ブラックウオッシュ
彼女達が何を怒っているのか、正直、僕にはまったく分からないのだけど、ある食品のCMが性的で女性差別的だとして一部の女性達が文句を言っている。「まったく性的じゃない」と主張している人もいるのだけど、一応、性的に見えない事もない…… と、少なくとも僕は思っている。
――ただ、そもそも性的である事は、別に社会悪ではないのだ。
いや、一部にそのような性道徳を持つ文化はあるけれど、それは女性の権利を認めない男系社会で形成されたものであって、女性が性的にアピールすることを認めている今の世の中にはそぐわない。多様な価値観を認めるべきだとされる時代で、いくらなんでも狭量に過ぎるだろう。
もっとも、或いは彼女達の主張はそういうのとも少し違っているのかもしれないのだけど……
どうも彼女達は性的にアピールする女性キャラクターを観て、「自分達も同じだと思われる!」と被害を訴えているようなのだ。
一応断っておくけど、その食品CMは「全ての女性がこうだ」などと訴えている訳ではない。女性と一口に言っても様々なタイプがいるのは当然の話で、その一つを描いているだけなのだ。
――では、どうして彼女達にはそうは思えないのだろう?
“レッテル貼り”
人は差別を行う際に、一部の物事から全体を決めつける。例えば、ある国の人が犯罪を行ったなら、その国の人は全員犯罪を行うような人なのだと思い込む。実際には、アメリカ人だって韓国人だって中国人だって様々なタイプの人がいる訳で、いくら何でも一部のケースだけを観て全体を決めつけるのは間違っている。
しかし、人間はどうにもそのように思いたがってしまう性質を持っているらしい。実際、そのような思考はダメだと思っている僕自身でさえ、少し油断をするとついそのように思ってしまう事がある。
では、そのような“レッテル貼り”をしてしまう人が、自分と同じ属性…… 先の例だと、女性であるという属性を持つ人が性的アピールをしているのを見たなら、一体、どのように思うのだろうか?
“全ての女性が性的だ”と主張していると勘違いをして、怒りだしてしまうかもしれない……
この推測が正しいのだとすれば、もしかしたら、他の似たようなケースにもこれは当て嵌められるのかもしれない。
「黒人差別をするな!」
例えば、アニメや漫画などのキャラクターに肥った黒人が描かれたりすると、そのように訴える人達が偶にいる。別に全ての黒人が肥っていると主張している訳でもないのに。
――そして、
もしかしたら、このような人達は、逆に一部の優秀な黒人の誰かをアピールする事で、全ての黒人の価値を上げようと考えてしまうのかもしれない。もちろん、それは架空の人物にも当て嵌まる……
ある日のことだった。突然、松田修という名の友人から電話がかかってきた。
「あ、小鳥遊か? 悪い。黒人にならなくちゃいけなくなったのだけど、どうすれば良いと思う?」
オーケー。
言いたい事は分かっている。“意味が分からない”って言うのだろう? 安心してくれ。僕にも分からなかったから。
松田は少々…… と言うか、かなり変わった所のある奴だけれども、流石に「黒人にならなくちゃいけない」というのはぶっ飛び過ぎている。訳が分からない。
「いや、待て。分からんて」
生粋の日本人である松田は何をどうがんばっても黒人にはなれない。いや、松田は日焼けし易い性質だし、タラコ唇だから、日本人の中ではそれなりに黒人に見えない事もない部類に入る外見をしているけれど、それでも無理がある。
「それが人助けをしたら、なんでか黒人にならなくちゃいけない事になったんだよ」
その松田の説明を聞いて、僕はますます分からなくなった。
「あのさ、松田。物事はきちんと順を追って説明してくれないか?」
そう言ってから僕は思い出した。確かこいつは今外国を旅行している最中なのだ。旅先で何かあったのだろうか?
