食用キノコの採取
「タコの頭の部分、たこ飯にしてほしいです」
「それは考慮に入れていたのですが、足の部分が残っていますよ?」
「じゃあ、頭の部分は?」
「後日、カットしてバジルオイルで和えて食べようかと」
「了解です。僕の分もあると嬉しいです」
「分かりました・・・行ってらっしゃい」
そう言って彼女が玄関前で微笑すると、なんだかくずぐったい気持ちになった。
今日はひとりで、食用キノコの採取。
驚いたが、まだ『紅茶キノコ』を求める者もいるんだそうだ。
いぶかしいが、仕事をしないとお金は来ない。
今回はそれ用と、ユリカさんと僕の食用分。
簡単な地図を確認・・・ざっくり過ぎて少し不安になった。
それを振り払うかのように、「よしっ」と言ってみる。
勘でどうにかなるだろう。
いざ森の中へ入って、情緒で引かれた線の長さを勘で計算してみる。
「ここらへんに・・・ああ、あった!」
座れるほどの大きなキノコ発見。
さすがに成長のしすぎだろう、と思ったが目覚めたあたりを思い出して血の気が引く。
まさかその種類じゃないだろうな、と思いつつ、そのへんを探してみる。
「・・・あった」
紅茶キノコ用のキノコを発見して、採取する。
「マイタケ、だっけ?うん・・・香りもいい・・・問題は・・・スゥイーティー?」
多分、百聞は一見にしかずですから、とユリカさんに言われてある。
「グミみたいなキノコ・・・?」
困って空を見上げると、木の枝に・・・グミみたいなものが生えてる!!
しかもカラフルで、なんだか可愛くて怖い。
靴に仕込んだ『マグリー』を意識して、椅子みたいに大きなキノコを踏み台に跳ぶ。
胞子が飛ばないキノコの側。
ユリカさんが言っていた通りだ。
木に登ることに成功して、木肌に生えているグミみたいなキノコを採取。
話によると生で食べるものらしく、試しに摘んでちょっとかじってみた。
「・・・あまーい・・・」
信じがたいが、スィーティーと言う名前通り、甘い。
まるで、グミだ。
ズボンのポケットに入っている筈のグミを思い出す。
「まさかっ・・・あ。製造年月日を確認して出たんだった・・・ってことは別物」
そんなぼやきをしたあと、とんでもないめまいみたいな頭痛が鼓動した。
うめいて頭を押さえ、なんとか木の枝から落ちずにすんだ。
ため息を吐いて、なんなんだ、と独りごちる。
無意識に地面を見ると、足がかりにしたはずの座れるキノコがいない。
そのあとはスィーティーを少し残して採取して、ユリカさんの家に戻った。
「もしかして、スィーティーのぶどう糖が思い出したきっかけじゃないかしら?」
「ぶどう?グミにも入ってるやつ?」
「グミ・・・を、知りません」
「そうなんだ・・・ユリカさんっていつの時代のひとなんだろう?」
「私はもう100歳くらいですよ」
「3桁・・・」
「4桁は、多分、いない・・・いないです、多分」
「魔法書・・・」
「いえ、なんかイヤです。話題を変えませんか?」
「じゃあ・・・この残ったショウガって、どうするんです?」
「いつも困るんです」
「じゃあ、パウダーにしてみたらどうだろう、って思ったんです」
「ジンジャーパウダー?すごいっ。さっそく作ってみたいっ」
たこ飯に使った残りのショウガを魔法で芯まで凍らせて、すりこぎで砕く。
面倒くさくなったユリカさんは、バリアの中に入れて、そこで風魔法。
遠心分離して粉状になっていくショウガ。
見事に完成して、ユリカさんは大喜びだ。
少しでも役に立てて嬉しい。
たこ飯、美味しかった。
枝豆の代わりに、ヨモギが入っていたのは初めてだった。
ユリカさんの故郷では、枝豆よりヨモギが主流らしい。
それから後日の『タコのバジルオイル和え』も塩が利いてて美味しかった。




