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73 今までの種明かし その1 ヘンリーの成敗

「お待ちなさいっ!!」


扉を大きく開いて、部屋の中に入ってきたのは他でもない母だった。右手には何か束になった書類のようなものを持っている。


「お母さんっ?!」


「ゲッ!マ、マダム・・ッ!」


「テアを離しなさいよっ!この薄汚いサギ野郎のドラ息子がっ!」


続いて部屋に現れたのは私の大切な親友キャロルだった。おおよそ貴族令嬢とは思えぬ口調でヘンリーをののしる姿はたくましかった。


「キャロルッ!」


私は涙目でキャロルの名を呼んだ。


「キャ、キャロル・・ッ!」


ヘンリーは明らかに狼狽した様子で私の肩から手を外した。


「テアッ!こっちよ!」


キャロルが手を伸ばした。


「キャロルッ!」


私は必至でキャロルの元へ走った。


「ま、待て!行くなよっ!テアッ!」


ヘンリーが追いかけてこようとしたところに母が叫んだ。


「その薄汚い手で勝手に娘に触るんじゃないっ!」


キャロルの胸に飛び込み、母を振り向いた。するとあろうことか、母はいつの間にか両手にダーツを持って構えていた。


え?ダーツ?!


そして―


ヒュッ!

ヒュッ!


目にも留まらぬ早業でヘンリーめがけてダーツを投げる!


ダーツの弓はヘンリーの髪の毛と頬スレスレを通り越して後方の壁に、トスッ!トスッ!と突き刺さった。

えええっ?!う、嘘でしょうっ?!


「ヒエエエエエッ!!」


ヘンリーは自分が危うくダーツの的にされかけたことで情けないくらいの悲鳴を上げてその場にへたり込んでしまった。


「さすが、おばさま。毎年ダーツの大会で優勝しているだけの腕前だわ。」


キャロルはパチパチと手を叩いて喜んでいる。


「え・・?キャロル・・・お母さんがダーツをやる事・・知っていたの・・?」


娘の私すら知らなかったのに?!


「ええ、勿論よ。私の母とテアのお母さんは子供の頃からの親友で、互いにダーツのライバル同士だったのだから。ただ、テアのお母さんは嫁ぎ先からおしとやかにするように言われていたから・・テアにも内緒にしていたのね。毎年夏休みに実家に遊びに来ていたのもダーツの練習が目的だったのよ?」


「そ・・・そうだった・・・の・・・?」


なんてことだろう。母の特技をこんな形で知る事になるとは思わなかった。一方、母はヘンリーをネチネチ問い詰めていた。


「ヘンリー。良くも娘に酷い事をしてくれたわね?ようやく作戦通りにテアがお前に興味を無くしてくれたと思えば、今度は何を血迷ったかテアに近づいてくるなんてね?」


「え・・・?作戦通り・・・?」


これも一体何の事やらさっぱりだった。するとキャロルが私の手を握り締めてくると言った。


「ごめんね・・・テア。貴女に内緒にしてた事があるのだけど・・今から正直に話すわ・・・。でも、私を嫌わないでくれる?」


キャロルは申し訳なさそうな目で私を見つめてきた。だから私は言う。


「私がキャロルを嫌うはずないでしょう?だって貴女は私にとって大切な人だもの。」


「本当!嬉しいっ!大好きよ、テアッ!」


キャロルは私に思いきり抱きついてきた。


「私も・・・キャロルが大好きよ。」


そっとキャロルの背中をなでると、ヘンリーの情けない声が聞こえてきた。


「う、嘘だろう・・?テア・・お、お前・・そっちの趣味だったのか・・?」


するとキャロルが私を抱きしめたまま言った。


「うるさいわね!人を好きになるのに性別なんか関係ないんだからね!尤も・・本気で人を好きになったことのないヘンリーには分からないでしょうけど?」


「な、なんだよっ!そ、そういうキャロルだって・・俺とデートしてるときまんざらでもなかっただろう?!」


「バッカね~!まだ分からないの?!演技よ!え・ん・ぎ!テアからあんたを引きはがすためのねっ!言っておくけど私はあんたなんかミジンコ程にも興味を持っていないんだからっ!」


「ミ・・・ミジンコ・・そ、そんなぁ・・・。」


がっくりするヘンリーに母の容赦ない言葉が降り注ぐ。


「お前のようなクズ男に大切な一人娘を渡すわけにいかないからね・・私がキャロルに頼んだのよ。テアがお前に興味を無くすように協力してほしいって。」


「え・・?そう・・だったの・・・?」


ようやく今までの謎が少しずつ解け始めた―。


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