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第4話 影の谷の試練

朝霧が谷を覆う。湿った土の匂いが鼻をつく中、咲弥は足を進めた。

胸の光核が、微かに脈打っている。


先日、少年の胸に宿った小さな光の枝のことを思い出す。

守る力は確かに存在する。しかし、力を試す機会はすぐに訪れるものだった。


谷の奥で、空気がねっとりと重くなる。

岩陰に黒い影が潜み、少女の足音に反応して形を変えた。


「……誰もいないよ」

咲弥はそっとつぶやく。

しかし、胸の光核は警告のように強く脈打つ。

影は逃げるのではなく、押し寄せてくる。


黒い霧が、人の形を帯びてうねりながら迫る。

人の悲しみ、孤独、怒り——それらが一塊となって形を成した“影喰い”だった。


咲弥は立ち止まり、胸の光核を握る。

「私は……守る……誰も、ひとりにはさせない」


光が胸から手の先へ流れ、桜の枝に宿る。

淡い紫色の光が、影喰いの周囲を照らした瞬間、影は身を縮め、うねる速度を落とす。


しかし完全には消えない。

影喰いは、弱い心に取り付き、光を吸い取ろうとする。


咲弥は枝を胸に押し当て、光核を全身に広げた。

「泣いてもいい……怖くてもいい……でも、心を折らせはしない」


その言葉と想いが、光を強める。

枝は震えるように輝き、光が影喰いの体に巻き付き、少しずつ形を崩していく。


影喰いの黒い霧が消えかけた瞬間、咲弥は少年の名前を呼ぶように空に向かってつぶやいた。


「ここにいる人を、守るんだ……!」


影喰いは最後の力を振り絞り、形を歪めて押し寄せる。

だが咲弥の胸の光核は揺るがない。

少女の覚悟は、光を桜の枝に注ぎ込むことで、影を完全に退けた。


影が消えた後、谷は静寂に包まれる。

胸の光核が暖かく脈打ち、枝は小さく揺れた。

触れると、光が少年の胸の奥に流れ込むような感触があった。


咲弥は息を整え、胸に手を当てる。

「これが……守る力の本当の形……」


光はまだ小さく、枝の中で脆い。

でも、確かに存在し、傷つきやすい心を守る力になった。


遠くの谷の風がざわめき、桜の淡い光がひとひら、夜空に舞い上がる。

その光は、未来に折れない優しさを持つ者の胸へ、静かに届くはずだった。


咲弥は小さくうなずき、光を胸に抱いた。

守るための試練は、まだ始まったばかりだった。


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