いさん」
「え」同い年くらいな…
「…こう見えて何年も生きてますよ、もう数えるの辞めましたけど。」
「!」
「由紀人、この家に元から居た」
「家の守護神ってことですか?」
「さぁね。敬語いいよ、タメ口で」
由紀人は紅茶を注ぐと、またどこかに行った。
…
紅茶をひとくち飲む。
「この紅茶私が育てたのよ」
「え、すっごい美味しい」
赤く輝き、緑にも輝くこの紅茶は、ストレートで飲みやすい。
曲は黒色のリボンをフリフリさせながら、どこからか瓶を取りだした。
「あげる」この中には茶葉がある。
「あ、ありがとう」
曲は気分が良さそうにどこかに行った。
広い空間で、ただ1人。
紅茶は綺麗に反射している。
(あれ、…なんだ…か、意識が)
ぼやぼやとしていると、ばたりと机に倒れ込んだ。持っていたカップは、地面で弾きとんだ。
水面のような紅茶は地面に落ちても輝いている。
紅茶の水面に映るのは、由紀人。
「……解毒されてないね。」由紀人は可惜夜の腕を持ち、痣を確認する。
「……」
これで何度目だろうか。
目が覚めると、紅茶の匂いと香ばしいクッキーの匂いがする。
甘いものばかり食べると体調を崩しそうだ。笑
体を起こすと、スノーポール畑にいた。甘い香りは自然の香りに変わり、風は強く吹いている。
ふと腕が視線に入った。
「!?色が変わってる…」
鮮やかな色彩をしている。
と思ったら一瞬にして、また黒に戻った。
「?」思わず首を傾げてしまった。
辺りを見渡すと、森。
よいしょ。と立ち上がると、強い風が髪を流していく。
気がつくと、由紀人が立っていた。
髪は全くなびかず、風が吹いていないかのように凛々しい。
「ゆきひと?」
「…インセンス・第7章 METEOR」
由紀人は手を前にかざすと、可惜夜の立つ場所に雨のように細い強い青が7本降り注いだ。
1本は額に、2本は首、2本は腕に、そして心臓を貫いた…
可惜夜の顔には額から血が流れ、首、腕、心臓からも血が滲み垂れ始めた。
細い針のようなのに、痛い。まるで血管が切れたようなそんな痛み。
「つっ…」目を細め苦痛に耐える。
由紀人は言った。
「なにしてんだよ。おまえ、」
……
「…」
由紀人は正面からインセンスを放った。
「インセンス・1A型 METEOR」
青く輝く、細く1本の長い流星のようなものが、可惜夜の心臓を貫いた。
「…」一瞬にして血は飛び散り、絶対にしぬであろう攻撃。意識が飛ぶ。
「にっ」
可惜夜は笑みを浮かべた。
そして由紀人を見る。その目は、白とグレーを持っていた。
攻撃により飛び散った血は宙を浮き、可惜夜の体に戻っていく。赤く桃色に輝きながら全ての傷を消した。
「はっ」可惜夜は気がついた。
「…、ちっ、華紅、こうなるのを見越していたな。」
煙の中から華紅が現れた。
「加護が発動したから来てみれば、予感的中。」赤い髪が強い風になびく。
「…曲」由紀人は言う。
「何してんの、」
…由紀人は黙ったまま。
「…なん、で」
「………」
「?暴走?」自分を指さしで微笑を浮かべる。
今この瞬間でも風は強く吹いており、由紀人の髪も風でなびいている。
あまりの風の強さに、可惜夜は目をゆっくり閉じた。
次に目が開いた時には、瞳の色は白とグレーに染まっていた。
『ぜん』華紅は言った。
「よぉ、『唯一』。げんき?」さわやかに微笑むぜん。
地面に生えているスノーポールが風に揺れて可愛らしい。
ぜんは由紀人の方を見ると、METEORを飛ばした。
風によってスノーポールに血が飛び散る。
白いスノーポールの一部は血で赤く染まっている。
ぜんは目線を落とす。
「あーあ、せっかく綺麗なホワイトに血がついちゃったな」
「まっ、これでおあいこだよね?」
爽やかな笑顔を浮かべたぜん。
曲はただ呆然と倒れ込んだ由紀人を眺めていた。
「…あんた、だれ?」
「ひどいなー、曲」『誰って、』
『俺は俺だよ』
風でスノーポールの花びらが舞う。
そんな時。
現れたのは、顔が完全に白い布で埋もれている石膏ラジだ。蒼い宝石をつけている。強い…。
ぜんは、眼だけ石膏の方を見ると目をつぶった。
「……」
『インセンス ブローム』
それだけ言うと、石膏はひびが割れ始め、その割れ目からは青い花が咲き乱れていく。そして一瞬にして崩れていき動きが止まった。。。
「………ありえない」曲が呟く。
可惜夜は目を開けると元の瞳に戻っていた。
「……」
スノーポールに付着する血、倒れている由紀人、インセンスで治癒する曲。
そして、ただ真っ直ぐと、可惜夜を見る華紅。
「…」何があったんだ。。。
「可惜夜、本当に何も覚えてないの?」
「え?」
「それとも」
『思い出したくないだけ?』
風で揺れる髪の奥から見える紅色の瞳。
なんだかその瞳は寂しそうに見える。
知ってるのか?
あの石膏も、インセンスも、レッドも、華紅も…………。
俺は可惜夜………名ってなんだっけ?
「おれは…………」
つっっ
激しい頭痛がする。
「っ…ー痛った」
ドッドッドッと心音が鳴り響く。
思い出したくない?
違う…。違う!
【ぜん】
…………。
頭痛は一瞬で弾け飛び、思考は清々しいほど澄んでいる。
「腕、自分でインセンスをかけたんだろ。記憶を失っても俺たちに見つけて貰えるように。」
「……、はは、やっぱ思い出すよね、、」
手のひらを見ながら善は言う。
「思い出したくなかったんだけどな…辛いこと多いからさ」
さわやかに笑う善を置いてカグラは無表情だ。
「でも、俺はお前が覚えてくれてて良かったよ」
「…だな、俺もそう思うよ。やっぱ、大切なものって覚えてなきゃ寂しいよね。俺自身が。」
さっきまでどんよりした空の色が、明るい空色に変わった。
善の腕にあるインセンスは既に消えていた。
これが記憶の鍵だったのだろう。
「ま、僕のおかげだよね」
気づくと、ゆきひとは、傷もなく立っていた。
「絶対記憶取り戻してきてるって思ってたもんね」
曲もそれに乗る。
「は、お前ら最初からきずいてたんかよ」
「最初の善の腕見た時に思い出したわ。経由は分からんかったけど」
『それで僕が、ちょっかい出したらいいやんってなったんよ。どうせ俺の力じゃこいつ死なんし、本気でやったろおもてよ。どうせ瀕死くらいやったら曲おるし』
「………ごめん。」
ぜんの顔に笑顔はなく、真剣な眼差しだった。
「いいよ、おかえり」華紅は言った。
ぜんは下を向き、少しの涙を流しながら微笑んだ。
顔を上げると、吹っ切れたように言った。
『ただいま。』
風は穏やかに吹き、スノーポールはヒラヒラと輝いている。
せたです。
とりあえず完成をゴールになんとか書き終えました。
ご容赦ください。これがせたの世界観です。




