姉妹
三題噺もどき―さんびゃくきゅう。
「次右ね~」
「りょ~」
交差点を、指示通りにウィンカーをだし、右折レーンへと入っていく。
目の前に車はいなかったが、タイミング悪く赤信号になり止まる。
「そのあとまっすぐ」
「んー」
助手席に座り、スマホを片手に指示を出してくれるのは、私の可愛い妹。
充電の消費が激しいだろうから、私のスマホでやってくれと言ったが。ありがたいことに、妹自身のスマホでポチポチといじりながら、道案内をしてくれる。
「あ、途中でコンビニ寄ろ」
「…あんの?」
「あるある」
このタイミングで、目的地以外のところに行きたいと言い始めるのは、少々可愛げがないと思うが。
ま、それも含めて可愛い妹だ。
年はそんなに離れていない。妹が早生まれなので、パッと言われると分からなくなるが、確か3歳差だったはずだ。
「人少ないといいねー」
「どーだろね」
信号が青に変わり、対向車をみつつ会話をする。
三台ほど通り過ぎたところで、安全を確認しつつ、ハンドルを切る。
そのまま入った道路を、真っすぐ進んでいく。
「CD変えてい?」
「ん?どぞ?」
変えるほどのCDは乗ってないと思うが。
ほとんど同じ人のやつだし。趣味が偏りまくっている。
妹とは、そのあたりの趣味はそこまで違わないので、文句はないと思うが。
……と思ったが、何をしている。
「もってきた♪」
「……」
そうですか。としか言いようがないが。しかもよりによって、唯一趣味の合わない人のCD。
ま、そんなに長時間にはならないだろうからいいか。
特に文句もなく助手席に座ったあたりから、なんとなくそんな気はしていたし。いつもは後ろに座るからな。
「~♪」
「……」
楽しそうで何より。
久しぶりに二人で出かけられたし、こういう時くらいは飲み込むものだろう。
姉としての立場上、こういうのは慣れてしまっている。
「ぁ、あそこのコンビニ」
さした先に、道路の先にあったのは、緑色の看板。
いつも行くコンビニではないが……。
「あそこで良いの?」
私はどこでもいいにはいいが、変なところこだわりがある妹なので、念の為の確認をする。
これで、ついてから何もないから他に行きたいとか言われても、さすがにめんどくさい。私はそこまで車の運転はすきではない。
「この辺のコンビニあそこしかないもん」
「あそ……」
ならいいかと、スピードを落とし、ウィンカーを出す。
コンビニへと入り、入り口近くの駐車場に止める。
……なんでコンビニの駐車場ってこんなに広いんだろうな。トラックとかが止めるためなんだろうか?それにしたって広いよなぁ。家の近くにあるコンビニなってもっと広い。そんなにいるかと思う程に広い。いるんだろうけど。
「ほい」
車のエンジンを切り、鍵を抜く。
その間に妹は助手席から降り、先にコンビニへと入っていく。
それを追うように車を降り、鍵かけ、確認をし、コンビニへと向かう。
何を買いに来たんだ……
「アイスかい……」
「あっついんだもんさ~」
距離的にもう少しで着くはずなのだが、このタイミングじゃないとダメだったかそれ。
確かに暑いには暑いが、車内は冷房効いているはずなんだけど。
あと、ごみが残るから辞めて欲しい。
「……」
何にしようかと悩んでいる妹を置き、私は奥にある飲料水の方へと向かう。
ここまで水分を摂っていなかったことに、遅ればせながら気づいたので、水を買うことにした。自覚した途端に喉が渇き始めた。1本でいいか。あれにも飲ませないといけないが、お互いそんなに量は飲まないし。
「……決めた?」
「うん」
目的のものを見つけ、いつの間にかそばに来ていた妹に声を掛ける。
手に持っていたのは、カップアイス。よりによって、大き目のごみが残るやつ。
……仕方ない。袋貰うか。
「あとはもういい?」
「だいじょぶ」
確認を終え、そのままレジへと向かう。
ありがたいことに混んではいなかったので、そのままレジ台に商品を置く。
「袋お付けしますか?」
