表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき2

姉妹

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくきゅう。

 


「次右ね~」

「りょ~」

 交差点を、指示通りにウィンカーをだし、右折レーンへと入っていく。

 目の前に車はいなかったが、タイミング悪く赤信号になり止まる。

「そのあとまっすぐ」

「んー」

 助手席に座り、スマホを片手に指示を出してくれるのは、私の可愛い妹。

 充電の消費が激しいだろうから、私のスマホでやってくれと言ったが。ありがたいことに、妹自身のスマホでポチポチといじりながら、道案内をしてくれる。

「あ、途中でコンビニ寄ろ」

「…あんの?」

「あるある」

 このタイミングで、目的地以外のところに行きたいと言い始めるのは、少々可愛げがないと思うが。

 ま、それも含めて可愛い妹だ。

 年はそんなに離れていない。妹が早生まれなので、パッと言われると分からなくなるが、確か3歳差だったはずだ。

「人少ないといいねー」

「どーだろね」

 信号が青に変わり、対向車をみつつ会話をする。

 三台ほど通り過ぎたところで、安全を確認しつつ、ハンドルを切る。

 そのまま入った道路を、真っすぐ進んでいく。

「CD変えてい?」

「ん?どぞ?」

 変えるほどのCDは乗ってないと思うが。

 ほとんど同じ人のやつだし。趣味が偏りまくっている。

 妹とは、そのあたりの趣味はそこまで違わないので、文句はないと思うが。

 ……と思ったが、何をしている。

「もってきた♪」

「……」

 そうですか。としか言いようがないが。しかもよりによって、唯一趣味の合わない人のCD。

 ま、そんなに長時間にはならないだろうからいいか。

 特に文句もなく助手席に座ったあたりから、なんとなくそんな気はしていたし。いつもは後ろに座るからな。

「~♪」

「……」

 楽しそうで何より。

 久しぶりに二人で出かけられたし、こういう時くらいは飲み込むものだろう。

 姉としての立場上、こういうのは慣れてしまっている。

「ぁ、あそこのコンビニ」

 さした先に、道路の先にあったのは、緑色の看板。

 いつも行くコンビニではないが……。

「あそこで良いの?」

 私はどこでもいいにはいいが、変なところこだわりがある妹なので、念の為の確認をする。

 これで、ついてから何もないから他に行きたいとか言われても、さすがにめんどくさい。私はそこまで車の運転はすきではない。

「この辺のコンビニあそこしかないもん」

「あそ……」

 ならいいかと、スピードを落とし、ウィンカーを出す。

 コンビニへと入り、入り口近くの駐車場に止める。

 ……なんでコンビニの駐車場ってこんなに広いんだろうな。トラックとかが止めるためなんだろうか?それにしたって広いよなぁ。家の近くにあるコンビニなってもっと広い。そんなにいるかと思う程に広い。いるんだろうけど。

「ほい」

 車のエンジンを切り、鍵を抜く。

 その間に妹は助手席から降り、先にコンビニへと入っていく。

 それを追うように車を降り、鍵かけ、確認をし、コンビニへと向かう。

 何を買いに来たんだ……

「アイスかい……」

「あっついんだもんさ~」

 距離的にもう少しで着くはずなのだが、このタイミングじゃないとダメだったかそれ。

 確かに暑いには暑いが、車内は冷房効いているはずなんだけど。

 あと、ごみが残るから辞めて欲しい。

「……」

 何にしようかと悩んでいる妹を置き、私は奥にある飲料水の方へと向かう。

 ここまで水分を摂っていなかったことに、遅ればせながら気づいたので、水を買うことにした。自覚した途端に喉が渇き始めた。1本でいいか。あれにも飲ませないといけないが、お互いそんなに量は飲まないし。