「……旅行中に何かあったのか?」
だからそう訊いてみたら、彼は説明を始めたのだった。
ヨーロッパのとある町を旅行中、松田は夜中、予約したホテルが見つからなくて困っていたのだそうだ。
その辺りの治安はそれほど悪くないと聞いてはいたそうだが、それでも警戒するべきだとは分かっていた。日本基準で考えてはいけない。日本は安全過ぎるのだ。ただ、と言っても、持ち前の能天気さの所為で、あまり危機感は覚えていなかったそうなのだが。
もし昼間だったならきっと美しいだろう石造りの街並み。辺りはひんやりとしていた。誰かに道を尋ねたかったが、店もなくて人も歩いていない。彼は何処かに人の声が聞こえないかと耳を澄ましながら歩いていたらしい。それで“その声”に気が付いたのだ。始めは「これで道を聞ける」と喜んでいたが、徐々に普通じゃない雰囲気を感じ取り、足早に声の方に向かった。
暗闇でよく分からなかったが、背の小さな影が見える。恐らく子供だ。男だろう二人組が、その子供を挟み込んで壁際に追い込んでいた。きっと襲われているのだろう。
松田は強い。柔道の有段者だ。熱血漢なところがある彼は、考えるよりも先に手が出ていた。背後から一人の腕を捕まえると、そのまま背負って投げた。地面は硬い石畳だ。叩きつければ普通はもう動けない。もう一人の相手もするつもりで素早く身構えたが、相棒がやられたと分かったなりそいつは逃げ出してしまったようだった。そもそも誰かを襲う事自体にビビっていたのかもしれない。
少し迷ったが、松田は追いかけなかった。他にも悪漢がいるかもしれない。その子を一人にはできないと判断したのだ。
「大丈夫か?」
心配して声をかけたが、日本語が分かるはずもない。直ぐに彼はスマートフォンの翻訳アプリを使った。すると通じたらしく、黒い影が頷いたのが分かった。彼はその子を一人で帰らせる訳にもいかないと思って送ることにした。その道すがらにホテルの場所を聞いた。家の前まで送り届けると、その子供は何度もお礼を言って家に入っていった。
それからなんとか無事にホテルに辿り着けた松田は、そのまま一晩を過ごしたのだが、彼の知らない間にその事件は多少大事になっていたのだそうだ。“暴漢から子供を助けた正義のヒーロー現る”と。朝になりそのニュースを松田も耳にしたが、自分の事だとは思わなかった。何故なら、子供を助けたその人物は、黒人だと伝えられていたからだ。
道は暗かった。助けられた子供に顔はよく見えなかったのだろう。加えてその子は日本語を知らなかったし日本人の顔もあまり見た経験がなかったようだ。松田は色黒でタラコ唇で無骨。西洋人が思い浮かべる東洋人の顔はしていない。だから、暗がりで松田の顔を見て、黒人だと勘違いをしてしまったのだろうと思う。
……アニメや漫画に出て来る日本人のキャラクターを、白人や黒人だと勘違いする人々が世界にはいる。俳優や女優をモデルにしている場合でもそういったケースがあるので不可解に思う人もいるかもしれないが、どうやら彼らの多くは、日本人の顔…… 否、アジア人の顔をあまり見慣れていないようで(日本人の顔と中国人の顔の見分けも付かない)、それで身近にいる人間にイメージを当て嵌めてしまっているのではないかと思われる。
とにかく、それで松田は自分には関係ないとそのまま旅行を続けていたのだが、そのヒーロー譚を聞いて、一部の黒人達が彼を探し始めてしまったのだった。松田は子供にホテルの場所を尋ねていたから、彼を探し当てるのは比較的容易だったらしい。だが、“黒人のヒーロー”として彼を探していた黒人達は彼を見つけて愕然となってしまったのだ。
黒人じゃない?
日本人だって?
そんなバカな!
