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魔王と聖女の転生日記 9


父様の畑は魔法道具を利用したものだ。普通農業をする人間は平民で、彼らは魔力を持っていてもそれを魔法として使う方法を知らないのが当たり前だ。そのために、魔法道具で環境を整えている父様の畑は物珍しい。



「では、魔法を使って栽培している作物に適した環境を作り出しているのですね」



「そうだよ。母様が使っている野菜のほとんどはこの畑で作っているからね。春にとれるものも、秋にとれるものもあるよ。勿論、夏も冬もね。この畑には季節は関係ないから。手間はかかるけれど、色々なものを作るにはそれが一番いい」



魔法を使った農業なんてできる訳がないと皆は避けるけれど、やってみればそこまで難しいことではないんだよ。そうニコニコと父様は笑いながら説明してくれる。


子供が自分の趣味に興味を持ってくれたことが嬉しいのか、どのような魔法を使っているのかまで俺に教えてくれた。


売ることが目的の農家ならば一つの作物を広大な畑で一遍に育てた方が手間がかからないと考える。


しかし、父様の場合は売ることが目的ではなく母様が使うものを作ることが目的なので、量はそこまで多くなくていい。


その分決められた面積で多くの種類の作物が育てられるように、複数の魔法道具を揃え、それを合わせて扱うことで、それぞれの作物が育ちやすい環境を作る。



(ふむ。育てている作物ごとに土も変えられている。水魔法で降水量を調節しながら雨を降らし、気温は火魔法で変えているのか。父様は簡単だと言っているが、そう易々とできるものではないな)



降水量や湿度、気温などを魔法で調節するのは難しい。ほんの少しでも気を抜けばすぐに植物を枯れさせてしまうだろう。俺でも農業の適切な知識がなければコントロールに苦労するはずだ。



「うん?どうしたんだい?」



見かけは五歳の俺に嬉々として高難度の魔法を教える父様を見つめる。



(この男、頭がいい)



その代わり、普通の五歳児がこんなものを理解できるはずもないという常識は欠けているようだが。



「アリス、この夫婦はこの世間で一般的なのか?悪いが俺は人間の社会には疎くてな」



父様がまた説明することに夢中になっている時を狙って、気づかれぬようにアリスに囁く。アリスはふるふると首を振った。



「ううん。父様と母様、普通じゃない」



「やはりか。魔族でも普通は貴族がたかが畑仕事の為に魔法を開発する者はなかなかいないぞ。それに、この魔法は使い道によっては戦争に使える」



父様はそこまで考えてはいないだろうが、この魔法はその土地の気候を変えてしまえる力がある。


例えば、敵国に雨を降らせないように操作する。そうすれば、その国には作物が育たなくなる。敵は兵糧が尽き、戦わずして勝利を収めることができるだろう。



(国に武器として売ればどれ程儲かるか)



俺が魔王であった頃ならば、ソイツが一生遊んで暮らしても余るほどの褒美をやるな。戦争の武器としても、国の大規模な飢饉を防止する策としても使い道は多い。


金を湯水のように使う貴族の者ならば、すぐにでも売って金を莫大な金を手に入れるのだろうが…。



「レオ。父様なら自分の魔法、戦争に使われたくないって断ると思う」



「だろうな。流石の俺もこれを見れば分かる」



こうやってアリスと話している内にも、収穫用の鋏を取り出し、キラキラとした目で野菜を見て、「あぁ、このトマト!!最初は上手くできなくて可哀想に葉も萎れていたけれど、こんなに元気になったんだね!!やはり水魔法の水分量を変えたのは正解だったんだ!」と愛でる父様の姿。


貴族の闇を嫌という程に見てきた俺でも、この人が金や権力のためにこの魔法を売るとは思えない。



「南瓜ももうすぐできるかな?お前はもうすぐ我が妻に極上のパイにしてもらうんだ。とても名誉なことなんだぞ!!」



「じゃがいも!!僕は昔はお前のことが嫌いだったよ。味がないのに、変な食感で!!でも、今は違う。お前が変な味だったのは料理をする者が悪かっただけなのだね!お前は酷い濡れ衣を着せられていた!本当のお前はとても美味しいものだというのに!」



収穫していく野菜の一つひとつに声をかけていく父様。


…今世の父は、頭のネジが何本か外れているのだろうか。



「父様は魔法を作るのが好き。野菜を作るのも好き。レオも魔法を作るの上手いから、きっと父様みたいになると思う」



「…あんな風に野菜と会話するの御免だがな。水上を歩く魔法のことか?あんなもの誰だって作れるだろう」



「ううん。誰でもは無理。父様も凄く有名な学者、でもある」



手を動かしながら話を聞けば、父様はどうやら国でも有名な学者らしく、今までにも様々な魔法を作ってきたらしい。


しかし、やはり変わり者であることは同じらしく、戦闘用の魔法を作ってくれと言う依頼人に頭から花冠が作られ続ける魔法を教えたり、暗殺用の毒を注文した者に惚れ薬を開発して渡したりなど、なかなか愉快なことをやっているのだそうだ。


個人的には、毒を盛るつもりが惚れ薬を盛ってしまった依頼人がどうなったのか興味があるな。憎き相手が言い寄ってくるとは。悪夢以外の何物でもないだろう。



「父様は魔法作れる。レオも作れる。でもそれは普通じゃない。二人が賢いから」



「つまり、人間はそんな簡単には魔法を作れないと?」






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