48 意外な展開
「今朝は右腕が自由になったから食事をするのも楽だわ。」
マリに髪をセットして貰いながら話しかけた。
「ええ、そうですね。はい、テア様。これでよろしいでしょうか？」
マリに昨日ダイアナから教えて貰った髪型にして貰った。
「ありがとう、マリ。とても素敵だわ。」
ドレッサーに映る自分を見ながらマリにお願いをする。
「今朝のテア様は何だか楽しそうですね？」
マリが話しかけてきた。
「そう？分る？」
だって、今日から私はキャロルとヘンリーの恋のお手伝いをしようと心に決めたから。
「ええ。でもテア様が明るいと私も嬉しくなります。」
「ありがとう、マリ。それじゃ食事に行って来るわね。」
カタンと席を立った。
「はい、行ってらっしゃいませ。」
そして私はマリに見送られて、ダイニングルームへと向かった。
ダイニングルームへ向かう時、廊下で母とすれ違った。
「あら、おはよう、テア。」
「おはようございます、お母さん。」
「もう右手は治ったのね？」
「ええ、だからもう1人で食べられるからね？」
「ホホホ・・・。もう昨日みたいな嫌がらせはしないわよ。安心なさい。」
あ・・・やっぱり昨日は嫌がらせだったのか・・。
「そ、それじゃ・・・私、食事に行って来るわ。」
「ええ。私は今朝もいらないから・・・テア。1人で食べていなさい。後から顔を出すから。」
「はい。」
そして私は母と別れて、再びダイニングルームへ向かい・・部屋に入り、驚いた。何とテーブルの前にはあろう事かヘンリーが座っていたからだ。そしてテーブルの前には既にテーブルパンや、シリアル、サラダ、ベーコンやオムレツ・・など様々な朝食が用意されていた。
「やっと来たか？テア。」
「え・・？へ、ヘンリー。」
「何だよ？折角こうして来てやったのに、その妙な顔は・・ん？何か今朝もいつもと違うな・・？」
「え？そうかしら？」
いつもと違う・・。化粧をしているからだろうか？いや、それよりも・・・。
「どうして貴方がここにいるの？」
「お、お前・・・何だ？その言い方は・・今朝も腕が不自由だろうと思って俺がお前にまた昨日みたいに食べさせてやろうと気を利かせて、折角、わざわざ来てやったと言うのに・・。」
「え・・？でも私、そんな事頼んでないわ。もう必要ないもの。」
「な・・何？！テアッ！お、お前・・俺が必要無いだってっ？！」
ヘンリーは何か誤解をしているようだ。私が必要ないと言ったのは食べさせて貰う必要は無いと言う意味だったのだけど・・。でも、そう思って貰った方が都合が良いかもしれない。私はこれからヘンリーと距離を空けてキャロルと恋仲にさせてあげると決めたのだから。それに昨夜『今までありがとう』と伝えたのに・・・私の意図が伝わらなかったのだろうか？
だから私は言った。
「ええ、そう取って貰っても構わないわ。」
チクリと痛む胸をごまかしながら言う。
「な、何だって・・テア、お前・・。」
でも、ヘンリーが来たなら母にも教えてあげよう。
「ヘンリーも朝食まだなのでしょう？あ、今母に伝えて来るわ。ヘンリーが来たって。後から来る予定だったのだけど・・・貴方が来たなら今呼んでくるから。3人で朝食にしましょう。」
カタンと席をたつと、途端にヘンリーが真っ青な顔で呼び止めた。
「お、おいっ！待て、呼ぶなっ！頼む、呼ばないでくれっ！お、俺は・・もう行くからっ！い、いいか？ここに来たことも・・内緒にしておけよっ？！」
ヘンリーは慌ただしく立ち上がり・・・まだ背中が痛むのか、時折背中をさすりながらダイニングルームから慌ただしく出て行った。
「ヘンリー・・一体何しに来たのかしら・・・？もしかして・・・キャロルとの仲を取り持って貰いたくて来たのかしら・・・？」
まあ、ヘンリーも帰った事だし・・・。
私は椅子を退いて座ると、朝食を開始し・・・結局母は姿を見せなかった―。