「お願いします」
スマホでアプリを開きつつ、応える。
「お支払いは―」
「バーコードで」
私が支払いを済ませている間、妹は読みもしない雑誌コーナーを眺めていた。
「ありがとうございました~」
「ありがとうございます。」
ほとんど聞こえないかもしれないくらいのボリュームの声で、お礼を告げつつ店を出ていく。妹はいつの間にか後ろにいて、袋を持っていた。
「んしょ」
「あれスプーン……あった」
車に乗って早々、アイスを取り出す妹。
私は水分補給をしつつ、車にエンジンをかける。
妹にも飲むようにペットボトルを渡し、そのまま助手席側のホルダーにおいてもらう。
ペットボトルは、運転席で飲むには向いていない。
「ちゃんと案内してよ~」
「はいな~」
目的地は、家族で行ったことは何度かあるが、自分の運転で行ったことがなかったのだ。
なんとなく道は覚えてはいるが、どうにも曖昧なところがあるので道案内を頼んだ。
そも、行きたいと言ったのは妹なので。
「たべる?」
「いらん」
車を運転しているやつにはできない。
ただでさえそこまで得意でもないし、好きでもないし、まして慣れていない道なので。そんな余裕がない。
あと、普通にアイスはあまり食べない。
「次の信号右~」
「ここ……?」
「そ~」
右折……。
あー、なんとなくわかってきた。
後は直進な気がする。
「あともう真っすぐ?」
「んー………ですな」
よし。もうほとんどついたも同然だ。
あのコンビニ意外と近かったんだな。
「……」
「……」
そこから、お互い無言。
車内では、妹の持ってきたCDの曲が流れている。
それをなんとなく聞きながら、車を進めていく。
「……」
「……」
この無言を気まずいとも思わないのは、家族ゆえか。
あとはこの道を……。
駐車場にはいるのは……
「あそこじゃない?」
「あ、あれか」
さした先にあった入り口へと車を向かわせ、駐車場へと入る。
車を見た限り、人はほとんどいないようだ。
ちらほら、車が止まっているが、ほとんど大きめの車。家族連れがきてるんだろうか。
運よく日陰になっているところが開いていたで、そこに止める。
前から突っ込だ。バック駐車は苦手なんだ。
「ついたー」
「ん゛……」
車を停め、降りる。
さすがに疲れたな……。
慣れていない道だったのもあって、無駄に体が緊張していたのかもしれない。
固まった体を伸ばすように。背伸びをしつつ。
大きく、息を吸う。
「……ん」
潮の匂いが、鼻をつく。
「行こ!」
「―っわ!」
いつの間にか隣に来ていた妹に、ぐいと手を引かれ、されるがままに連れていかれる。
そのままの勢いで、階段を昇っていく。
防波堤を挟んで向こう側。
「……久しぶりに来たなぁ」
「ねぇ~」
大きな、広い。
海が広がる。
どこまでも続くその海は。
太陽の光を反射して、キラキラと光っている。
眩しいと思う程の光で、その身をより美しく飾っている。
砂浜にほとんど人は居ない。
まぁ、田舎だし。ここはその中でもはずれの方にあるから、この辺りの人ぐらいしか来ないんだろう。
……だからこれだけキレイなのかもしれないが。
「……」
「おねーちゃぁーん!!」
いつの間にか、波打ち際まで走っていた妹が、こちらに向けて手を振る。
年甲斐もなくはしゃいで……可愛いやつだ。
濡れるといけないからか、サンダルは片手に纏めて持っている。
「……」
まぶしいなぁ……。
「……」
晴れた空の下。
楽し気に笑う妹。
私の可愛い。
大切な。
―妹。
「……」
はしゃぐ彼女を見て、胸の内に浮かぶこれは、いいモノではない。
けして。抱いていいモノではない。
「……」
それでも。
思わずにはいられない。
願わずにはいられない。
「……」
そんな私を、きっと嗤うだろう。
あざけるだろう。ののしるだろう。
「……」
それでも。
それでも。
「おねーちゃんもおいでよ~!!」
「ん……」
思うことも、願うことも、愛することも。
お題:晴れた空・妹・嗤う