1話 攻撃は最大の防御
私は元日本人である。名前も顔も、親の顔でさえ思い出せないけど、どんなものがあった、どんなことがあったなどはうっすらと覚えているだけだけど。
“元”と言ったから察している人もいると思うけど、そんな私は転生した。魔法が存在する世界に。しかも貴族で、それも公爵家の令嬢。コレは…乙女ゲームの悪役になっちゃったパターンですか?(白目)私ラノベは読んでたけど乙女ゲームやったことないのだけど。
公爵家の令嬢ってだけで悪役とは限らない、と言い切れれば良かったのだけど。我がオルキヌス一族はこの国、ドラルド王国で黒の公爵と呼ばれており、国を裏から支える一族で、王家と並ぶ兵力を持ち、更にオルキヌス一族の者は全員魔力が多く、武術に優れる。そして、一族全員が冷酷無慈悲な性格であり、敵になったら最後、地獄の果てまでも追いかけ死へと誘うと言われている。
…悪役やん。もう既に悪役やん。え、この家で私生きていける?
「エリュ〜今日も可愛いなぁ!」
「ありがとうお父様。」
生きていけてるのよな。ちなみにこのちょっと気色悪い…ゴホン。デレデレしているのは私の父、ハルス・オルキヌス。“エリュ”というのは私、エリュネシアの愛称だ。
で、この父、濃紺の髪に赤の目で瞳孔が縦の、物語で言うところのイケメンの悪役みたい(でもなく悪役)な顔で、仕事中はちゃんとかっこ良いのだ。(つまり今はかっこ良くない。)
まぁでも私を見てデレデレしちゃうのはしょうがない。だって私可愛いもの。ナルシストでは無く、事実だ。母譲りの緩やかにウェーブしている髪に、少しツリ目のパッチリとした紫の目は瞳孔が縦。そして真っ白な肌の美少女だ。私はラノベでよくある自分がすごい美人なのに無自覚な主人公とは違うのだ。使えるものはどんどん使っていく所存である。きっと将来は冷たい系の美女になるだろう。母の見た目からして胸の成長も期待できる。
ちなみにこの間、父は私を撫で続けている。
「父上、いつまでやっているのですか。エリュが動けないでしょう。」
「「お兄様!/ルーフェスか。」」
救いの神こと兄のルーフェス・オルキヌス。私より3つ年上てで、見た目は父にそっくり。色もおなじだ。ちなみに私10歳である。なので兄は13歳だ。
「ではお父様、お兄様、私はこれで。」
「あぁ。」
「また後でねエリュ。」
父達と別れ、私は自分の温室へと移動する。そこには赤や紫、青の花や木々があり、蝶が舞う幻想的で恐ろしい所。だって、ここにあるのは全て猛毒だから。
そして、オルキヌス家の恐ろしいところはまだある。同じ公爵家しか知らないこと。
まず、オルキヌス家は本家だけでなく、分家がいくつもある。そして、分家も本家も関係なく、3歳になった子供は致死量にはギリギリ満たない毒を飲む。それは闇属性の魔法に適性がある者には効かない特殊な毒。これが1回目のふるいだ。まあ、1回目と言うことから分かると思うけど、もちろん2回目がある。それは5歳の時。
1回目の時にクリアした者はある程度の武術を学ばされるのだが、それでも5歳。訳も分からず振り回しているのとほぼ同じである。でも、オルキヌスらしい性格かどうかを調べるために、見た目が愛くるしいが、額に角のあるウサギ型の魔物が放たれた森に短剣だけを持って丸3日閉じ込められる。そこで生き抜くこと、それが合格条件。どこぞの鬼を滅する組織かよ。一応リタイアできるように何人かオルキヌス家の部下が配置してあるらしいがそれも自分で探し出さないといけない。
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これはふるい落としであり、テスト。ある程度のサバイバル知識もある。今までのことを実践すれば良いだけ。めっちゃワイルドなキャンプとでも思っておこう。あ、これ食べられる木の実じゃん。ん、甘酸っぱくて結構いけるなコレ。
«ガサガサッ»
「!」
出てきたのは角ウサギ。目がきゅるんとしていて可愛いな。木の実あるし狩るのはやめとこ。可哀想だし。無駄な殺生はしないので。スルスルっと木に登れば角ウサギの突進もう当たらない。あ、寝るとこどうしよ。下にはウサギいるし…木の上…か。
全っっっっっ然寝れなかった。それにお腹すいた。水も欲しい。下…は居ないね、よし。
「よっと。」
耳と鼻を研ぎ澄まし、水の音、匂いを探す。んーと、東北東の方かな。
─森を歩くこと8分程─
つ、着いたぁ!色、匂い、感触も良し!
「プハッ!ふぅ。」
水の確保はしたものの、やっぱり肉なしはきついよねぇ。
殺すしかないな。
─狩ること10数分後─
「アハッ!見ィつけたァ。」
え?性格変わったって?素です♪それと、言ってることは殺人鬼だけど、ちゃんと一撃で仕留めてる。苦しめるのはナンセンスだ。
とは言っているものの、この時のエリュネシアを見たある部下は死神にしか見えなかったと後に語った。
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そんなテストに合格し、無事私は本家入りしたのだ。もちろん兄も例外ではないし、実を言うと異母兄妹である。本家入りした子供は母親と共に本家の屋敷に住むのだ。兄の母はとても臆病な方で、更に兄には弟がいたため本家に住んでいないが。母は図太いし、なんなら「あらあら邪魔くさいわねぇ。」と魔物を倒せるくらいであるため普通に本家入りしている。
前世から考えればありえないかもしれないが、そんなテストや、我が一族のこのシステムに全くと言っていい程に恐れがない。それがオルキヌスの血なのだろうね。それに、オルキヌス家はこんな事をやってはいるが、テストに合格した者も、落ちた者にも愛情深い。落ちた側からしたら違和感や恐れしかないと思うけど。
でも、1度懐に入れたらとても愛情深いのが我が一族の特徴なのだ。
だから、家族に手を出したり、庇護の対象を害した者に慈悲はかけない。絶対に。
おっと、温室の話からだいぶ逸れてしまった。軌道修正、軌道修正。という訳で私は自分の身や家族の身を守るため、世界最強の毒を持つ蝶、ヘルバタフライを飼育している。ヘルバタフライの餌は毒を含む花の花粉。また、魔物の1種であるため、飼い慣らすために魔力を与え、やっっっっっと飼い慣らした子達だ。
「みんな元気?さぁ並んでー。アン、ドゥア、トワ、キャトル。」
察した人もいると思うが、フランス語の数字、1,2,3,4からとった。コラそこ!安直とか言うな!
「フルルルルッ」
「フルルッ」
んふふ、可愛いわぁ。色も紫で、光を当てると青く輝く美しい羽を持っているのだ。名前も付け、私の従魔となったことで、私にヘルバタフライの毒に対する耐性がつき、また、ヘルバタフライに毒の出し入れを指示することもできるようになった。
いやほんと大変だった。魔力操作も学んだし。毎日武術の訓練だって、座学だってある中でだったもの。
ヘルバタフライと戯れつつ振り返ると、ほんと私頑張ったなって思う。
「またね、みんな。今日はお出かけなの。」
「フルルルル?」
お出かけ?というように首を傾げるみんなにクスッと笑いつつ「そう。今日は私の得意な魔法属性と魔力量を計りに行くのよ。」