第二話 これが、勇者の実態?
ここで話に入る前に、簡単にこれから俺が鍛え直していくクズ勇者どもの紹介をしよう。
まず彼らのリーダーであり勇者のアレン。傲慢で自己中、虚言癖。女癖が非常に悪く、酒場で見かけたかわいい女性にはすぐ声をかける。そのせいでトラブルが絶えない。
次に副隊長で体術が得意なダンク。いつも自分の意見を押し通すクセに、人の話は全く聞かない。酒癖が悪く、酔っ払うと周りなどおかまいなしに好き勝手暴れるため誰にも手がつけられくなる。
続いてヒーラーの聖女ミルティ。寝てばかりで他力本願。戦闘中でも気が向かなければまったく協力しないせいで勇者たちが全滅の危機に陥ることもしばしば…
最後に魔法使いのカリナ。がめつくて、金になりそうなことに目がない。高価なアイテムを見つけると、戦闘なんてそっちのけでそれを手に入れようとする。
…いや、クズすぎる。クズすぎるだろ勇者ども。こんな正義のヒーローがいてたまるか。
さて、紹介するだけで頭が痛くなってきたところで、そんな彼らの様子を見てみよう。
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酒場で、勇者アレンは自慢げに酒をあおりながら、周囲の女たちに手を振っていた。
「見ろよこの腕の傷、今日も魔王軍を倒してきたんだ。なーに、大した敵じゃない。奴らごときじゃ俺にかすり傷を与えるので精一杯だろう!」
その言葉に黄色い歓声が上がる。
…無能勇者が魔王軍を倒したなど真っ赤な嘘である。というか闘ってすらない。本当に闘っていたらかすり傷どころか今頃とっくにあの世にいるだろう。この腕の傷は、今日街ですれ違った美しい女性に見惚れて前を見ていなかったアレンが壁に激突した時にできた擦り傷である。
「勇者さ〜ん、冒険の話、色々聞きたいなぁ…♡」「お強いのね…!その若さで世界を救うために毎日闘ってくださっているだなんて………ス・テ・キ♡」と、アレンの耳元に顔を寄せ、口々に甘い声で囁く美女たち。
すっかり気分を良くしたアレンはニヤリと笑い、「よし、こっちへ来い。俺の武勇伝をじっくり聞かせてやろう」と言って、隣に腰を下ろした彼女たちの肩を抱き寄せた。
その様子をちらっと横目で見てカリナは呆れたようにため息をついた。
「アホらし。毎晩毎晩みえすいたお世辞にホイホイ乗せられてまんまとお金使わせられちゃって…。もったいないったらないよねぇ?」
そう言いつつカリナが愛おしそうに撫でているのは今日森で彼女が拾ったコインだ。勇者パーティーが低級魔物のスライム、しかもたかが数匹に苦戦している中、カリナはというと遠くでこのコインが落ちる「チャリン♪」という音を聞きつけるやいなや飛んで行ってしまった。
この世界のスライムは低級魔物で危険性は低いが、物理攻撃が効かないので魔法で倒すしかない。この勇者パーティーで魔法攻撃ができるのはカリナだけだ。その唯一の魔法使いが不在となると……スライムの一匹も倒せない勇者パーティーなどまったく聞いてあきれる。
別の卓では副隊長のダンクが酔い潰れていた。
「おいおいダンクさん、もう酒はそのくらいにしとけよ」と、横にいた冒険者が止めに入るが、ダンクの耳には届いちゃいない。
彼はふらふらと立ち上がり、「次の酒はまだか! 今日も魔物をたくさん倒したんだ、飲まなきゃやってやれないだろう!」と大声で叫ぶ。
周囲の視線が集まる中、ダンクは気にせず続けた。
「お前ら、俺の体術を見せてやる! まずはぁ…」
と言って、何かを振りかざすように手を動かす。しかし、その動きはふらつき、結局テーブルの上にあった酒をひっくり返してしまった。
「おっと、すまない!」と彼は豪快に笑いながら言ったが、周りにいた冒険者たちは困惑の表情を浮かべて顔を見合わせている。ダンクの酒癖の悪さを知る者たちはハナから彼から離れた席に座っているため、遠巻きに眺めながら「またやってるよ…」と呆れた様子である。
その物音で近くにいたミルティが目を覚まし、「…また騒いでるの?」と不機嫌そうに言った。
ダンクは、「ミルティ、お前も俺の技を見てくれ!」と大声で呼びかけるが、安眠妨害をされて大層ご立腹のミルティは彼をキッと睨みつけ、「興味ないから」と冷たく返す。そして、
「明日ダンクが死にかけても私、回復しないから。」
とだけ言い捨てて、またテーブルに突っ伏して寝てしまった。ミルティが回復しないと言ったのだから明日ダンクは本当にどんな大怪我を負っても一切回復してもらえないだろう。…本当にこの娘は聖女なのだろうか。
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その頃、カインは魔王城で部下たちとともに、魔王軍の任務の準備をしていた。
「カイン様、次の任務についてですが、魔王軍陣地のエリュシー村の防衛が必要との情報が入っています」と部下のロイドが報告する。
「敵は?」とカインが尋ねる。
「はい。敵は飢饉の影響で食糧が尽きた隣の村の住民で、兵の数はおよそ300といったところでしょう」とロイドが答える。
「エリュシー村に入らせるな。敵軍をすみやかに制圧し、全員生かして拘束しろ」とカインは冷静に指示を出した。「それと、拘束した後奴らにパンでも与えてやれ。城の食物庫から出していい」
「よろしいので?」とロイドは尋ねた。
「ああ。エリュシー村と隣村の間には大きな湖があるが、魔王軍陣地と人間陣地の境界であるためどちらの村も近付かないようにしている。隣村を魔王軍側に引き入れ、湖を利用した一次産業を行えるようにすれば隣村の飢饉も解消され、結果的に我ら魔王軍の収入にも繋がるだろう」とカインは続けた。
部下たちは感心しながらメモを取り、カインの指示に従った。「カイン様の戦略は本当に素晴らしいですね。私たちも見習います」と別の部下が言うと、カインは満足そうに頷いた。
「さて、では各自戦闘に備えて準備を整えろ。魔王軍としての誇りを忘れずに。行くぞ!」とカインは部下たちに声をかけた。
「はい、カイン様!全力で任務を遂行します!」
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カインの夢はあくまで読者人気を得ること。魔王に忠誠など誓っていないが、魔王軍への裏切りシーンを際立たせるためには、魔王軍として忠実な僕でいる必要があった。そして彼は、勇者に寝返ろうと頭を悩ませているのが愚かしいと思えるほど、本当に優秀な逸材であった。
カインがスムーズに任務を完遂したあと勇者たちの様子を観察すると、酒場ではアレンが女に引っぱたかれており、カリナは高価なアイテムと交換してやるという詐欺にまんまと釣られ、先程のコインを失って泣いていた。ミルティは変わらず寝ていて、ダンクはどこかに行ってしまったようだ。酒がひっくり返り、皿が割れ、ところどころ凹んでしまった悲惨なテーブルだけが残されている。
周囲の客たちは呆れた様子で彼らを見つめ、酒場の雰囲気は混沌になっていた。これが、カインが導こうとしている勇者パーティーの現実だった。
「……や、やっぱ俺、こいつら立て直すの無理かも〜!?!?!?」




