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魔法免許(original version)  作者: 石嶋ユウ
魔法免許
2/11

魔法免許(2)

「そうだよ、そういうこと」


 講師は淡々と、だが優しい口調で語りかける。由美は少し複雑な気持ちになった。普段よりも講習に集中できていない。と彼女は自らを分析する。彼女の表情が曇る。講師はその顔を見て彼女の心に何かあったということを読み取った。


「松永さん、この魔法、次の講習までにできるようにしておいて。今はできなくても良いからさ」


「え、ですが…… 」


「いいから、いいから」


 講師は優しく提案した。彼女は自分の心を見抜かれたようで少し、恥ずかしくなった。だが、今の自分にはこの魔法ができないということは十分に理解していたため、彼女は悔しかったがその提案を受け入れた。


 講習が終わり、廊下を歩く由美の心は意気消沈としていた。彼女が歩いていると講習終わりの亜紀が由美のすぐ側までやってきた。亜紀が口を開く。


「今日はどうでした? 」


「……うまくできなかったよ」


「そう」


 悔しそうに由美は語る。それに優しく包むような声で返しを入れた。



 由美と亜紀は落ち着いて喋れる場所を探して教習所から移動し、街の中心部に出た。中心部に着いて程なくして、二人は落ち着いた雰囲気のカフェを見つけた。店内に入りそれぞれがコーヒーとパンケーキを頼んで、席に着いたところで、亜紀は話を切り出した。


「今日の講習で魔法ができなかったのって、やっぱり朝の話題にも出た緑彩花が亡くなったってことが理由? 」


「ええ……」


 由美は図星を突かれた気持ちになった。


「なんで、そこまでショックなの?」


「……中学生の頃ね、思ったの。私には何も無いなって」


「うん」


「それで、なんか虚しくなって……、周りが羨ましくなってね。みんなは何かしろの目標を持っていてさ、楽しそうに生きてるのよ。あの時の自分には目標が無かったからさ」


「で、そんな当時の由美に何があったのよ? 」


 尋ねる亜紀。由美はほんの少しの間を置いて再び語り始めた。


「中学二年の夏休みにね、何気なくテレビをつけていたら『希望をください』っていうドラマをやってたの。それは、魔法使いの少し辛辣なお姉さんが主人公で、彼女が希望を持てなくった人々を手助けするって話なの。ゲストの登場人物が自分には何も無いと思っていて、周りを羨んでいたの。そのキャラがまるで私みたいと思ったの」


「うん、それで? 」


「そしたら、主人公がゲストのキャラにこう言ったの、”私だってそう思ったことがある。でもね、誰かが持っているものがあなたの欲しいものだとは限らない。だからこそ、私たちは生き続けているんじゃないかな。欲しいものを探し続けるために。“ってね。私にはこの主人公が言っていることがとても響いたの。何も無いと思ったいた人でもああやって、誰かの役には立っているんだと思って。希望をもらった。その後、このドラマの原作者を調べたら、緑彩花だったの」


「つまり、緑彩花の物語に救われたのね」


「そうよ。それで、彼女の作品のファンになって、私もああいう風に人を助けられるようになれたらなと思った」


 由美は自らの過去を振り返りながら、優しい気持ちで亜紀の疑問に答える。

由美は話を続ける。それを亜紀は真剣に聞いている。


「その後、私は緑彩花が書き残した厳しくも優しい世界が大好きになった。彼女が書いた作品はほぼ全て読んで、作品への感想を綴ったブログを開いた程よ」


 由美の感情が炸裂する。彼女の話はまだ続く。


「そして、私は一つの夢を持った。かつて見たあのドラマの主人公の仕事だった、魔法カウンセラーになる夢をね」


 魔法カウンセラーという職業はこの世界では当たり前に存在する職業で、一定数の人間がこの仕事で生計を立てている。主な仕事は悩みを抱えたり、苦しんでいる人と対話をして助言をするなど主な業務は基本、カウンセラーと変わらないが、必要に応じては催眠魔法を利用して顧客の精神状態を安定した状態にさせることもあるため、カウンセラーと魔法カウンセラーは別の職業とされていて、魔法カウンセラーになるためには魔法免許や専門の知識などが必要である。


 由美は少し口を休めてからまた一つ、思いを吐露しようとする。


「緑彩花は私に希望をくれたの。だから、つまり…… 」


 由美は言葉に詰まった。悲しい事実であるが故に思いを言葉にできずにいる。少しの間、気持ちを落ち着かせるために二人は沈黙する。

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