彼らにとって必要なのは“黒人のヒーロー”であって“アジア人のヒーロー”ではなかったのである。
「――で、だ。俺に黒人の振りをしてくれって言うんだよな、彼らは。俺の外見はホログラム技術で誤魔化せるのだそうだ。ちょっとライブ配信に顔を出すだけで、その後は大丈夫だからって」
そう松田は語り終える。
僕はその話を聞き終えて目が点になった。
「いやいやいや。待て、松田。お前はその話を引き受けるつもりでいるのか?」
なんとも身勝手な話に思える。
「俺だって始めは“何を馬鹿な”って思ったよ。でも、彼らの話を聞いてみて、彼らには彼らの事情があると知ったんだ」
「なんだよそれ?」
「黒人達には人種差別で苦しんで来た歴史があるんだよ。いや、今だって苦しめられている人は大勢いる。だから、俺が黒人の振りをすることでそういう人達を少しでも助けられるのなら協力したいと思ったんだよ」
「はぁ……。なるほど、そう説得されたって訳か」
松田はお人好しで熱血漢でそしてシンプルな馬鹿だ。泣き落としには弱いから、きっとあっさりと乗せられたのだろう。
……ただ、もしも僕がその黒人達なら絶対に頼まないが。
こいつはお人好しで頭が悪いが、だからこそ扱いにくい一面があるのだ。真っ直ぐで不器用。何も起こらなければ良いのだが。
「それで困っているんだよ。俺、黒人のことはそんなに知らないしさ。一体、どうすれば良いと思う?」
しかも、真面目だから、こんな風に全力でやろうとするのだ。
「いや、そんなの僕だって知らないよ。ネットで調べろよ」
「それだけじゃ心配なんだよ。何でも良いから、黒人について知っている事を教えてくれよ」
僕は困ってしまった。こーなると中々に頑固な奴なのだ。それで仕方なく、僕は黒人について知っている知識の幾つかを説明する事にしたのだった。
――黒人の特色と言えば、まず何と言っても肌が黒い点だ。当たり前だと思うかもしれないが、肌が黒いお陰で強い日光が降り注ぐ地域でも問題なく暮らせている。
逆に日光が弱い地域には向いていない。人間は日光を浴びてビタミンDを生成するのだが、黒い肌では十分にビタミンDを生成できなくなってしまうのだ。普段生活をする分にはそれでも問題ないが、妊婦にとっては大問題で、お腹の子供が必要とするだけのビタミンDを生成できなくなるかもしれない。もちろん、不足分は食物から摂取すれば良いので、現代ではあまり問題になっていないが。
これは肌の色では、優劣は判断できない事を示唆している。白人の肌の色も黒人の肌の色もそれぞれの住む地域に適応した結果に過ぎないのだ。
(因みに、北極圏に住むイヌイットは黄色人種だが、彼らはビタミンDを多く含むアザラシやセイウチなどを食べているのでビタミンD不足になっていないのではないかと考えられている)
また、黒人は遺伝的多様性に富んでいるとも言われている。
短距離走でも長距離走でも黒人選手は高い成績を収めているが、見れば簡単に分かる通り全く体型は異なっている。これはアフリカでは交流が隔絶された地域が多く存在していた為、固有の遺伝子が生き残り続けた結果なのだと言う。
だから、或いは“著しく知能に優れた黒人”も存在している可能性もあり、十分な教育さえ受けさせられたなら、その能力を発揮できるようになるかもしれないのだ。
ただし、今後は広がった交流により、そのような固有の遺伝子は徐々に失われていく事になるのだろうが。
「……僕が知っている事っていったらこれくらいだな。後はきっとネットを調べた方が早いって思うぞ?」
僕がそう説明を終えると松田は「うむ。まったく役に立ちそうにないな」とそう言った。
「いや、だから、始めからそう言っているじゃないか。自分で調べろよ。ロックミュージックとか、ラップとか、ブレイクダンスとか。黒人発祥の文化ってのは意外に多くてしかも高く評価されていて、他の文化に大きな影響を与えているのだから」
しばらく考え込んでいたが、それから「なるほど。よく分かった。自分で調べてみるか」とそう彼は返して来た。
「うん。そうしてくれ」
と、僕は言ったが、一抹の不安を覚えてはいた。自分で調べたなら調べたで、暴走するかもしれないような奴なのだ。松田は……
松田がパソコン画面に映っている。
ただし、黒い肌にコーティングされていて、パッと見は黒人に見える。つまりはブラックウオッシュされているのだ。松田が言っていたホログラム技術だろう。よく見ると違和感は端々に感じられるから、長い時間をかければ疑いの目を向ける人も出て来るかもしれない。
否、長い時間をかけなくても、疑われるような気がする。
“松田まで悪く言われなけりゃ良いけど……”
