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魔法免許(original version)  作者: 石嶋ユウ
魔法免許
3/11

魔法免許(3)

 亜紀は由美の話を聞いて少し冷めたコーヒーを飲んだ後、考えているような姿勢をした上でまた口を開けた。


「由美は悲しいのね。自分の心を救ってくれた恩人をなくしたから」


「そうよ」


 悲しそうに由美が答える。ずっと支えになっていた存在がいなくなったことの喪失感が彼女の心に大きな穴を空けていた。それを知り理解しようとしている亜紀は彼女に何かアドバイスができないかと頭を働かせている。気がつけば、日が落ち始めている。彼女はしばらく悩んだ末、由美に話を切り出した。


「私はね、去年、塾でお世話になってた先生を亡くしたの。勉強以外のこともいろいろ教えてくれた先生で、亡くなった時はとても悲しかったわ」


 重い表情で何も言わず亜紀の話を聞く由美。亜紀は話を続ける。


「でもね、少しして気がついたの。先生は亡くなっても先生が決して居なくなったわけではないって。先生の居た証や思いは残り続ける。そして、私たちはそれを生きる糧の一つにし続ける。それが、先生にできる弔いなのかなってね」


 悲しむだけが全てではない。残された人々が今は亡き人の意志を糧に生きていくことこそ、亡き人への弔いではないか。亜紀の言葉を聞いて由美の心に一つの光が差し込んだ。


「私、見えた気がした。悲しんだ後で、私にできることが」


 そう語る由美の表情は清々としていた。彼女の言葉を聞いて亜紀は微笑んだ。


「よし、じゃあ心が晴れた記念にパンケーキを食べよう」


「うん。でも、冷めちゃってるけど大丈夫」


「あ…… 」

 直後二人は冷めたパンケーキが可笑しく思えて笑い合う。由美の心は雲が消えて、晴れ晴れとしていた。



「じゃあ、また明日」


「また明日」


 二人はパンケーキを食べ終えて別れた。亜紀と別れた由美は昼間できなかった魔法を試そうとしていた。


「雑念を払って、行きたい場所を思い描く…… 」


 小さな声で呟く。喪失感の乗り越え方を知った今の彼女は目の前のことに集中している。手のひらの上でゆっくりと指でサークルを作る。次第にリングが現れ、彼女はそれを近くの壁に向かって投げた。


 すると、放ったリングが由美の自宅の前へと繋がっていた。彼女は魔法を使うことに成功したのだった。


「やった。できた」


 由美は思わずガッツポーズをする。彼女は自分の使える魔法がまた一つ増えたことをとても喜んだ。


 リングを潜って、家に着いた由美。玄関を開けると彼女の母がやってきた。母は彼女の朝の様子を見て心配していた。先に口を開いたのは由美だった。


「ただいま」


 元気な口調で挨拶をする。


「おかえり」


 心配していた母だったが、彼女の言葉を聞いて安心する。彼女の母は何も言わずにただ、“おかえり”と言うだけだった。そこには確かな繋がりが存在している。


 由美は自室に戻ると今日感じた思いを書き残すために、そして、大好きな作家を弔うためにパソコンを立ち上げて、ブログを綴った。


「できた…… 」


 ブログを書ききった彼女は満足していた。そして眠りについた。



 朝が来た。スマホのアラームが鳴り響く。スマホを魔法で手元に持ってきてアラームを止める。リビングに行きテレビを見ながら、目玉焼き入りのトーストとコーヒーをいただく。準備を整えた由美は玄関を出ようとする。今日もまた魔法教習所での講習だった。玄関を出る時、彼女は元気よく挨拶をした。


「行ってきます」




日付:5月4日

タイトル:緑彩花に捧ぐ


 今日の朝、私が尊敬する作家の緑彩花が亡くなったというニュースが飛び込んできた。

 彼女の死を悲しんでいるファンも多いと思う。私も彼女の死がとても悲しくて、この悲しみをどこへ持っていけばいいのか、私は彼女を弔うために何ができるのかを一日中考えていた。

 そんな中、友人が思いがけない答えをくれた。“残された者にできる弔いは悲しむことだけじゃない。亡き人が残してくれたものを大切にすることも私たちにはできる。”という友人の言葉に私は気づかされた。

 私にできることは、彼女の残してくれた数多の作品を、メッセージたちをこれからを生きるための力にしていくことで、私は彼女が作品を通して教えてくれたものを受け継いで、人の役に立てるようなことをしていきたい。

 それが、私にできる作家、緑彩花への弔いだと思っている。

 緑彩花先生、今までありがとうございました。 

 これからもよろしくお願いします。


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