「……決めた?」

「うん」

 目的のものを見つけ、いつの間にかそばに来ていた妹に声を掛ける。

 手に持っていたのは、カップアイス。よりによって、大き目のごみが残るやつ。

 ……仕方ない。袋貰うか。

「あとはもういい?」

「だいじょぶ」

 確認を終え、そのままレジへと向かう。

 ありがたいことに混んではいなかったので、そのままレジ台に商品を置く。

「袋お付けしますか?」

「お願いします」

 スマホでアプリを開きつつ、応える。

「お支払いは―」

「バーコードで」

 私が支払いを済ませている間、妹は読みもしない雑誌コーナーを眺めていた。

「ありがとうございました~」

「ありがとうございます。」

 ほとんど聞こえないかもしれないくらいのボリュームの声で、お礼を告げつつ店を出ていく。妹はいつの間にか後ろにいて、袋を持っていた。

「んしょ」

「あれスプーン……あった」

 車に乗って早々、アイスを取り出す妹。

 私は水分補給をしつつ、車にエンジンをかける。

 妹にも飲むようにペットボトルを渡し、そのまま助手席側のホルダーにおいてもらう。

 ペットボトルは、運転席で飲むには向いていない。

「ちゃんと案内してよ~」

「はいな~」

 目的地は、家族で行ったことは何度かあるが、自分の運転で行ったことがなかったのだ。

 なんとなく道は覚えてはいるが、どうにも曖昧なところがあるので道案内を頼んだ。

 そも、行きたいと言ったのは妹なので。

「たべる?」

「いらん」

 車を運転しているやつにはできない。

 ただでさえそこまで得意でもないし、好きでもないし、まして慣れていない道なので。そんな余裕がない。

 あと、普通にアイスはあまり食べない。

「次の信号右~」

「ここ……?」

「そ~」

 右折……。

 あー、なんとなくわかってきた。

 後は直進な気がする。

「あともう真っすぐ?」

「んー………ですな」

 よし。もうほとんどついたも同然だ。

 あのコンビニ意外と近かったんだな。

「……」

「……」

 そこから、お互い無言。

 車内では、妹の持ってきたCDの曲が流れている。

 それをなんとなく聞きながら、車を進めていく。

「……」

「……」

 この無言を気まずいとも思わないのは、家族ゆえか。

 あとはこの道を……。

 駐車場にはいるのは……

「あそこじゃない?」

「あ、あれか」

 さした先にあった入り口へと車を向かわせ、駐車場へと入る。

 車を見た限り、人はほとんどいないようだ。

 ちらほら、車が止まっているが、ほとんど大きめの車。家族連れがきてるんだろうか。

 運よく日陰になっているところが開いていたで、そこに止める。

 前から突っ込だ。バック駐車は苦手なんだ。

「ついたー」

「ん゛……」

 車を停め、降りる。

 さすがに疲れたな……。

 慣れていない道だったのもあって、無駄に体が緊張していたのかもしれない。

 固まった体を伸ばすように。背伸びをしつつ。

 大きく、息を吸う。

「……ん」

 潮の匂いが、鼻をつく。

「行こ!」

「―っわ!」

 いつの間にか隣に来ていた妹に、ぐいと手を引かれ、されるがままに連れていかれる。

 そのままの勢いで、階段を昇っていく。

 防波堤を挟んで向こう側。


「……久しぶりに来たなぁ」

「ねぇ~」


 大きな、広い。

 海が広がる。

 どこまでも続くその海は。

 太陽の光を反射して、キラキラと光っている。

 眩しいと思う程の光で、その身をより美しく飾っている。

 砂浜にほとんど人は居ない。

 まぁ、田舎だし。ここはその中でもはずれの方にあるから、この辺りの人ぐらいしか来ないんだろう。

 ……だからこれだけキレイなのかもしれないが。

「……」


「おねーちゃぁーん!!」


 いつの間にか、波打ち際まで走っていた妹が、こちらに向けて手を振る。

 年甲斐もなくはしゃいで……可愛いやつだ。

 濡れるといけないからか、サンダルは片手に纏めて持っている。

「……」

 まぶしいなぁ……。

「……」

 晴れた空の下。

 楽し気に笑う妹。

 私の可愛い。

 大切な。

 ―妹。

「……」

 はしゃぐ彼女を見て、胸の内に浮かぶこれは、いいモノではない。

 けして。抱いていいモノではない。

「……」

 それでも。

 思わずにはいられない。

 願わずにはいられない。

「……」

 そんな私を、きっと嗤うだろう。

 あざけるだろう。ののしるだろう。

「……」

 それでも。

 それでも。

「おねーちゃんもおいでよ~!!」

「ん……」

 思うことも、願うことも、愛することも。




 お題:晴れた空・妹・嗤う

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