僕はちょっと心配になっていた。
『子供を救った黒人ヒーローへのインタビュー』
前もってその動画の配信時間を教えてもらっていて、妙に気になってしまったものだから、僕はパソコンでその配信をライブタイムで視聴していたのだ。
背景は白い壁で、舞台のようなものが設えてある。会場は何処かの広場だ。画面には映っていないが、周りに人が集まっている気配がする。バレる危険が高くなるだろうからかなり大胆だ。或いは、「ここまで大胆なことをするからにはズルなんかするはずがない」と思わせたいのかもしれない。単に何も考えていないだけかもしれないが。
松田の隣にはマイクを持った黒人女性のインタビュアがいた。痩せ型で陽気な笑顔を振りまいている。穿った見方をするのなら、嘘を誤魔化そうとしているようにも思えた。
やがて、そのインタビュアが何やら説明を始めた。動画の下の方にAIが自動で文字起こしをしてくれている。日本語にも翻訳してくれていて、お陰で理解する事ができた。当日の事件のあらましと、松田が子供を助けたヒーローである旨が告げられる。紹介を受けた松田が軽く頭を下げると拍手が起こった。
やがて、インタビュアが松田自身と事件当日の事を松田に尋ねた。松田が日本語以外を喋れるはずがない。彼は日本語で説明を始めた。こういう場は不慣れな男だ。しどろもどろの口調で彼は自分が日本に住んでいる事を説明した。AIがそれを自動通訳する。
日本に住んでいる黒人……
そう現地の人は解釈をしたのだろう。
もちろん、日本にだって黒人は住んでいる。ただ、とても少ない。だからちょっと不自然だけど、そもそも現地の人はそれを知らないのかもしれない。現在、フランスは黒人の人口割合が白人を超えているけど、それを知っている日本人が少ないのと同じで。
松田が事件のあらましを説明し終えた。インタビュアが彼の勇敢な行動を称える。松田はお礼を言い、「犯人はこちらに気が付いていなかったし自分は柔道をやっているので技も知っている。それほどの危険はなかったです。そこまで褒められる話でありません」などと述べた。何故か浮かない顔をしている。黒人の振りをしている良心の呵責の所為かと僕はそれを見て思ったのだけど、どうやら違うようだった。それから彼はこのような事を語り始めたのだ。
「実は、このインタビュアを受けるに当たって黒人について調べたのです。音楽やダンス、それに宗教なんかについても。
どれも素晴らしいと思った。オリジナリティがあり、魅力的で、アメリカに住んでいてもヨーロッパに住んでいても、そして日本に住んでいても、黒人達は生物学的な特性だけじゃなく、アフリカにルーツのあるそれら文化を連綿と受け継いでいるのだと僕は思った。彼らの“生”はその上で成り立っているんだ」
その松田の言葉にインタビュアは戸惑った表情を浮かべた。きっと台本にない彼のアドリブ…… 否、“暴走”だったのだろう。だが、大きな問題はないと運営側は判断しているようだった。黒人を褒めている。しかし僕は嫌な予感を覚えていた。こーいう時のあいつは、何をやり出すか分からない。多分、不器用さが大爆発をしている。
「だからこそ、俺が“黒人の振り”をする事は、黒人達への冒涜であるように思えてならないんです」
案の定、彼はそんな爆弾発言をした。
“いきなりばらしやがった!”
僕は思わず目を大きく見開いてしまった。
それから松田は一歩足を踏み出した。ホログラムにより、彼の肌を黒く見せる技術は、どうやら会場の舞台の上だけにしか効果がないらしく、彼の肌の色は黒人とは言えないくらいに薄くなってしまった。
流石に、日本人の姿をよく知らなくても、彼が黄色人種であると分かっただろう。
インタビュアは目を丸くし、会場がざわつく。多分、このライブ配信のスタッフ達は軽いパニックに陥りそうだったのだろう。彼はカメラから外れた会場の端に掌を向けて合図をし軽く頷いた。
“心配するな”
と、多分、言っている。
彼は続けた。
「見ての通り、俺は黄色人種です。日本人で黒人じゃない。俺が本当に日本で生まれた黒人だったら、偏見や差別を味わっていると思うが、だからそんな苦しみは味わってはいない。そんなに酷くはないが、日本にだって多少はそういうのはあるんです。特に子供の内は逃れられないと思う。邪な感情を上手く制御できない未熟な子供達の多くは、きっと日本では珍しい黒人の子供を上手く受け入れられないだろうから」
一度それで切ると、彼は軽く息を吐き出した。緊張している。慣れないことを必死に成功させようとしているようだ。
