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帰省

作者: たぬ吉

 ホームで新幹線を待っていた。

 大学入学を機に実家を出て早くも3年が経つ。就職は地元でして欲しいという両親からの希望と、自分自身、一人暮らしの大変さにうんざりしていたのもあり、就職活動も兼ねて2月、3月の長期休暇に帰省することにした。

 田舎へは大学生になってから一度も帰っていない。忙しかった。大学生にもなればそれまで経験できなかったことがたくさんある。たとえばバイトとかバイトとかバイトとか。それからバイトとか。色恋沙汰なんて一部の学生のみに与えられた特権だ。入学する前は自分にもその特権が与えられるものと思っていた。しかし、高校まで縁のなかった人間が大学に入ったからといって得られるわけではないことを、残念ながら身をもって体験した。エニシは天から降ってはこない。残念だけれど。

 そんな、苦いけれど青さとは程遠い、どこかこの年齢で枯れたことに自ら哀愁を感じながら明後日のほう向いていると、新幹線が入ってきた。全席指定の新幹線だ。俺は窓側の席を予約していた。


 車内は平日ということもあってか空いていた。

 すぐに自分の席を見つけ、着替えの入ったカバンとスーツを頭上の棚に置き、もう一つの小説やケータイゲーム機が入れてあるバックを足元において座るころ、ちょうど新幹線が発車した。隣の席には誰も来ないことに寂しさを覚えた。

 目的の駅まで2時間半。そこから電車に乗り換えて揺られること1時間。前日、準備をしているとき移動時間は暇になる違いないと思っていたが、いざ席に座るとそうでもなかった。窓の外を流れる景色は三年間同じものしか目にしてこなかった俺には新鮮だった。一瞬とはいえ知らない場所を目にすることは、それが人工的にできた建物であろうと自然な状態を保った山の中であろうと美しかった。飽きなかった。

 あっという間に新幹線は終わりの時間になった。結局小説を読むことはなく、ゲームをすることもなかった。


 新幹線を降りると外は肌寒かった。同じ日本、しかも移動にはたったの2時間半しかかからない。それでもこんなに気候が違う。日本は本当に狭いのだろうか?

 在来線に乗り換えた。俺は先頭車両に乗った。17時ころということもあり、下校途中の学生で少し混んでいた。

 新幹線のときと同様、窓の外を見ていると町は変わっていた。以前は田園風景が広がっていた場所が住宅街になっていたりショッピングモールになっていたり。たったの3年間でここまで変われることが信じられなかった。

 その変わりようは実家近くの駅まで続いていた。以前は駅とスーパーしかない場所だったのが、今では例に漏れなく住宅地。ニュータウンという名称がピッタリだった。

 俺は一度荷物を駅に備え付けられているイスに置き、白いマフラーを巻きなおした。だらしのない格好で実家へ向かうのがいやだった。


 家に着くと外装ががらりと変わっていた。白かった壁がグレーに塗り替えられている。さらに、庭はそれまでなかったはずのレンガでできた壁で覆われていた。ここは本当に俺の家か?

 日本だよな?

 そう思い表札を確認したがやはり自分の家だ。インターホンを押すと聞きなれた母親の声がした。俺はホッとした。ここが本当に自分の家であることへの実感と肉親の声に。電話とはやはり違う。同じ機械越しなのに不思議だ。

 玄関が開き、家から母親が出てきた。家の外観は変わっていても、母親は変わっていなかった。

「ただいま。これ、おみやげ」

 すると母親はキョトンとした顔で言った。

「本当にトモなの?」

「何言ってんの?」


 どうやら3年という月日は俺自身も変えてしまったようだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 母親が驚いてる場面はよかった。 [気になる点] 見せ場の演出が弱い。 [一言] なぜ歴史カテゴリーなのか。文学ではないのか。
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