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重ねた唇

 ユリカさんと少しぎくしゃくしている。


 お互いを意識しているから。


 視線を合わせようとしてくれないんだけど、純情で可愛い。


 僕って記憶を失う前は・・・女性に困ってなかったのかもしれない。


 恋愛、っていうものにときめいている。


 鏡を見て、うんうん、と思う。


 もしかしたら、人前に出る仕事をしていたのかもしれない。


 ヒゲは特殊処理がしてあるみたいだ。


 ユリカさんにそれを言うと、ぱっと態度を変えた。


「やっぱり、ね。何かの科学技術なのねっ」


「僕って、何かの仕事でここらを通ったのかな・・・?」



「なんの仕事をしていたひとなのかしら?」


 すると、目の前が赤くも白くも黒くもなるような頭痛が始まった。


 驚愕した顔のまま、頭を押さえてしゃがみこみ、うめく。


「リブ!!」


 しばらくかじかむように震えていた身体が落ち着きを取り戻した。


 いっそう大きな息をして、呼吸を整える。


 片手で口元を押さえ、深呼吸、三回。


 ・・・どうにかおさまった。


「リブ・・・」


 ユリカさんは涙声だ。


「やっと、だ」


「何?」


「やっと、リブって呼んでくれた・・・」


 ぱちくりとしばたくユリカさん。


「そんなこと言ってる場合ではありません!」


 まったくもう、と言って、立ち上がるユリカさん。


「お粥を作りますから、ベッドに横になって下さいねっ」


「・・・ユリカさん・・・」


 ユリカさんが振り向いた。


「どうしたんです?」


「・・・これからは、僕のこと、『リブ』って呼んで下さい」


 しばらくの間。


「・・・分りました。それでいいです。ベッドに横になって」


「ソファでもいいですか?」


「それでもいいです」


 近くにあったソファに寝転がり、どうも倦怠感にさいなまれる。


「これじゃあ配達屋のなおれだ・・・」


 キッチンの方から、何か言いましたか、とユリカさんの声。


「なんでもないですっ」


 ああ、はい、と言われ、ユリカさんの活動音がする。


「・・・配達屋?」




 どうして突然「配達屋」と言う単語を思いついたのかは分らない。


 もしかしたら、配達屋として働いていたことを無意識に思い出したのかも。



 だとすると、伝説の剣を持っていたのは配達員としての届け物?



 ――フラッシュバック。


 剣を振り下ろす男の映像。



「・・・なんなんだっ?」



 ・・・襲われた?


 だから、気絶して倒れていた・・・?



 樹海、不思議森、キノコの胞子に抗体を持っている体質。


 ああ、そうだ。


 樹海では磁場が狂っている。


 俺はそれも関係なく動ける人員で・・・


 樹海をはさんだ場所に、届けものがあったんだった。



「ユリカさんっ・・・」



「お粥が出来ましたよ~。冷凍保存した炊いたお米って便利ですね。卵も入れました」


「ユリカさんっ・・・」


「ん?」


「都会に確認に行きたいっ。少し思い出したんです。俺、多分だけど配達員なんです」



「・・・配達?」




 ――

 ――――・・・



 後日、一緒に眠っていた彼女の寝顔を見て、ほっと安心する。


 ・・・夢じゃない。


 現実と向き合わねば。


 俺が何者なのか知りたい。


 それでユリカさんとの関係を終わらせたくない。



 いつの間にか、好きになっていた。


 このまま終わらせたくない。



「・・・おはよう」



 まだ眠そうな小声でユリカさんがこちらを見た。



「・・・おはようございます」




 気恥ずかしそうに身をちじめようと狭いベッドで身じろぎするユリカさん。


 俺は彼女の唇に口づけを贈った。



「きっと、戻ります」




 玄関まで見送ってもらって、もう一度キスをした。



 俺は絶対に、ユリカさんの無実を証明してみせる。




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