「アフリカにルーツを持ち、アメリカやヨーロッパで育った黒人達の文化は差別とは切り離せない。“差別や偏見へ抗う”という意味合いを多分に含んでいて、だからこそ“社会に逆らう”というメッセージ性と強い繋がりを持っている。そしてそれが社会自体の過ちを糺したい人々や不当な扱いを受けている人々の力にもなって来た。ロックミュージックやヒップホップ。日本の若者の多くもそれらから力を貰って来たんだ。これは間違いなく黒人達のお陰だ」
そこでまた松田は言葉を切った。
辺りを見渡す。
ライブ配信は遮断されなかった。トラブルではあるし彼の暴走でもあるが、敵意はない。恐らく、運営は迷っているのだろう。彼が味方である事は確かだが…… と。
松田は語り続ける。
「実は俺は運営スタッフから黒人の振りをしてくれと頼まれたんです…… ただ、どうか彼らを悪く思わないで欲しい。彼らに悪意はない。単に黒人差別問題をなんとかしたいと思っているだけなんです。だからこそ俺も協力したいと思ったのだけど、さっきも言った通り、後悔をしたんです。少し勉強をして“黒人”も、“黒人文化”も単に日本人が肌を黒くすればなれるほど薄っぺらいものではないと悟ったからです。
もしかしたら、日本人の肌を黒くしたいと思っている人達は、自分達の文化は薄っぺらだと思っているのかもしれない。だから日本人だって黒人になれる、と。しかし、決してそんな事はないのです。だから、どうかそんな事はしようとしないで欲しい。日本人は黒人にはなれません。そしてもっと自信を持って欲しい。無理に日本人の肌を黒くして黒人にしなくても、あなた達の文化には充分に価値があるのだから!」
松田がそう言い終える。すると、それと同時に周りから拍手が沸き起こった。どうやら上手くいったようだ。
あいつは、こーいうのが苦手なはずだ。随分とがんばった。きっと何日も前から考えて準備をして来たのだろう。
幸いにも会場は温かい空気に包まれていた。今後、どんな批判が起こるか分からないが、少なくともこの場では歓迎ムードだ。運営も松田も許されている……
――もし仮に、全ての黒人のキャラクターが醜く悪く描かれていて、カッコいい白人のキャラクターがそれを退治するような物語ばかりだったなら大いに問題だろう。まるで白人至上主義のプロパガンダのように思えるし、実際にそうなのかもしれない。
そこまで酷くはないかもしれないが、カッコいい白人男性が活躍するストーリーが特に欧米では多く作られて来た。
近年、これを反省する活動が欧米を中心として活発になって来ていて、そして、アジアの文化圏もそれに巻き込まれている。
いわゆる“ポリコレ”というやつだ。
もし仮に、それらポリコレが本当に平等主義や多様性を訴えるものばかりならば歓迎するべきだと思うのだけど、どうやらそうはなっていないようだ。
様々な主義思想に観られる現象なのだけど、活動が大きくなり組織化していく過程で当初の高尚な理想は忘れ去られて形骸化し、むしろ社会にとって悪影響を与えかねないものへと変貌をしてしまう事がある。
今のポリコレもその類に漏れず、時が経るにしたがってどんどんと酷くなっているようだ。
例えば、あるゲームでは“史実に則っている”と銘打って黒人侍を超人的な能力を持ったヒーローとして描いている。しかも、何故かそのゲーム内で、その黒人侍は何の罪もない日本の一般の人々を殺傷できてしまえるらしい……
正直、悪趣味だと思うし、これでは平等主義ではなく、黒人優位主義のプロパガンダだろう。
「たかがゲーム。フィクションじゃないか」
と、これを庇う論調があるのだけど、独裁国家や専制国家は、フィクションをプロパガンダに利用して来たのだ。もし影響がないというのなら、そもそもそのような黒人侍を登場させる価値などないはずだ。
このような風潮はこれだけではない。日本人が考えた日本を舞台にした漫画のキャラクターを、無理矢理に黒人に変えようとする人達がいる。
差別撤廃の為にそんな事をする必要はないし、日本に対しても、日本の漫画家に対しても失礼過ぎるし、平等主義でもないし多様性もない。
もっと信じられない事例もある。
DEI雇用…… “多様性ある雇用”と銘打っているにも拘わらず、何故か女性ばかりしかない職場があるのだ。“女性ばかり”では多様性があるはずもない。それは女性優位主義であって、多様性とは別物だ。彼女らはそのように男性を差別したりせず、フェアな条件で雇用するべきだろう。
こんな当たり前な話が、理解できないはずはないから、きっと集団心理の所為で正常な判断力を失ってしまっているのだろうと思う。
……或いは、松田のような不器用で実直な声ならば、少しは、そういった人達の目を覚ます事ができるかもしれない。